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「外国籍の方の賃貸」の対応 仙台・山一地所店長に聞く現場で培われたノウハウとは?

日本社会や文化への関心に加え、外国人労働者政策や留学生30万人計画などの政府の施策によって、日本で暮らす外国籍の方は10年以上右肩上がりで増えています。
しかしながら、外国籍の方の住まい探しには、いまださまざまな難しさが立ちはだかっているのが現状です。
不動産会社は、住まいをめぐるお客様のニーズに応える存在。外国籍の方と住宅にまつわる問題を解決するために不動産会社が担えることはないのでしょうか。

今回は仙台市を中心に展開する不動産会社・株式会社山一地所の仙台中央店店長・阿部義政さんに、外国籍のお客様を仲介する際に気を付けていること、契約に至るために努めていることなど、“現場の声”をお聞きしました。


東北大学生協との提携から外国籍のお客様の受け入れが増加

山一地所仙台中央店の店舗外観
仙台駅北出口6番から徒歩2分。山一地所仙台中央店はビルが立ち並ぶ愛宕上杉通りに面するビルの1階にあります

――阿部さんは外国籍のお客様の受け入れに熱心に対応していると聞いています。取組みのきっかけがあれば教えてください。

私が現在在籍している山一地所仙台中央店が東北大学に近いという環境から、5年前から東北大学生協と提携させていただいています。東北大学は留学生の方が多くいらっしゃいますので、必然的に外国籍のお客様の対応数が増えていったことがきっかけです。

あわせて、既にお取引のあったオーナー様や提携法人様から、外国籍の方のまとまった数の入居のご相談を受けて、個別に対応・案内することが積み重なり今に至る、といった感じです。

――外国籍のお客様の層に地域差があると思うのですが、仙台ではどのような属性や国籍のお客様が多いですか?

あくまで当社の場合という話になりますが、東北大学の留学生の方、一般法人で受け入れている語学留学の方、技能実習生の方、派遣就労の方、多くはこの4パターンに分類されます。
国籍にも傾向があり、東北大学の留学生は中国、語学留学・技能実習生はパキスタンなど、派遣就労はベトナムの方が多い印象です。
当社は現在県内に3店舗仲介の店舗がありますが、同じ仙台市内でもエリアごとにその傾向は違ってきます。

――年間どれくらいの数のお客様を受け入れているのでしょうか。

コロナ禍でだいぶアップダウンがありましたが、2022年11月末現在で約120名のご契約がありました。
先般の入国規制の緩和も受けて、法人様から新規受け入れのご相談も寄せられていて、該当エリアでの受け入れ可能な物件探しやスタッフの増員等の準備を進めています。


さまざまな目的で来日するお客様それぞれに適切な対応を

山一地所仙台中央店の店内の様子
ご相談用のカウンターにずらりと椅子が並ぶ店内。場所柄、もともと賃貸部門では学生賃貸の仲介を多く手がけていたため、春先には国内外問わずたくさんの学生が訪れるそうです

――日本人のお客様と外国籍のお客様とで対応の仕方が異なる点もあるかと思います。気を付けていることなどありますか?

個人契約の場合、往々にして審査が厳しいのが現状ですので、オーナー様や管理会社様に丁寧な説明を心がけています
基本的な話にはなりますが、お客様から国籍や来日目的などの情報を可能な限り詳細にお伺いし、しっかりした情報を得てからご相談をするようにしています。
オーナー様や管理会社様は受け入れにあたり、文化の違いから生じるトラブルや言語の壁でうまくコミュニケーションが取れないことへの不安を感じていることが多いようです。そのため、ご相談させていただく際にその不安をしっかりヒアリングするようにしています。これも基本的な話ではありますが、結局のところ一番重要だと考えています。

それをもって双方のすり合わせを行い、トラブルがあった際に間に入って下さる方をどなたか設定いただいたり、契約書の特約追記や別紙覚書の締結などを調整しながら懸念点を補完していったりという作業を地道に行っています。
ノウハウといえるものでなくて申し訳ないですが、丁寧に対応するのが一番の近道なのかもしれません。

また法人様からのご依頼の場合は、窓口になっている担当者と密にコミュニケーションを取るよう努めています。


外国籍の方の入居には課題が山積…解決策を模索中

仙台市が公開している市の多言語化されたゴミ出しルールのパンフレットを出力し、入居時に渡してトラブルを未然に回避しようという工夫も。公的情報にアクセスしづらい外国籍の人にとってはありがたい手段です

――外国籍の方の入居に、阿部さんはどんな課題や問題点があると感じていますか?

第一には、先ほども触れた個人契約のハードルが高い点です。
日本国籍の方の緊急連絡先がないと審査にすら上げられなかったり、入口の部分で断られてしまったりというケースがまだまだ多いように思います。
後はやはりトラブルが多いですね。これに関しては文化や生活様式の違いもあるので、入居させたら終わりではなくその後もトラブルが起こるようであれば、私たちがしっかりと関わって是正していく姿勢が必要だと思います。

――トラブルでいうと、入居前と入居後、どちらが多いですか?

