映画「ハウ」感想
映画「ハウ」、観てきました。ネタバレたくさんしてます。
もう既に千人くらいが同じこと言っているのは承知なんですけど、この映画は犬を①今飼っている方、②飼ったことがある方、③飼ったことが無い方によって、それぞれ全く違った印象や感想になるんだろうなと、映画を観終わって少し時間を置いて、ようやく俯瞰して考えられるようになった今思います。
私はこの中で①寄りの②です。犬は実家では飼っていましたが今は飼っていない状態で、でも実家に行くたびに遊んだりしていて、だからちょうどいいバランスで観ることができたかもしれません。そう言い聞かせてます。
今のところ、二回観ました。
一回目。ラストについて、正直「どうして?」という思いが先に来ました。
二回目。ラストについて、「そうか、これが“優しい”の意味なんだ」と理解しました。
これについては、一回目も勿論そうなんだろうという認識はしていました。それでも二回目で、結末まで知った上でじっくりと観て、民夫の決断、関わった周りの人たち、ハウのこと。全部ひっくるめて、「そうかあ」と理解できた気がします。
石田ゆり子さんの優しい、とても優しいナレーション。彼女が教えてくれたハウ(ベック)の心。道行く中で、ハウがいろんな人と出逢いながら旅して、移り変わっていくハウの中の声。
この物語は人間が創ったものだから、人間のエゴのかたまりです。ハウが、犬たちが実際にどういう気持ちかなんてわからないし、今もこちら側はわかったつもりになっているだけだから、正解なんてない。この結末が正しいとか、間違ってるとか、そういうのもわからない。
ただ思うのは、間違いないと思うのは、ハウは民夫(田中圭)のことが大好きで大好きで、もう一度会いたかったということ。そして同じくらいに、きっと最初の飼い主のことも大好きでまた会いたかったし、今の飼い主の少年のことも大好きだということ。
ハウは最初、遠い地で不安な中民夫の声を聴きます。また会いたいと願って旅に出るハウ。優しくしてくれた、きっとそのまま飼い続けてくれたかもしれない誰かのところに留まることなく、消えかけた民夫の声を、匂いを求めてひたすら走って、歩き続けます。最初の飼い主に会って、大好きだったことを思い出して飛びつこうとしたハウ。同じように、民夫に会えたときに飛びついたハウ。大好きな民夫。大好きだよって全力で伝えたハウ。
彼女にフラれた民夫は、大きな声で呼び止めたけど何も言えませんでした。自分の気持ちをうまく伝えられなかった民夫。不器用ですよね、と足立さん(池田エライザ)が言った通りの民夫がハウと出逢いました。ハウはワンと鳴けなかったけど、ハウだけの鳴き声に乗せてめいっぱいの大好きを民夫に伝えていました。「大好き」だけじゃなくて、「楽しい」とか「嬉しい」とか、そういう全力の愛をたくさんたくさん浴びた民夫。元気が無かった民夫がだんだんと生き生きしていって、同じようにハウに全力の愛を伝えているシーンはもうずっと観ていたいくらい幸せで尊くて。大切で愛していたはずの彼女に何も言えなかった民夫が、ハウに掛け値なしの愛を伝えているのは胸がすく思いでした。きっとあのまま結婚していても、民夫はこんな風に笑えてなかったよね。
このあと、民夫とハウが別れてしまうシーンはきっとペットを飼ったことがある方は引っかかる部分がたくさんあったかもしれません。ただ私は、不幸な偶然が重なってしまった故の結果だと思っています。まだハウと過ごして一年と少しだった民夫。ここでもしすぐにハウが見つかっていたら、きっと民夫はもう二度とリードを離さなかったでしょうし、いろんなこと、もっともっとたくさん気を付けるようになったでしょう。
失ってから気付く、って使い古されすぎている言葉だけど本当にそうで、もっとああすればよかった、こうしたらよかったって思い浮かぶことがいくらでもあるんですよね。ハウを失った民夫の中で、そういう後悔がきっといくつもいくつも浮かんで、数えきれないくらい浮かんでは民夫自身を責めたんだろうなって。だからこそ、ハウと民夫が再び会えますようにと、そう願ってやみませんでした。
