【#NIKKEI】イオン経済圏(エコシステム)はデジタル時代に確立できるか

 引用した記事の内容は、イオンによって提供される様々なサービスへ、一つのアプリから一元的にアクセスすることが可能である、というもの.このような、複数の自社サービスを一つのアプリで一元的に管理、またポイントなどで経済圏を確立する方法は、昨今では頻繁に行われている.
 今回、注目したいのは、基本的に自前のサービスに限定されるということ.そういった意味では、楽天と似たような経済圏の形成とご理解いただいても、良いのかもしれない.しかしながら、今から新しく自前主義の経済圏を形成することは可能なのだろうか.
 また、やや余談であるが、昨今のVUCA(予測不可能)と呼称される時代背景には、デジタルによる協業が大きな意味を持つ.スマホOSといえば、基本的にGoogleもしくはAppleが想起されるだろう.しかし、アプリ開発について、これら2社を想起する人は少ないのではないだろうか.つまり、アプリ開発者(生産者)とスマホ使用者(消費者)を繋ぐ仲介する場(プラットフォーム)なのである.ともなれば、この生産者の位置にくる存在が多ければ多いほど、様々な創造性によるアプリの提供を行うことができる.このようにデジタル領域では、不特定多数による協業が行われ、最終的にサービス提供者が採用の可否を決める、というパターンは多い.そういう意味で、世界規模で協業が進むのだから、変化の速度、成長の速度は世界人口の増減と相関するのかもしれない.

自前主義と経済圏(エコシステム)

 自前主義とは呼称の通り、自社が概ね中心となるサービスなどの価値提供を行うというもの。経済圏(エコシステム)は、何らかの中心となる財(主要財)とコレと同時に消費することで価値の増大する財(補完財)の2つの要素によって成立する。基本的には、補完財の数が経済圏(エコシステム)の強さであるとされる。今回取り上げた、イオンさんを例にすれば、概ねWAON(ポイント)が主要財だろう。個人的には、経済圏全体の設計は、優れていないようにも思う。
 では、自前主義の経済圏を確立している企業はどこであろうか。有名なのは、NTTドコモ(移動体通信事業)・楽天(EC事業)である。共通点として、少なくとも日本国民は居住地域によらず、双方の提供物の消費機会があり、かつ生活に必需的なサービスを行っていることである。そのため、消費者は多少の手間はあれど、お得になるのならと、経済圏の消費者となるのである。こうして、経済圏の地盤を固めた後、様々な生活インフラ(補完財)を提供し、主要財(ポイント)の価値を高めながら、その範囲を拡大していったのである。
 つまり、誰もが必ず消費するサービスを提供しているからこそ、協業による膨大な数の補完財を用意する必要はないのである。そのため、少しづつであるが着々と内製による補完財を増やし、今日では楽天は巨大企業となっている。

複数サービスを一元化するアプリ(iAEON)

 では、今回、記事にもなっているイオンのサービス一元化アプリ、iAEON、はどうであろうか。実質、ポイントアプリ、である。ポイントサービスのバーコードの表示、がメインで、その他店舗検索などが付随するというイメージだろうか。つまり、個々の事業への広告機能としての一元化であり、サービス利用・加入の一元化とは言えない。また、様々な事業を抱えるイオン自体、個々の事業が密接な繋がりを持っているかと言えば、そうではない。「イオン」という名を冠しながらも、個々の事業は独立している。この辺りは、ポイントを基軸として明確に戦略として打ち出している楽天やKDDIとは明確に異なる。
 このように考えると、一括アプリ(一元化)とは名ばかりで、消費者視点より視れば様々なサービスが集まっているだけで、特に大きな利点があるわけではないのだから、顧客開拓にはつながらないだろう。また、一昔前とは違い、既に生活インフラ関係の経済圏は既に形成されている。前述した楽天やKDDIがそれだ。こうした強豪を退けながら、新たに経済圏を確立するには、現状の様子では難しいだろう。

まとめ

 経済圏の形成やサービスの一元化は、近年、大きなテーマになりつつある。しかしながら、その実態は厳しいものだ。様々な機能・サービスを一箇所に集約することで、経済圏の形成と謳うわけであるが、顧客視点に視れば、それら複数の機能・サービスを利用する理由がないのである。
 具体的に、楽天経済圏、を考えてみる。旅行やEC、保険、様々な場面でポイントが溜まり、それらは買い物でも使えるし、証券で運用することもできる。このように、ポイントを主要財とする経済圏は形成されるのである。
 こうしてみると、イオンの経済圏は厳しい。前述した通りだが、それぞれが独立しているため、それを一箇所に集約したからといって経済圏は形成されない。「イオン」ブランドが主要財とするならば、イオン○○は補完財となるが、さすがに限定的だろう。今後、何を主要財として何を補完財とするのか、一方で、何事もなかったように消滅するのか、気になるところである。

#日経COMEMO  #NIKKEI

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