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掌編小説集

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雨宿り的な
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#あの夏に乾杯

【掌編小説】 傘かしげ

【掌編小説】 傘かしげ

「手入れしなくても咲くんだ……」

 窓から庭のクチナシを眺めながら、私は思わずそう独り言を呟いた。

 雨が降っている。いつの間にか沢山の花をつけた庭のクチナシに雨が当たって、花びらがまるで、タンバリンのシンバルのように揺れている。窓を開けたら、やかましい音が聴こえてきそうだなと思った。

「翠雨《すいう》だ。翠雨」と私はまた独り言を呟いた。

 夏の初め、青葉に降る雨のことを翠雨という。庭の光

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