https://twitter.com/haw_movie2022/status/1562001700080140288?s=20&t=gO051cHF6Emcp713ZHcPFg
ハウが出会った少女、麻衣(長澤樹)。まさかここで震災の話が来ると思わずびっくりしましたが、麻衣のような子がいて、今もいるだろうことはフィクションじゃないんですよね。麻衣は感情を表に出したことで失敗したと思って、でも自分の中の気持ちは否定したくなくて。学校に行かなかった間、ずっと一人で闘ってたんだろうなって、なんだか手に汗握るじゃないですが、彼女のシーンはずっと頑張れ、頑張れってひたすら心の中で応援してました。そこに寄り添うハウ。自分の中の奥の方にあった記憶にいた、麻衣のように悲しい顔をした少女を知っていたからこそ、ハウは傍にいたのかな。麻衣も、これから出会う人も皆、どこかに傷を抱えてて、それを少しだけ癒して、ハウは旅をしました。
関根さん(宮本信子)のシーン、私一番好きかもしれません。
ハウも関根さんに癒されて、関根さんもハウに癒されていました。関根さんはハウと出会う前と出会ってからで、状況は何も変わっていないんですよね。旦那さんは当然亡くなっているし、商店街のシャッターも閉まったまま。それでも、ハウと出逢って、寄り添って癒して癒されて、そのぬくもりの中、旦那さんのことを夢に見て、思い出します。
「わかってる。雨が降らなくなることはない、でしょ」
そう声を張った関根さんに背を向けるハウ。日常は変わらないけど、少しだけ心を浮かせることができたら、人って頑張れるんですよね。そのきっかけになった、どこかであったかもしれないあたたかな出逢いを覗かせてもらえたような、素敵なシーンでした。
修道院でシスターたちに可愛がられる中で、ハウを捨てた飼い主に出会います。めぐみ(モトーラ世理奈)のことを思い出したのか覚えていたのか、尻尾を振って飛びつこうとしたハウ。そんなハウと再会した彼女がしたことは懺悔でした。「酷いことをしてしまったんです」と泣く彼女の涙は彼女だけのもので、ハウには届いていません。それでもハウが彼女の悲しそうな顔と、優しかったことを覚えていたことがその答えかもしれないと感じました。
麗子さん(渡辺真起子)たちとのシーンでも、たくさんの犬たちの写真を見ながら「恨みまがしい目をした子はひとりもいないのよね」というセリフがありました。その子たちも、ハウも、掛け値なしの無条件の愛をくれるんです。DV彼氏が乱入してきたシーンはしんどくて、事故のときはそのまま燃えてしまえ! とギリギリしながら思ってしまいましたが、そんな相手でさえハウは助けようとしました。自分を飼って、一時でも可愛がってくれた相手。その幸せな記憶をハウは、犬たちはきっと忘れないんです。こういう言葉は全部こちらのそうだったらいいなというものではあるけど、そうであって欲しいと思います。幸せだった、あたたかく接してくれた相手のことを大好きになって、大好きなままのハウは、ただそれだけだから。それがとてもとても、尊く愛おしいです。
そしてこのDV彼氏も、麻衣とやりあった彼女も、この映画のキャスト陣がメインの方々はもちろん全員すごくうまいんですよね。どちらのシーンも素晴らしかったです。プロの役者の方々にうまいって表現どうなんだって話ですが、他に表せなくてすみません。映画を観ている間は物語に集中して感情揺さぶられながら観て、終わってしばらくして思うんです。ほんと、語彙力無くて申し訳ないんですがうますぎました。
https://twitter.com/haw_movie2022/status/1561911107429826560?s=20&t=gO051cHF6Emcp713ZHcPFg
民夫と足立さんのシーンでの民夫のセリフ。
「悲しみは、消えてしまうってないような気がする。だから、せめて、上手に、戸棚にしまえたらって思うんだ」
