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瀬戸内のふるさと 鞆の浦

「と、鞆の浦へ行きな・・・」
プロローグの印象的なフレーズが記憶に刻まれて早ウン十年。
愛読書の浅見光彦シリーズ、「鞆の浦殺人事件」を読んでからというもの、その舞台である広島県鞆の浦への憧れがあった。
ただ、やはり東京からでは距離がある。
そこへ持ってきて今回の福山への出張を千載一遇のチャンスと捉え、運良く休日のある出張だったので遂に、「鞆の浦」の地を踏むことになった。

福山駅前バス乗り場 5番

ここ最近の工事現場は週休2日制が浸透してきました。
例に漏れず、今回出張で訪れた現場も土日休み。そう、休日が2日間もあるのです。
同行した同僚たちは皆一旦引き上げたけれど、私は「残った方が経費が浮くので残ります」と称して晴れて休日を得ることができたのです。
(いや、一応遠方であれば残るのが普通なのですが・・・)

レンタカーを使わずに鞆の浦を訪れるには、尾道からの水上と福山駅からバスに揺られるかを選択することになる。
尾道からのクルーズは本数が少ないので、迷わずバスを選択することになった。
玄関口は福山駅のバス乗り場、5番。
9月の半ばまで頑張り続けている夏のおかげで、平日の仕事で体はヘロヘロ。
ホテルを清掃で追い出される10時ギリギリまで体を休めてから出発。
10時ちょうどに福山駅を出発するバスをめがけて10分前に乗り場に到着すると、既に観光客と思しき人たちが列を成しているではありませんか。
座れるか?座れないか?鞆の浦までは約40分ほどの道のり、座れた方がやっぱり楽ですもの。
果たして、座れました♪

駅を出発すると街中をのんびりと走り、やがて川沿いの道を快適に走り始めます。
ところどころ、大きな通りから脇に逸れて小さな町を経由して走っていました。
一つ町に寄るごとに、乗客が1人、また1人と降車していき、いよいよ鞆の浦に到着するころにはかなり空いている状態になっています。
意外と人が来ないのかな?と思いつつも、バスの行く先を眺めていると鉄鋼団地が見えてきます。
すぐ山が迫る海岸線に、ひしめき合うように身を寄せる工場群がとても印象的に映ります。

鉄鋼団地を抜けると、陽の光をキラキラと受けて波立つ海が車窓に広がるようになると、目的地はもうすぐそこ。
遠くに黒い煙を吐くJFEの煙突群が蜃気楼のように見えるのが、自分が今いる牧歌的な雰囲気の町とは対照的で面白い眺めでした。

歴史の詰まった町、鞆の浦

ともてつバスセンター

鞆の浦のバス停を降りると、目の前には仙酔島や弁天島、いくつかの島が浮かぶ海が広がる。
道路の向こう側には観光の拠点となりそうなバスセンターがあります。

「鞆の浦」と聞いて、その場所をイメージできる人は意外と少ないようで、会社の人たちに言ってもピンと来る人はほとんど居ませんでした。
瀬戸内海国立公園をだいひょうする景勝地で、穏やかな瀬戸内の海に緑に茂った島々が浮かぶのんびりした土地です。
瀬戸内海の中央にあたり、潮の流れが変わる場所であることから、潮待ち風待ちの港として栄え、歴史的な事件やさまざまな伝説が残る地です。

歩けば感じる不思議な魅力

古い街並み

鞆の浦には、目玉になるようなレジャー施設があるわけでもなく、ひたすらに昔ながらの街並みが残っています。
「古い街並み」を魅力に歌う観光地は日本各地沢山あって、私も出張の旅に足を運んでいますが、そのどこにも共通しない素朴さがこの鞆の浦にあるように感じました。
なんというか、生活を感じるのです。

鞆の浦の街

観光地然としすぎていないところが、私にとって魅力に映ったのかもしれません。
生活を感じるからこそ、鞆の浦の町を散歩する際には一つ気をつけなければならないことがあります。
それは、車。
写真の通り、古い建物が狭い道に覆い被さるようにひしめき合っているところを、ビュンビュンと次から次へと車が飛ばしていきます。
そこが一つ、残念と言えば残念、それ以上にちょっと怖かったです。

石畳

もちろん観光向けになっている通りもあり、そういう場所は割と人で賑わっていました。
とは言え、風情を失うほどの人出ではないので、快適に散歩を楽しむことができます。

港町のシンボル 常夜灯

常夜灯と海

広島の観光ガイドブックでは、鞆の浦は数ページも裂かれずこぢんまりとした紹介に留まっている印象がありますが、そんな数少ない紹介ページでよく目にするのがこの常夜灯。
我々観光客にとっては、この景色が「鞆の浦」を連想させるシンボルになります。
こんな風に、海を背に見るのも良いのですが、

常夜灯と港

釣船が浮かぶ港越しに、突端に佇む常夜灯を眺める方が個人的にはグッとくる景色でした。

高台から眺める屋根

資料館へ向かう階段から眺める鞆の浦

町の中を一通り歩き終えたら、民族資料館へ続く階段を登って高台を目指してみました。
この日も気温は35度を超える猛暑日で、噴き出す汗を拭いながら階段を登り切り、振り返ると鞆の浦の町を一望できます。
瓦屋根ばかりの低い家並みがかなりの密度を伴って密集している様は、日本ではもうそれほど見れる景色では無いように思います。
なんだか子供の頃の懐かしい気持ちを思い出すようで、きっと夕日に照らされたこの町はもっと美しいんだろうなぁと想像を巡らせる時間になりました。

路地越しに見える瀬戸内の海

路地の向こうに見える海

普段観光中は嫌というほど写真を撮りながら歩くのですが、なんとも美しい町で夢中で歩き回ったが故に、撮った写真が思いのほか少なくなってしまいました。
そんな中でも、印象的だったのは狭い路地越しに見える青く穏やかな瀬戸内の海。
なんでも無い景色かもしれませんが、これが「わぁ、良いなぁ・・・」と言葉の漏れた瞬間でした。

散歩の〆は、鯛定食に舌鼓

鯛定食と瓶ビール

鞆の浦に来たら、鯛を食べるぞ!と決めて来ていました。が、私の観光は下調べゼロがお決まり。
ぶらぶらと散歩していると少し列ができているお店を見つけたので入店
バスセンターからほど近い「千とせ」さんで鯛定食を頂きました。
酷暑に疲れた体に流し込む、昼からビールは最高に沁みる・・・
ふわふわの煮付けが絶品でした。

後ろ髪を引かれながら鞆の浦をあとにする

腹が満たされたところで、バスセンターから福山駅へ向かうバスに飛び乗ります。
まだまだ「仙酔島」なんかも行ってみたいとは思いましたが、欲張っても仕方ない。またくる口実にして、「別天地」鞆の浦の散策を終了しました。
歩き疲れた体にビールと相まって、心地よくバスに揺られればあっという間に福山駅。
現実に帰ってきた気分・・・


手作りイラストマップで散策

手作りイラストマップ

今回の散歩では観光センターに並んでいる手作りイラストマップを活用しました。
お店や見所が網羅されており、事前情報が何もなくてもこれさえあれば余すことなく鞆の浦を味わうことが出来るでしょう。

ちなみに、浅見光彦シリーズ「鞆の浦殺人事件」の作中で、観光ガイドからの引用で鞆の浦の町を紹介する場面があるのですが、その文章をこのマップに見つけてちょっと嬉しい気持ちになったのはここだけの秘密です。


次は是非、宿泊してこの町を味わってみたいものです。

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