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乳幼児向けにわかりやすく解説:ASD(自閉スペクトラム症)のDSM-5診断基準


自閉スペクトラム症(ASD)は、人との社会的な交流やコミュニケーション、興味や行動に影響を及ぼす神経発達障害です。ASDは早期発見・早期介入が最も効果的です。そのため、育児中の保護者の方や保育士さんなど乳幼児に関わる方々は、ASDの特徴や診断基準を覚えておくことで、早期発見・早期介入につながやすくなります。

自閉症スペクトラムの診断基準

自閉症スペクトラムに関する正式な診断基準は、医学界で使用されている「アメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)」に基づいていますが、少しわかりにくいところがあります。
ここでは、より日常生活で見られる具体例を用いて、これらの基準をわかりやすく解説します。

ASDはコミュニケーションと行動の発達障害

ASDには、コミュニケーションと 行動 に難しさがあります。

A. コミュニケーションの問題には3つの領域があります:
1. 人と関わること
2. 非言語を理解すること
3. 人間関係を築くこと

B. 行動の問題には4つの領域があります:
1.  繰り返し行動
2. いつも「同じ」でないとイヤ
3. 特定のものだけが好き
4. 感覚に敏感、または鈍感

この概要を踏まえた上で、DSM基準の細かい部分を見ていきましょう。

A. 人とのコミュニケーションが苦手

ASDの乳幼児は、以下のような社会的コミュニケーションの問題を以下の3つの領域で、抱えていることがあります。

1. 他人と関わることが難しい

  • 感情の表現が少ない :あなたが笑顔で接すると、子どもがそれに笑顔で応える、といった相互のやり取りが少ない、もしくはない。

  • 人との関わり方が特殊 :他者の手を自分の手のように使う(例:他者の手をとり、その手を使っておもちゃを動かす:クレーン現象)

  • 他の人との気持ちを共有しようとしない :子供が楽しいときや興奮しているとき、驚きやその他の感情を、目や表情、ジェスチャー、声などで、あなたや他の人と共有しようとしない。

  • 人との交流が少ない :人との会話や遊びを、自分から始めることが少ない。友達に興味がない。自分の名前を呼ばれても反応しない。

2. ジェスチャー、顔の表情、視線などを使った非言語コミュニケーションが苦手

  • 目を合わせないことが多い

  • 他の人が指差す方向を見ない

  • ジェスチャーを理解し、使うことが難しい :手を振る(バイバイ)や頭を振る(はい、いいえ)などのジェスチャーが少ない。

  • 話すスピードや声の調子が独特:話すスピードやリズム、声の高さや大きさの調整が難しい。これは、声に抑揚がなくモノトーンになったり、同じ調子で話すことに現れる。

  • 自分や他人の感情の理解が難しい:自分や他人が怒っているか悲しんでいるかを理解するのが難しい。

3. 人間関係を築くのが難しい

  • 家族以外の人との関わるのが苦手:家族以外の人との会話や遊びが難しい。

  • 友達と一緒に遊んだり、想像力を使った遊び(ごっこ遊びなど)が難しい

  • 人よりも物が好き

上記の3つのすべての領域で、それぞれ1つ以上の問題がある場合、ASDと診断される可能性があります。

B. 興味や行動が限られている(2つ以上の領域で)

1. 同じことを繰り返す

  • 同じ言葉やフレーズを繰り返す、特定の音を出す、独り言を言う:オウム返し、コマーシャルなどの同じ言葉やフレーズを何度も繰り返したり、特定の音を出したりする。また、自分だけの独り言や歌を歌うこともある。

  • 特殊な動きをする :手をひらひらさせる、つま先歩き、体を揺する、特殊な姿勢をとる。

  • 物の使い方が特殊 :物を並べたり、回したり、ドアを開け閉めを繰り返したり、物をいじったりする。

2. いつも同じであることにこだわる、柔軟性がない

  • 厳格なルーティンにこだわる:同じ順序で同じ行動をしたり、同じ道順で学校に行くなど、一度決めたルーティンを厳格に守ろうとする。同じ食べ物を毎日同じ時間に食べる、食べ物の種類やブランドを変えることを極端に嫌う、食べ物のテクスチャーや色に敏感であるなど、食事に関連するルーティンや習慣に強くこだわることがある。

