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日本の子どもたちを取り巻く今?リアルなデジタル体験格差の現状や、それを打開する具体的な取り組み

昨今、子どもたちの教育格差、将来の経済格差が社会課題としてみえはじめています。アドビの2018年の調査では、教育関係者の間で、「創造的問題解決」を学ぶことの重要性と、「創造的問題解決能力」が高いほうが将来高収入の仕事を得やすいということが広く認識されているとわかりました。アドビが定義する「創造的問題解決」とは、人間ならではの創造性に富んだ革新的な方法で、問題や課題に取り組むことを指しています。
 
今回は、困窮家庭の子どもたちへの無料学習会やデジタルリテラシーを育成する教育などを通して、「創造的問題解決能力」を身に着ける機会づくりに力を入れる認定NPO法⼈キッズドアの渡辺由美子理事長に登場いただきました。アドビの教育・ DX人材開発事業本部の小池晴子がお話を伺います。


1)子どもたちを取り巻くデジタル教育の現状。女子に特化したプログラムのワケ

小池:まず、子どもたちのデジタルリテラシー育成について、今の日本ではどのような課題があると思われますか?キッズドアのデジタル教育の取り組みも交えて教えてください。
 
渡辺:このテーマはとても重要だと思っています。従来型の勉強で学力を上げることも大切なんですけど、これから社会で自立をしていくためには、それだけではなくITを使いこなす力が必要です。この力があるとないとでは、将来大きく経済格差が出てしまうことは確かです。
 
わたしたちが困窮家庭の子どもたちと接している中で分かったのは、ご家庭にパソコンがないとか、インターネット環境がないという子が多く、そうした環境で育つと、パソコンやデジタルに対して苦手意識を持ってしまうということ。
 
そこで、この数年は特にITの教育プログラムに力を入れています。2013年ぐらいからいろいろと取り組んできた中で出てきた課題があります。それは女の子がIT、デジタルなどのプログラムになかなか参加してくれないということです。

認定NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子さん

たとえば、プログラミング教室を行うと、男の子は結構参加するのですけど、女の子はそうではない。小学生ぐらいまでは男女問わずみんな参加するのですが、中学生ぐらいになると、「私はそういうの苦手だから」という思い込みでなど、いくらプログラムをつくっても参加しなくなる。そこで、女の子が楽しく、興味を持ってデジタルに触れられるように女子高校生対象「IT&デザインプログラムIFUTO(いふと)」というプログラムを始めました。
 
小池女性を差別しているとか、女の子はプログラミングに向いてないということではなくて、あくまでも女の子たちがデジタルに気軽に入りやすいところを探して、IFUTOができたのですね。

▼アドビブログでも過去にご紹介しています。
https://blog.adobe.com/jp/publish/2022/10/12/corp-cr-kidsdoor-ifuto-projectreport

渡辺:そうですね。絵を描くことが好きな女子、ファッションが好きな女子などが、親しみやすく参加できるプログラムであることにこだわりました。

2)スマホが使えるだけじゃダメなの?パソコンのスキルが必要なワケ

小池:なるほど。一方で「生活に困っている、貧困に苦しんでいると言ってもスマートフォンぐらいは持っているじゃないか。それでいいんじゃないか」と断じる向きがあると見聞きします。スマホだけではなく、パソコンが必要だというのはどんな点で感じられますか?

渡辺:スマホはやはり情報の消費に使うもの。つまり、何かを買ったり、動画を見たり、SNSでやり取りするものですよね。ビジネスをして、収入を得ることを目的としてあまり使わない訳です。ですから、消費側ではなくて提供する側になるためには、パソコンを使える、デジタルリテラシーがあることがすごく重要だと思っています。
 
小池:スマホで情報を消費しているだけでは、新しい価値をつくることができないということですね。普段からパソコンを仕事で使う大人が身近いる子どもたちと、スマホにしか接点がない場合では、子どものデジタルに関する体験量に差がついてしまう。
 
渡辺:キッズドアが約2000の困窮子育て家庭を対象に行なったアンケートでは、大体半分のご家庭にはパソコンがなく、1割ぐらいはインターネット環境もないという状況です。そうなるとやはり家庭だけでデジタルリテラシーを身に付けるのは難しいですよね。
 
小池:そうした理由からIFUTOでは子どもたちに一人1台ずつパソコンを渡して、自分たちでデザインをしながらパソコンに親しみ、販売にも挑戦する機会を作っているんですね。デザインを入り口に、モノづくりをして、売ってみて、その過程で社会の仕組みや経済について実体験をすることができますね。
 
渡辺:インターネット上で見知らぬ人へモノを売るのってすごく難しいですけど、あえてそれに挑戦してみることにとても意義があると思っています。挑戦しなければ、失敗もしないんですよ。失敗しそうだからやらないじゃなくって、どんどんやってほしい。失敗できるって若い子の特権ですから。成功体験だけではなく、やってみることの楽しさ、自分でやることの楽しさを体験してほしいです。
 
小池:IFUTOに限らず、キッズドアの教育プログラムに参加したお子さんたちにはどんな変化がみられますか?
 
