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韓国ドラマを見るための医学知識(5)~治療法が同一でないことによる不信感と症状がよくなること、「ホジュン~伝説の心医~」から~

伝統医学では、同じような症状でも治し方が違うということがあります。
「ホジュン」第10話では、薬の処方の場面でしたが、処方薬が人によって違うという場面が描写されていました。

実際の治療の現場でも、知り合いの患者さん同士で「同じような症状だったのに治療法が違った。でもお互い症状はよくなっている。なんで? という情報交換をしているんです」という話を聞きます。
伝統医学の臨床に携わっているものとしては、非常にうれしい情報交換で、「それが伝統医学の治療の面白いところ」と思って聞いています。

本稿では、この「同じような症状でも治し方が違うのはなぜか」について解説します。

同じように見える症状で治し方が異なることによる不信感

ホジュンの第10話では、早く医者になろうと努力するホジュンが診療簿(現在のカルテ、処方箋)を許可なく見て、筆写、それをとがめられる場面が描かれています。

その場面でイェジンが「処方だけを記録のまま覚えたところで何の意味もない。患者の体格や性格、季節によって同じ薬でも効果が異なる」と話しています。

この場面は、伝統医学における、同じ症状でも治し方が異なり、また異なる症状でも治し方が同じという「同病異治」「異病同治」を表しています。

実際の臨床の現場では、特に現代医学に慣れた方の多くが、「友人と同じ症状(あるいは前回と同じ症状)だったのに治し方(もらった薬あるいは鍼灸治療の方法)が異なった」という感想を持つ理由となります。

古典書籍と茶

私も伝統医学を学び始めた当初は、同じ症状で治し方が違うこと(現代医学のように病気によってクリニカルパスやガイドラインがないこと)を非常に不思議に思いました。同じ治し方をしないことで、治り方に違いが出る可能性があるのではないか、という不信感にもつながると考えていました。

しかしこの考え方は違いました。伝統医学では、同じ症状でも治し方が違うは当たり前のことでした。
では、どうして同じ症状で治し方がことなるのでしょうか。またさらに、症状が改善するのでしょうか。

その同じように見える症状、同じように生じた症状でしょうか

同じように見える症状、情報交換をした方と同じような経緯で発生した症状でしょうか。あるいは、同じような生活をして、同じように身体に負荷がかかり、体質も同じでしょうか。

ここ数年でよくみられる事例を紹介します。症状は同じ「肩こり」です。

ケース1:男性40代 長時間テレワーク、運動減少、不良姿勢で長時間→肩こり

テレワークが長時間にわたり、会社と異なる仕事をするには少し不便なかつ椅子も会社にあるような仕事をするのに適した椅子ではない椅子で長時間のパソコン作業をしている。自宅のノートPC画面は小さく、エクセル作業が社内では2画面で行っていたのがテレワークでは1画面、画面切り替え、スクロール回数が多い。
会社では息抜きがてらトイレに行ったり、コピー機の印刷物を取りに行ったりしていたが、家ではほとんど歩かない。お昼も外に出ず家にあるもので済ますことが多い。以前は1時間程度かけて通勤していて満員電車にも乗っていたが、通勤の時間がなくなり、動くことが極端に減った。今はかろうじて犬との散歩が運動となっている。
ケース2:女性20代 極端に寒がり、冷え性。夜は足が冷たくてしばらく眠れないぐらい。ここにきて寒くなり肩をすぼめて歩いている→肩こり

冷え性。冬は足は冷たい。そのため夜寝付けないことは多い。
おしゃれが好きで、冬でもまあまあな薄着。着ぶくれは好きではないので、薄着になっているかもしれない。外を歩くときはコートを着るし、寒いのは外を歩く数十分なので我慢できる。
冬はブーツをはくことが多いので、タイツかストッキング。ブーツにはスカートが会うと思っているので、膝上スカートが多い。最近では、スニーカーにストッキング、短めスカートなどのファッションも挑戦。寒くても我慢。友達と会うときはテンションも上がるし、寒い時もあるけれど、あまり寒さも感じていないかもしれない。
それでも寒いと思うときはあり、そういう時は肩をすぼめて歩いていることが多い。とくに今年は急に寒くなり、身体をすぼめて歩くことが増えているかもしれない。

*上記2つのケースは一般的なケースをデフォルメしています。

ケース1の方、ケース2の方、お二人とも同じ肩こりを持っています。ケース1の方は運動不足、仕事による目の使い過ぎから肩こりに至ったケース。ケース2の方は冷えで血流が悪くなり、かつ身体をすぼめていることで全身の力が入ってしまっていて肩こりになっているケースです。

この2つのケース、肩こりになった原因が全く異なります。
伝統医学では、その症状に至った原因や症状のもとになっているもの
 ケース1:肩こり←眼精疲労←長時間PC利用、座りすぎ、運動不足
      眼精疲労は首の筋肉の緊張、背中の筋肉緊張=こり
 ケース2:肩こり←寒さで身体全体を緊張させている←薄着
      全身を緊張させている(力が入っている)、血流不良、
      薄着で冷え助長
の根本を見極めて治療をします。場合によっては生活上のアドバイスも行います。(これはドラマ「ホジュン」の中でもよく見られていました。)

この2つのケースに見られるように、同じ症状でも原因が異なることに注目して治すことは少なくありません。治療法が異なる「同病異治」という考え方は、伝統医学の身体の症状に「真剣に向き合いますよ」という姿勢でもあるのかもしれません。

「未病治」に通じる根本原因へのアプローチ

「未病治」とは「病気になる前に病を治す」という考え方で、現代の「予防」に通じる考え方とも言えます。

伝統医学では「根本にアプローチして解決する治療法」と言われたりします。上記に記した2つのケースのような症状を生じるきっかけとなった要因へのアプローチがそれにあたります。

上記でようにスムーズに整理ができる症状ばかりではありませんが、ドラマの中でも様々な知識と智恵を駆使して病を治そうとする描写が多く出てきます。
現代に通じる症状や、専門家がみていても納得できる治療方法なども描写されています。そういった意味でもこのドラマの視聴はお勧めです。


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