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Violet




私の名前はヴァイオレット
いい名前でしょ?
大好きな祖母の家からよく見えたジャカランダの花からつけた名前よ

私がヴァイオレットになったのは17の冬
大好きな祖母が亡くなって見送った夜から。

それまでの私には違う名前があったの
なんて名前かは聞かないで野暮ってものよ
私はヴァイオレットなの

小さい頃の私は厳格な父と平和主義な母に育てられ将来は父の跡継ぎだと挨拶の様に言われてきた
裕福だったから生活に困ったことは無いけれど物心ついたときから着る服には困っていた
いつもサスペンダーのついた細身のパンツや、白いシャツが映えるチェックのボトムス
全てがモノトーンで落ち着いていた、まるで言い聞かされるように
私はそれらの当たり前に用意される服たちが苦手だった
母の様な飾り気のない服も苦手だったけど、私にはもっと花のような色が似合うと感じていた

そう思うと祖母は花のような人だった
何気無く私のこぼした言葉を否定もせず父や母にも告げ口せずに、私の欲しい色を着せてくれた
私を世間体とか、後継ぎだからとか、恥ずかしいからとか「      」なんだからと言わずに、私が着たいと望むものを似合う似合うと与えてくれた

それから私のクローゼットがカラフルになることに時間はかからなかったし、両親達から疎ましく言われることにも、全て矛先が祖母に向くことにも時間はさしていらなかったわ

恥ずかしい、なにを考えているんだ、「    」なんだから、後継ぎがそんなことじゃ、やめてちょうだい、おかしくなってしまったの?

何も私には響かなかったけど、祖母に向けられることは耐えられなかった
祖母に謝ると、祖母はいつも笑い転げていた

似合うんだから仕方ないじゃない
着たいんだからいいのよ

お高いタバコの煙の先によく笑う祖母

そんな他愛もない言葉が私を少しずつ強くしてくれた

祖母が亡くなったのは年齢的なものが一番あると言われているけど、両親は私のせいだと言っていた
確かにそうかもしれない
最後に会った祖母はもう私も虚にしか見えてなさそうで祖母がよく褒めてくれていた薔薇色のワンピースで私だと認識したくらいだ
私だとわかると小さく耳打ちをして教えてくれたことがある

何を聞いたかは内緒
なんでもかんでも知りたがる人は自分にやましいことがある証拠よ

私もう行かなきゃ
こんな話して悪かったわね、楽しんでいって
2つ目の曲から私センターで踊るから

きっと私の何かがわかるわよ


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