渡辺:あまり学校に行けていなかったけれども、プログラムに参加してから、すごく生き生きとして、、高校に進学したというお子さんがいました。こういうポジティブな変化があるのがとってもいいなって思います。


また、わたしたちのプログラムでは全員が発表したり、自分の思いを人前で話したりするようにしています。学校の授業でも発表の場はあると思うのですが、グループ発表だと、話す担当の子、パワーポイントを操作する担当の子、その横でただ立っているだけの子となってしまいがちです。どちらかというと、うちに来るのは、学校では立っているだけになるタイプの子が多いのです。

学校ではあまり話す機会を持つことが無かった子も、ここでは話さなきゃダメだというふうにして、どんなことでも大丈夫だよって話してもらいます。そういうことが積み重なると、みんな度胸がついて話せるようになってくるんです。最初は全然話せなかった子が立派に人前で自分の意見を話せるようになる。すごく成長するんですよ。

3)デジタルスキルを磨くことで将来の選択肢が増える

小池:子どもたちはそれぞれ得意なことが違うと思いますが、その中でデジタルに接する機会があるとか、クリエイティブに挑戦する機会があることで、特に何かの子どもたちのきっかけが増えているとか、成長の形が変わってきていることはありますか?
 
渡辺:はい。先日はプログラムの中で缶バッジをつくりました。子どもたちは缶バッジは買うものだと思っている。それが、実は自分でデザインしてつくれる、しかも、講師は社会で活躍するプロのデザイナーさんです。自分もつくることができるし、こういうことが仕事になると知ることは、子どもたちの意識が大きく転換する良いきっかけでした。

学校の勉強とか受験勉強って、子どもたちにとっては具体的にどう将来に結びつくのか意識しづらいこともあると思うんです。いい大学に入った方がいいというようなところで勝負している子たちだけじゃない。だから、成績でモチベーションを持たせるっていうのはすごく難しいことがあります。でも、こうやって自分で好きなものをつくれるとか、デザインという仕事もあるんだ、とリアルに体験できると、子どもたちが自己有用感、自己肯定感を感じることができます
 
小池:プログラムではアドビのデザインツールを使っていただいています。アドビのツールは学校向けや子ども向けにスペックダウンしたものではなく、実社会のクリエイティブ制作の場で広く使われているものです。だからこそ、自分たちでつくったものが、実際に社会にそのまま出すことができる。デジタルツールが使えることの意味として、そうした面を子どもたちに届けられるといいなと思っています。
 
最後に今後デジタル関係のプログラムで力を入れたいことを教えてください。

渡辺:楽しくプログラムに参加してもらうことが一番ですし、こうしたプログラムはどんどん広げていきたいです。また、オンライン参加のお問い合わせも多くいただいています。来年からはトライアルとして、オンラインで日本全国から参加できるものを検討したいです。
 
小池:アドビもまたぜひご一緒させてください。

渡辺 由美子(わたなべ ゆみこ)
認定NPO法人キッズドア理事⻑
千葉大学工学部卒。大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。2001年から2002年にかけて配偶者の仕事の関係でイギリスに滞在し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。2007年任意団体キッズドアを立ち上げ、2009年NPO法人化。子どもへの学習支援や居場所運営に加え、2020年より新型コロナ感染症の影響を受けた日本全国の困窮子育て家庭への支援を開始。日本の全ての子どもが夢や希望を持てる社会を目指し、活動を広げている。
小池 晴子(こいけ せいこ)
執行役員 教育・DX人材開発事業本部 本部長 兼 ダイバーシティ&インクルージョン推進担当

北海道札幌市出身。子どもの頃から自分で手を動かしてモノを作ったり、ヒラメキとアイデアで身の回りのちょっとした困りごとや使い勝手を工夫をするが大好き。アイデアとモノづくりという文脈で福武書店(現・ベネッセコーポレーション)に入社。22年間さまざまな企画開発に携わった後、もっとヒラメキとデジタルテクノジーの掛け合わせをしたくなりEducaion Technologyのベンチャーを経て、2017年にアドビ入社。「クリエイティビティとは人間の創意工夫のこと」が信条で、次世代と日本社会をデジタルxクリエイティブでよりよくしていくことにパッションを持っている。

▼前回の「IFUTO」ワークショップのレポート記事を読まれていない方はこちらから

▼アドビ未来デジタルラボの最近の活動を詳しく知りたい方は、こちらの記事へ


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