  • 特定の興味に強くこだわる:その興味は非常に特殊で独特なものであることが多く(例えば室外機など)、その興味の対象について深く研究し、同じ情報を何度も何度も読み返すことがある。

  • 物事の順序や配置に強くこだわる:自分の部屋の中の物の配置を一定の順序で並べる、食事の順序を厳格に守るなど、一度決めた順序や配置を変えることを極端に嫌うことがある。

  • 突然の変更や新しい状況に適応するのが苦手:切り替えが苦手で、難しく不安やストレスを感じる。遊びをやめてお風呂に入るなど、活動の切り替えに抵抗する。

  • いろんなおもちゃで遊ばない、本来の遊び方ではない遊び方をする:例えば、いつも同じプラレールを、線路で走らせるのではなく、線路を重ねて遊ぶなど。

3. 強い興味とこだわり

  • 特定の対象やトピックに強く興味を持つ:特定のパズルやゲームに夢中になって長時間取り組む。同じ番組や映画を何度も見返す。自分の興味があるトピックについて長時間語り続ける。

  • お気に入りのアイテムをため込み、取り除くことを拒否する:例えば、特定のおもちゃを大量に集めて部屋に並べ、それらを手放すことを拒否する。

  • 物の一部にこだわる:車のタイヤや機械の特定のパーツに強く興味を持ち、それらの部分をじっと眺めたり触ったりする。

  • 文字、数字、色、形などの視覚情報にこだわる:例えば、道路や床に描かれた線や模様に強く興味を持ち、それらの模様を追ったり、触ったりする。

  • 一般的ではない恐怖普通の人には理解できないような、特定の音や色、場面に対する強い恐怖心を示す。たとえば、特定の音楽がかかるとパニックになる。

4. 感覚が敏感か鈍い:感覚処理障害(SPD)

  • 音や触感、その他の感覚入力に対する反応が特殊:掃除機の音に耳をふさいだり、泣いたり、特定の衣服の質感に不快感や肉体的苦痛を感じる。

  • 感覚が敏感または鈍い:触覚が敏感な場合は、服のタグが耐えられないほど痛く感じるなど。感覚が鈍い場合は、転んでも泣かない、切り傷や打撲に気付かない。頭を壁に打ちつけたり、壁に体当たりしたりする。

  • 突然の変化への反応::予測できない出来事や環境の変化が、感情の安定性や調整能力に影響を与える。急なスケジュールの変更に対して、焦燥感や不安、怒りなどの強い感情を経験することがある。

  • 他の感覚入力に対する気分の変化: 明るすぎる照明、強い香り、騒々しい音、または混雑した空間などの刺激にさらされることで、イライラや不安を感じ、感情が急激に変化することがある。

  • 落ち着かせるのが難しい:感情的な反応を調節する難しさの一部は、刺激や環境の変化に対する適切な対処方法を見つけることの難しさによるもの。静かな場所に移動しても、感情がなかなか収まらず、自己調整が困難な場合がある。

  • これらの困難は通常、幼少期に始まりますが、後になって明らかになることもあります。

  • このような困難があると、学校、仕事、または人生の他の重要な部分でうまくやることが難しくなります。

  • このような特徴は、知的障害や発達の遅れといった別の病気のせいではありません。ASDと知的障害は一緒に起こることもありますが、別々の疾患です。


以上がDSM-5におけるASDの診断基準を乳幼児向けに簡単な言葉で書き直したものです。ただし、診断は医師や精神保健専門家によって行われるべきであり、単純な基準のリストだけでなく、個々の症状や状況を総合的に評価する必要があります。

これらの特徴は、1歳や2歳のお子さんに見られる場合、早期のサポートが彼らの成長に大きな差をもたらす可能性があります。もしお子さんにこれらの行動が見られる場合は、心配や不安を感じることなく、専門の医師や支援機関に相談してみてください。

子育ては一人で抱え込むものではありません。お子さんの行動に気づくこと、それを理解しようとするあなたの努力が、お子さんの明るい未来への第一歩になります。


Reference 
American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.). https://doi.org/10.1176/appi.books.9780890425596

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