圧倒的に入居後です。
ゴミ出しのルールが守られていないことから始まり、まとまった空室のある物件に複数名が入居した際は、共用部で頻繁に集まって大きな声で会話をしていると既存入居者から苦情が入ることもありました。中には勝手に部屋を交換していたケースもありましたね。その他にも予想外なことが起こるなあという印象です。

ただ、一つ前の質問でもお話ししましたが、これらは文化や習慣・生活様式の違いから生じていることが多いと感じています。
そういった事例を受けて、注意事項を多言語化して契約時にお渡しする、場合によっては新居の扉に貼っておくといったトラブルを未然に防ぐための対策にも取り組むようになりました。

オーナー様や管理会社様へのヒアリングや、トラブルの対処、外国籍のお客様の対応は本当に手間と時間がかかるので、敬遠される同業者の方が多い気持ちも分かります。
個々の事象に毎度決まった解決策があるわけではないので、日々トライ・アンド・エラーの繰り返しです。

――手間がかかることが分かっていてもなお取り組み続けようとするモチベーションは、どこからくるのでしょうか?

大きく二つあります。一つは、当社のSDGsの取組みです。私が所属している賃貸仲介の部門では「すべての人に健康と福祉を」という目標にフォーカスし、「私たちは、賃貸仲介を通じて、すべての方が健康的な生活を送れるための住居を提供します」というスローガンを掲げています。外国籍のお客様に限らず、生活保護利用者や高齢者の方々にも可能な範囲で快適なお住まいを提供したいと思って取り組んでいます。

もう一つが、賃貸物件の空室問題です。これは仙台に限りませんが、全国的に賃貸物件の空室は年々増加傾向にあります。今後進んでいくことが予想される少子高齢化に伴う高齢者対策とあわせて、グローバル化に伴う外国籍の方の受け入れも取り組まないといけないトピックだと考えています。
今後いざその波が大きくなったときにスムーズに対応できるよう、今のうちから体制を整えておきたいという思いもあります。


マニュアル化して誰でも対応できる店舗へ

――今後を見据えての丁寧な取組みということですが、これからに向けて課題に感じていることはありますか?

まず、スタッフ誰もが外国籍のお客様に対応できる体制づくりを目指したいです。
外国籍のお客様との契約は、日本人のお客様の一契約よりはどうしても業務の工数が多くなってしまいます。
また、ある程度経験や決裁権がないと、条件の交渉や緩和を行うために多くの時間を要してしまう場合があるので、現状はどうしても店長やそれに準ずるスタッフを中心に対応に当たっている状態です。

「外国籍のお客様だから」という理由で若手のスタッフが二の足を踏まないような体制を築くことが、今後の課題だと思っています。
そのために得た経験をマニュアル化して、全スタッフが対応できる環境にしていきたいですね。
既に取組みをされている企業もあるかと思いますが、外国籍の方の雇用も検討していけたらと思います。

――外国籍のお客様の入居をお手伝いしてきてよかったことに、どんなことがありますか?

契約が無事決まった際に、勉強中の日本語で一生懸命感謝の気持ちを書いてくれたメールや言葉を受け取ったりするとやっぱりうれしいです。
時間と手間はかかりますが、報われた気持ちになりますね。
仙台も東北の一地方都市ですし、普段生活していて外国籍の方と接する機会はあまり多くありません。
私自身も苦手意識がありましたが、いざ対応してみると素直な方が多く、接客を通じて自分の外国籍の方に対する既成概念が刷新されました。

それにすごいですよね、母国の言語以外にも、英語が話せる方が多いですし、更に日本語で意思疎通までできる方もいる。単純に素晴らしいなと感心します。

――最後に、今後外国籍のお客様への対応に取り組みたいと考える不動産会社の方々にアドバイスがあればお願いします。

一つは、先ほども触れましたが、“ヒアリングを徹底する”“コミュニケーションを密に取る”ことです。
担当者自身がそのお客様のことを事細かく説明できるくらいにヒアリングをしておかないと、オーナー様や管理会社様に安心・納得していただけるご提案ができないと思います。
とても地道ですが、一番大事なことだと思います。

もう一つ、これまで行ってきた対策の中でかなり効果があったと思うのが“注意事項の多言語化”です。鍵のお渡し時などに口頭で「気を付けてくださいね」と言うだけでは中々浸透しないと思います。

外国籍のお客様は、日本の生活に対する理解度も千差万別です。理解度を上げるための対応は地道で時間はかかりますが、“急がば回れ”と言うように、丁寧に行っていくことが入居後のトラブル防止につながると思っています。

日本では少子高齢化による労働人口の減少が今後ますます加速していく見通しの中、世界では人口がどんどん増加しています。
それに伴うように日本で就労する外国籍の労働者も年々増えている状況ですので、遅かれ早かれ着手しないといけない取組みだと思います。
今のうちからそれを予期した準備を進めるというのはとても有意義だと思いますので、今回のお話がそのきっかけとなっていたらうれしいです。


おわりに

阿部さんが笑顔で語られていた“手間がかかる”という言葉は、相当な試行錯誤があったからこそ出てきたもののようにも感じられました。手間を惜しむことは簡単ですが、かけ続けることの信頼が、コロナ禍を経てもなお依頼が絶えないという店舗や企業の強みになっているのかもしれません。
また、山一地所では自社物件を対象に、他社運用の多言語対応24時間かけつけサービスを入居者向けに活用するなどしているそうです。借りる人・貸す人、どちらのお客様にも安心を感じてもらうことは、不動産会社の大切な役割でもあります。そこに国籍は関係ないはずです。


プロフィール

阿部さまプロフィール写真

阿部義政(あべ・よしまさ)
1984年6月17日生まれ、宮城県仙台市出身。2016年株式会社山一地所に入社、賃貸仲介部門で研鑽を積む。現在は賃貸営業部に所属し、仙台中央店の店長として賃貸仲介業務全般を行う。

▼山一地所株式会社

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