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財政健全化に向けた論点

フランスでは、2001年にLOLF(la loi organique relative aux lois de finances)と呼ばれる予算組織法の改正を行っています。この改正のポイントについて、平成19年度の会計検査院委託調査『フランスの公会計・予算改革と会計検査院の役割に関する調査研究』を参考に考えたいと思います。
と申しますのは、わが国で財政健全化について様々な議論がなされている反面、財政収支や公債発行残高など、いわば結果的な数字ばかりが問題視されている印象を受けており、公会計の仕組みや予算編成上の根拠などについての仔細な論評があまりなされていない印象を抱いたからです。岸田内閣では“財政健全化推進本部”を創設しましたが、令和4年5月に公表された『財政健全化推進本部報告』を読む限り、立派な考え方や様々な施策は縷々述べられているものの、現状の公会計の仕組みなどについてはあまり触れられていないように思われます。
会計検査院の報告書によれば、フランスの予算組織法改正には、次の4つのポイントがあるとされています(原文の表現や字句は少し変えています)。
1)複数年予算プログラムの導入
予算局が予算の見通しの作成について、省庁ごとに予算の対象年度以降の3年間の見通しを作成するプログラムを導入し、支出の動向に大きな影響を与える重要要素の説明や、避けられないもしくは予測される新規経費の分析や提案などが議論される
2)予算手続きの合理化
事務手続きのレベルで赤字の削減と節約に集中的に議論できるように、予算の審査を早め、時間を十分に確保することで前年度の予算執行上の問題点を精査し、節約や新規経費の議論を十分行えるようにした
3)合議的選択肢による決定
事務折衝後の首相の裁定が行われる前に政府レベルで会合を持ち、各省が関与した状態で予算の節約や新規経費の妥当性について議論できる場を設けた
4)予算手続きの透明化
予算審議の際、政府は予算編成方針と予算上の選択肢を議会に説明することで、予算編成の最初の段階から議会に情報を提供することにした

改正予算組織法でもう一つ注目したいことは、「ミッション」「プログラム」「アクション」を具体的に定義し、その責任や権限を明確に区別している点だと思います。

「ミッション」は議会単位であり、支出許容費の決定は議会で行われます。ミッションには、単一省庁で執行するミッションと複数省庁にまたがるミッションに分類できるとされています。さらに、わが国の特別会計に相当する予算も、同様に議決の対象となるミッションとして加えられているようです。
「プログラム」は原則省庁単位に区切られており、各々のプログラムに“プログラムコーディネータ”や“プログラム責任者”が配置され、プログラムの目標や結果の管理を行うとされています。
「アクション」はミッション・プログラムの最下層に位置付けられ、単一の省庁に帰属されています。アクションは、公益上の目的や目標・評価によって管理され、後継系におけるコスト分析を行う上での基本的な分析単位とされています。
公会計をミッション・プログラム・アクションに区分し、それぞれの執行責任者を定めることで、予算書類の読みやすさや認知度が向上するとともに、議会によるガバナンス力を高める結果になると考えられます。
フランスの公会計改革は行政へのガバナンスを強化するとともに、政策評価に基づく成果主義行政を推し進めるうえで実に貴重な政策モデルですが、こうしたフランスの公会計改革に類似した取り組みはわが国でも鳥取県などで行われており、『予算編成過程の公開』というサイトで毎年公開されています。この仕組みは、平成19年(2007年)に当時の片山善博知事によって始められた制度で、予算編成時期になるとサイトアクセスが急増するといった具合に、県民からの関心も高いと聞いています。
以前投稿したブログで、2020年4月に国際NGO「International Budget Partnership=IBP」が公表した『Open Budget Survey(財政透明性調査)2019』について触れました。その際に、財政透明化スコアを以下のグラフで表記しました。

「財政プロセスにおける市民参加」「立法府と最高監査機関による監査」「立法府による監査」「最高監査機関による監査」の4項目に評点を付けた合計値が上のグラフですが、わが国の62点というスコアは財政透明化において憂慮すべき評価です。特別会計や官房機密費などといった国民の目に触れない財源の存在ばかりでなく、国民の目に触れることがないばかりか、野党ですら解明の難しい予算などもかなりあると聞いています。財政プロセスの透明化は、国民の政治・行政への信頼を醸成するうえで極めて重要な要素であると思います。フランスの改革をそのまま輸入する必要はないと思いますが、民主主義を堅持するうえでも予算策定プロセスの見直しも視野に検討を進めていくべきではないでしょうか。

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