【コラム】「魂の色は何色ですか?」≒「タブラ・ラサ」、というマーケティング的解釈

 私の意識している考え方の一つにジョン・ロックの経験論がある。基本的には、人間の感覚は周りの人間との関係性の中で形作られていくものという意味だ。
 大学受験で古文の勉強をしていた時、貴族の教育方法として「感染教育」なるものを学習した。いわゆる古文常識というものである。貴族は貴族同士で幼少期から関わりあうことで貴族としての素養を身につけていくという。
 ここにマーケティング的視座が隠されている様に思う。マーケティングというと色々あるので、あえて対象領域を限定する。本記事では、外部刺激による価値観の形成、に関して取り扱う。簡単に言えば、どの様にして人々(生活者)の価値観は形成されていくのか、ということである。


「魂の色は何色ですか?」とは?

 人気アニメ「ソードアートオンライン」のオープニングソングの一節である。歌詞の表現について細かい解釈にも少し触れておく。作中における「魂の色は何色ですか?」はアイデンティティを問うものである。様々な葛藤や自問自答の中で、自分という存在について問う、というものだ。この問いに答えることで自信が何者かが改めて理解できるということなのだろう。
参考)
https://www.uta-net.com/song/287762/


「タブラ・ラサとは」

常に働いている限りない想像力をもった人間が、どこから広大な情報の蓄積を得てきたのか。人はすべての推論と知識をどこから得てきたのか。一言で答えよう。それは経験だ。
引用)ジョン・ロック『人間知性論』

人間は白紙の状態で生まれ、様々な経験を経ることによって観念を習得するというものである。つまり、どのような経験をするのか、文化や自身に影響を与える人、などによって観念が形成されていくのである。


消費者行動論(to C向けマーケティング)における外部刺激の位置付け

 消費者行動論を大きく外観すると、人々の消費者行動は3ステップに分けることができる。まず、外部刺激を受け取る。外部刺激とは、文化や準拠集団(自身の所属する集団やインフルエンサー)、家族などより受け取る情報である。次に内部環境で解釈を行う。内部環境とは、いわゆる価値観や観念である。外部刺激とは概ね客観的な事実であり、これを主観的な内部環境で解釈することで、自身の意思決定が行われる。最後に、購買行動である。これは概ね、認知・意図・態度・購買・消費、の5ステップまたは廃棄を加えた6ステップとされる。厳密にはこれらの3ステップは順序というよりは互いの領域を行き来しながら消費者行動は行われる。
 つまり、対消費者向けビジネスを行うにあたって、経験論的視座をもち価値観の背景を考えることは非常に重要なことである。例えば、ペルソナを考える場合、多くの書籍で年収や趣味でザックリと書かれているが、実際はあてにならない。本当にペルソナを考えるならば、その人の人生を考えるとか、所属企業や出身学校から考えなければならない。分かりやすい例で言えば、東京大学の学生でペルソナを作る時にその差に気付けるかどうかである。

1. 幼少期から塾通い(修学旅行は塾があるので休む)で、有名私立(開成や桜蔭など)を渡り歩き、東京大学へ進学
2. 幼少期から塾通い(修学旅行は塾があるので休む)で、有名私立(開成や桜蔭など)を渡り歩くも学習意欲はなく、浪人を経て東京大学へ進学
3. 公立の小学校・中学校・高校と進学し、お小遣いで本を買って勉強し、現役で東京大学へ進学
4. 公立の小学校・中学校・高校と進学し、塾へ通うも現役では不合格となり、浪人を経て、東京大学へ進学

これらの進学過程を仮に考えたとして、同じペルソナには絶対にならない筈である。1番は親の言うことを聞いて勉強をしたところ、気づいたら東京大学に進学していたタイプ。3番は自身の学習意欲を原動力として最高学府を目指した結果、東京大学へ進学したタイプ。このように分類できるのではないだろうか。実際、東京大学の進学者は私立高校出身者が多いが、研究者となるものの割合は公立高校出身者が多かった気がする。
 なぜ、そのような違いが生まれるのかといえば、家庭環境や学校の同級生の影響である。家庭での経験、学校での経験によって価値観や観念が形成されるのだから、人はそれぞれ違うのである。

最後に

 上記について読んできただけたなら、「魂の色は何色ですか?」とは、「タブラ・ラサ」を現代風に言い換えた言葉だと考えることができよう。ある商品のターゲット/ペルソナを考える上で、価値観や観念の形成を考えることは非常に有用だといえよう。なぜなら価値観や観念に従って消費者行動は行われるのだから。


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