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学生研究員レポート第一弾「デジタルの向こうにある物語」

みなさん、こんにちは!アドビ未来デジタルラボ編集部です。
ラボでは、5月に学生研究員を募集し、7月に学生研究員プロジェクトを始動しました。

学生研究員プロジェクトでは、11名の学生が、3グループに分かれ、3月までグループで設定した研究テーマについて、調査・研究を行い、グループごとにワクワクするデジタル社会の未来に対する提言を行う予定です。

このnote記事は、各グループの活動の進捗をまとめたものとなります。グループごとに、学生が執筆を行いました。第1弾となるこの記事は、デジタルと伝統文化グループ「チームアルティ」からのレポートです。


1)デジタルの向こうにある物語

私は、豊かな河川や広大な森林に囲まれ、お城や武家屋敷、酒蔵などの古い街並みが残る地域で生まれ育ちました。

撮影:平子七海

夏には広い青空の下で田んぼの稲が太陽に照らされて輝きながら風に揺れ、寒さの厳しい冬には街のシンボルであるお城の赤瓦にも雪が積もるような美しい場所です。

撮影:平子七海

しかし、写真には写らないような、その土地で生きる人々の生活や声、重層的な歴史を私たちはどのようにして肌で感じることが可能でしょうか。

あるいは、日本には「祭り」という伝統文化があります。

祭りの場で鳴り響く太鼓や打ち上がる花火の轟音が自分の心を震わすようなあの感覚、背後にある歴史的・宗教的な意味が複合的に結びつくことによって生み出される祭りの独特な雰囲気。

既存のデジタルコンテンツでは、ひとつの「文化」を立体的に、奥深い要素まで伝えきれているでしょうか。

これだけではありません。

観光地化された白川郷の住人たちの声にどれほどの人が耳を傾けようとしているのか。

東日本大震災のデジタルアーカイブから私たちの感受性や共感力の限界を突きつけられてはいないだろうか。

明治神宮外苑を造り上げた当時の人々の声に、今日の私たちはどのようにして傾聴することができるだろうか。

地方の生活文化や伝統芸能というものを考えていくと、そこには、近代化や観光地化していく中で抑え込まざるを得なかった人々の想いや、社会の変化に伴い軽視された葛藤や強制力や複雑性が存在していることに気づきました。

2)文化に息づく“声”

チームの4人で話し合いを進めるうちに、既存のデジタルコンテンツでは、日本の伝統文化や地域の生活文化などを全て含めた「文化」の中に息づく“声”を、どれほど包摂できているのだろうかという問いが生まれました。

そして、興味のある人のみがアクセスできるデジタルコンテンツやアーカイブではなく、インタラクティブ性を高めた新たなデジタルの表現を生み出すことで、既存のコンテンツではこれまで包摂されてこなかった声や想いを浮かび上がらせてみたいと考えています。

そこで、私たちは研究テーマとして、「『形のない声』をデジタルによってどのように形づけできるか」ということを半年かけて問い続けていくことに決めました。

この研究を通して、かつては表層的な部分しか描かれなかった伝統や地域文化の、裏にあるもっと深い想いに光を当て、それらを発信するために、表現としてのデジタル活用を前景化していく必要性を証明できたらと思います。

3)提言レポートまでにリサーチしたいこと

まずは、ひとつの文化の中に、どのような形のない声があるのか、何によって形をなくしてしまっているのかを問うていきたいと思います。

そして、デジタルを“表現”としてどのように活用できるかを考えるためのヒントを集めていけたらと考えています。

美術館をはじめとした文化施設での没入型展示やデジタル花火大会などの企画者へのインタビューや鑑賞者への効果の検証を通して、伝統文化とデジタルを融合させた新たな価値の創造に迫りたいです。

また、地方のソーシャルプロジェクトに関わるクリエイティブディレクターやメディアアーティストの方々が、デジタルで表現すること/発信することについてどんな哲学を持って地方創生や伝統文化の継承と向き合っているのかをインタビューしてみたいです。

さらに、私たちがこれから行う研究の重要な目的のひとつとして、デジタルによる表現を行う過程で零れ落ちた要素をしっかりと見つめていくことを強調したいと思います。

インタラクティブ性を高めたことでその「文化」の本来の形を歪めてはいないだろうか、鑑賞の幅を規定してはいないだろうか、要素を抽出する過程で包摂されなかったものは何か。

これらを通して、改めて広義での「文化」とは一体何なのかを問うていきたいです。

4)「ワクワクする未来」のために私たちが目指すもの

現在、地方創生や地域づくりの文脈の中では、「地域の衰退を防ぐため」「人口減少を食い止めるため」など課題解決の方向における手段として、デジタルというものが語られているように感じます。

しかし、私たちが目指すものは、この現状からいくらか脱し、デジタルをツールや裏方の存在として使うのではなく、人々に見せるものの中にデジタルをもっと大々的に組み込み、デジタルと文化を組み合わせることで新たな価値を創造することです。そして、このことが最終的には、その文化や地方を発信すること・創生することの大きな駆動力に繋がるのではなかと思います。

デジタルは、決まった形を持たず、どこか捉えようがないからこそ、どこまでもどこまでも変わり得て、創造し続けることができます。

ひとつの文化の奥深い魅力や言葉では表しきれないような壮大さ、歴史、そしてその文化圏に生きる人々の想いを、そのままの熱量で届けられるようなデジタルの可能性を信じています。

過去-現在-未来の境界線を攪乱し、デジタルの新たな表現物を生み出そうと追究していく先に、私たちなりのワクワクする未来を思い描くことができたらと思います。

この記事の執筆者

平子七海
高校時代に、福島県で生まれ育った自分史や想いを言葉で紡ぎ発信をする活動を行なったことがきっかけで、人間の“表現”の営みに興味があります。人々の毎日の暮らしの中に息づく精神性や重層的な感情、ストーリーテリング等をデジタルによって可視化し、全く新たな表現物を生み出してみたいです。


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