これほんと、ほんとにもうほんとに! って、その表現に泣いてしまうんですけど、消えない悲しみを持ってるのはそれだけ大切にしていた相手がいたということで、だからこそずっと消えなくて。それでも生きて行かなきゃいけないから、普段は戸棚にしまってあるそれを、たまに取り出してはまた悲しむ。悲しいって気持ちを思い出すことは、その大切な相手を思い出せるから。愛おしい相手を思い出すことで、悲しくもなって。生きていくのって辛いよね、足立さん。あなたはとてもあたたかい人だよ。
「ハウのことを思い出さない日もあるんだ」と言った民夫は、やっと戸棚にしまえたんですよね。ハウとのこと。ずっと出しっぱなしじゃ生きていけないくらい大切だったハウ。前を向き始めた民夫が切なくて、でもその民夫と同じ気持ちを私も知っていて、ただただその気持ちを噛みしめるシーンでした。
ラストシーン。
やっと出逢えた民夫とハウ。冒頭でも書きましたが、最初は「どうして?」と思いました。ハウは民夫に会いたくて、民夫に抱きしめて欲しくて長い長い距離を旅してきました。だからお別れしなくてはいけないのが寂しくて悲しくて、ハウに背を向けて泣きながら去る民夫と、そんな民夫を呼び止めるように鳴くハウに涙が止まりませんでした。
だけど、ワンちゃんを飼ってる友達の感想を聞いたり、改めていろんなシーンを思い返してから観た二回目。その「優しさ」がやっぱり切なかったけど、あたたかくなりました。ハウは民夫のことが大好きです。それと同じくらいに最初の飼い主であるめぐみのことも、そして今の飼い主である少年のことも大好きです。そしてきっと、少年も民夫と同じくらい、ハウのことが大好きなんです。あのとき民夫がハウを連れて行ってしまえば、少年はハウを失ったときの自分と同じように悲しんで、たくさん泣いてしまう。少年とハウを引き離してしまう。少年に可愛がってもらって幸せそうなハウ。民夫のことを覚えていて、走って来てくれたハウ。ハウからたくさんの幸せを、愛をもらった民夫が、ちょっとでも返すように強く愛おしそうにハウを抱きしめるシーンに民夫の決意が見えました。
パンフレットのネタバレになりますが、田中圭さんがあのシーンについて「僕はあの選択ができる民夫が好き」とありましたが、私も同意見だなと思ったし、そう思える田中圭さんのことも好きだなと思いました。笑
でも、このシーンにどうしてと思ってしまう気持ちも不正解ではないと思うんです。きっとハウは、あそこで民夫が再び飼い主になってもたくさん幸せになれたから。そして民夫もまた幸せな日々を過ごせたから。民夫とハウに幸せな日常を再び送って欲しいと思う気持ちもきっと、あなたの持つあたたかさだと思います。
なんだか、比べようとしちゃいますよね。ハウはどっちが幸せなんだろうって。民夫じゃないの? あんな距離、民夫に会いたくて旅してきたのに、そんなハウの気持ちは? って。でもそれって、やっぱりエゴかなとも思うんです。だってきっと、ハウはそうじゃないから。民夫のこともめぐみのことも少年のことも、みんな大好きだから。だからもしハウが一番幸せな方法を選択するなら、その三人と一緒に住むことかもなとも思ったり。だけどもちろんそうはいかないから、ハウにとっていろんな正解があるうちのひとつの結末なんだと思います。
そしてこの映画の主題歌である、GReeeeNの「味方」!
ラジオでも話してましたが、書下ろしなんですよね。優しく語り掛けるような曲調と歌詞が、当然ながら映画にぴったりとはまる素敵な曲でした。
ハウは出会ったすべてのあたたかい人たちの「味方」だし、その人たちもそして民夫も、これからもずっとハウの「味方」なんだろうなって感じられる曲で、作品でした。
ハウと民夫の物語が終わって、ハウと少年の物語が始まりました。そして民夫の物語も、足立さん、鍋島さんたち、みんなの物語はまだまだ続きます。私はこのあたたかい人たちとハウの物語がどうか、ぜんぶぜんぶ幸せでありますようにと強く願います。
もう一度、観に行きたいです!
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