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INSPIRATIONS: 自然とデザインをつないで考えるためのヒント 7月

自然とデザインをつないで考えるためのヒントをピックアップする「INSPIRATIONS」。新旧問わずに、デザイン、アート、ビジネス、環境活動、サイエンス等の領域を横断し、ACTANT FORESTメンバーそれぞれのリサーチに役立った、みなさんにお薦めしたい情報をご紹介します。

01:脱植民地化と農民によるボトムアップ型森林再生

世界で最も貧しい国のひとつとされるアフリカのニジェール。サヘル地帯の過酷な環境にありながら、「植林」によってではなく、古くから現地の農民が実践してきた方法を再生させることで、この35年の間に2億本もの木が育ち、大規模な再緑化が遂げられたという。フランス支配下の20世紀初頭以来、南部の森林地帯に住む農民たちは、輸出作物をつくり農地を拡大するために、幼木を根こそぎ取り除き、木を切り倒し続けてきた。しかし1980年代になり、オーストラリア人宣教師の活動などを機に耕起や伐採をやめ、農地に木々を残し、切株から生えるひこばえを守り育てるという、かつての慣習が再び広まるようになると、土壌はより肥沃になり、作物の収量も増加するようになったのだ。すでに地中深く根を下ろしている木を再生するこの方法は、植林活動のように(その多くは、苗木の根が根づく前に枯れてしまう)外部からの資金や協力に頼らず、農民主導で環境問題や食糧問題を解決する糸口として、アフリカ内外で大きな関心を集めているようだ。

02:Formafantasmaが森をめぐるシンポジウム「Prada Frames」をキュレーション

6月初旬、ミラノサローネの会期にあわせて、自然環境とデザインの関係をテーマとするシンポジウムがブレダ国立図書館で開催された。3日間にわたるプログラムをキュレーションしたのは、アンドレア・トリマルキとシモーネ・ファレジンによるデザインスタジオFormafantasma。綿密なリサーチとさまざまな専門家との対話を通じて、今日のデザインを成立させている複雑なコンテクストに向き合う彼らのアプローチは、その研ぎ澄まされたアウトプットと共に、近年ますます注目を集めている。「木材産業」にフォーカスした一昨年の個展「Cambio」に連なるように、今回のシンポジウムにも科学者やデザイナー、アーティスト、文化人類学者、法律家などの多彩なゲストが登壇。森や樹木、自然との共生にかかわるさまざまな立場から、専門的な知見や実践が共有された。また、DAEの学生による発表もあり、彼らが教鞭をとるジオ・デザインコースの様子も垣間見ることができる。全6回のセッションは、すべてオンラインで視聴可能。どれも領域の分け隔てなく関心を広げてくれる内容だ。

Prada Frames
https://www.prada.com/jp/ja/pradasphere/special-projects/2022/prada-frames.html

03:種子を無料配布し「園芸」を支える公共図書館

アメリカの公立図書館では、本を借りるのではなく、種をもらう「シード・ライブラリー」が広まり始めている。その名の通り、野菜や花の種を無料でもらうことができるサービスで、敷地内に菜園を設ける図書館も出てきている。人々がガーデニングを始め、外に出て新たな楽しみを見つけることは、そのままコミュニティのプラスになる。また、貧困や食糧難の課題に対応する力を高め、生物多様性を豊かにし、地域の文化や福祉を豊かにすることができる。アメリカ図書館協会では、このほど図書館員の中核的価値として「サステナビリティ」を新しく追加したという。書物の知識だけでなくこうした実践の機会を開放することで、図書館が目指してきたコミュニティの核としての役割が、新たな形で拡充されつつある。

04:Life Without Energy: エネルギーのない生活から学ぶ

蛇口をひねれば水が出てくるように、私たちはエネルギーを当たり前のように消費している。しかし、世界には電気がまったく通っていない地域も多い。先進国に住む人々には想像しにくい世界だろう。それでも、発想を変えれば、そうした地域からエネルギーのない生活、電線のないオフグリッド下での生活がどのようなものかを学べるはず。そして、実際に見に行ってみよう。ということで、共にリサーチとデザインに強みを持つ組織として知られるSPACE 10とQuicksandがケニア、ペルー、インドネシア、インドの40世帯を訪問し、実際に見聞きして観察してきたことが「Life Without Energy: Needs, Dreams and Aspirations」にまとめられている。クリーンで安価なエネルギーが基本的なニーズとしていかに重要なのか、そしてオフグリッドPVソリューションなどの分散型システムによって、いかにクリエイティブにエネルギーを活用できるようになるのかというヒントが詰まっている。


05:キノコに秘められた色の世界

草花や樹木などを使った「草木染め」は古くから知られるところだが、「キノコ」もまた天然染料に(そして顔料にも)なるらしい。そのなんとも鮮やかな色彩の世界を教えてくれるのが、ポートランド出身のアーティスト、ジュリー・ビーラーによる「Mushroom Color Atlas」だ。キノコ染めにチャレンジする人のリソース/レファレンス集として立ち上げられたWEBサイトには、さまざまなキノコから抽出された色のカラーチップがずらりと並ぶ。キノコの種類や状態、繊維や媒染剤などの条件によってすべて色あいが異なり、森にひっそりと生えるキノコにこれほど多様な色が隠れていたことに驚かされる。キノコ染めの歴史は1970年代からと比較的新しく、アメリカ人彫刻家ミリアムC.ライスの探求に端を発するとされる。彼女の設立したInternational Mushroom Dye Instituteを中心にキノコ染めへの関心が国内外に広がり、以来国際シンポジウムも隔年で開かれているようだ。日本のキノコはどんな彩りを見せてくれるのだろうか。まずは森での採集からトライしてみたい。

06:森林増加の相反する効果

熱帯雨林が失われているニュースを聞くことは多いが、シベリアなどのツンドラ地域ではむしろ森林が増えているという。そして、気候変動により、地球全体でも今後森が増加することが予想されている。森が増えるのは良いことのように思えるが、話はそう単純ではない。争点のひとつになっているのがアルベド(=太陽からの光を地表が反射する率のこと)だ。例えば、これまで雪や氷で覆われていたところが森になることは、単純化して考えると地球の表面が白から緑になることを意味する。それはアルベドが下がり、地球を暖める効果を持つ。もちろん、1本で毎日100リットルの水分を蒸発させると言われる木の冷却効果も相当なものだ。しかし、その木の種類や地域、生育状態によっても計算は変わる。その他にも、山火事の影響や土壌の栄養素との関係、地球上のCO2濃度が上がることで植物のCO2吸収率が下がる影響についても紹介されている。少なくとも、アルベドなどの影響を考慮せず、脱炭素だけの指標をみて森林拡大を喜んでいてはいけないようだ。


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