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INSPIRATIONS: 自然とデザインをつないで考えるためのヒント 4月

自然とデザインをつないで考えるためのヒントをピックアップする「INSPIRATIONS」。新旧問わずに、デザイン、アート、ビジネス、環境活動、サイエンス等の領域を横断し、ACTANT FORESTメンバーそれぞれのリサーチに役立った、みなさんにお薦めしたい情報をご紹介します。


01:都市の遊休地に緑地をつくるゲリラ・ガーデニング

遊休地がガーデニングの場として利用されてきたことは、これまでの歴史を見ても珍しくない。レクリエーションや美観のためだけでなく、ハーブのような食事に役立つものも植えられてきた。未活用の土地をガーデンにすることは、持続可能な都市開発や公共空間にとっても貴重な機会だと再認識されつつある。しかし、「ゲリラ・ガーデニング」と呼ばれる、法的な所有権や同意なしに空間を緑化するというアクティビズムに近いアプローチをとる活動もある。その動機は様々で、気候変動に強い空間をつくろうとするものから、食料を必要としているコミュニティに作物を提供することで近隣の生活の質を向上させようとするもの、進行中の土地利用政策に抗議するためのものまで多岐にわたる。本記事では、ゲリラ・ガーデニングの黎明期から現代の状況まで、ケーススタディを通じて、この実践の背後にある動機が歴史的に探られている。ACTANT FORESTが計画している都市緑化プロジェクト「Comoris」は、もちろん正式に許可されている土地を利用するものの、理念としてはゲリラ・ガーデニングに共感している。上意下達の開発計画によって成り立っている今の都市生活において、その制度やインフラをいかにハックできるのか。植物や動物と共闘しながらじっくりと取り組んでいきたい。

02:モア・ザン・ヒューマンにとっての法制度とは

MOTH(モア・ザン・ヒューマン・ライツ)プロジェクトは、人間、人間以外の存在、そして私たちすべてを支える生命の網のために、権利とウェルビーイングを推進する学際的な組織だ。ニューヨーク大学法学部の取り組みを母体に、法律、科学、先住民の知識、哲学、アート等のパースペクティブを統合し、生物多様性と豊かさを守るための法的措置が議論されている。18世紀フランスの人権宣言をはじめ、歴史的に多くの法律は人間中心主義に立脚してきた。この見方は、人間を他の生物種や生態系から切り離し、上位に置くという哲学を物語っている。MOTHはこの視点を批判し、より大きな生命の網の中での私たちの位置を認識する法制度を検討している。サイト内の記事に引用されている「生物学的な現実はきっぱりと白黒つけられるものではない。ならば、世界を理解するための物語や隠喩、私たちが探究のために使う道具を、どうしてきっぱりと二つに分けられるだろうか」という菌類学者マーリン・シェルドレイクの問いかけのように、新たな法の下では、権利の白黒をつけないような緩やかな基準ができあがるのかもしれない。この新しいパラダイムに関連する自然の権利や法を学ぶ5日間の集中コースやカンファレンスなども開催されている。デザインが扱う範囲が法制度まで広がっているようで面白い。引き続きウォッチしていこう。

03:適材適所の植樹をサポートする、都市樹木のデジタルツイン

昨年11月、ニューヨーク市で、樹冠被覆率を現在の22%から30%に拡大することを目指す法案が可決された。気候危機への対策として、世界中の都市で樹木を増やす施策がなされているが、こと「都市」という環境においては、単に数多く植樹するだけでなく「適切な場所に適切な木を植える」戦略が重要になる。その理由のひとつは、人々のウェルビーイングを高めたり、ヒートアイランド現象を緩和したりする樹木の恩恵を、樹冠面積の少ない低所得地域などにも拡げていくという緑の公平性の観点から。もうひとつは、空気質の改善や炭素貯留、雨水処理などの効果を最大化するために、都市ならではのストレスの多い生育環境において、樹木を確実に保護・成熟させる必要があるからである。法案には資金面での懸念が残るものの、こうした戦略的な樹木の配置計画にあたって、コーネル大学が開発した「Tree Folio NYC」に期待が寄せられている。このツールは、LiDARデータから、市内にある700万本の樹木を3Dモデル化し、各樹木が提供する日陰の量と質が定量化できるというもの。既存の樹冠マップとは異なり、樹木を「葉レベル」で可視化することで、個々の樹冠のサイズと体積を測定し、健全な樹木の位置や、樹冠が不足している場所を簡単に確認することができる。このデジタルツインが実際の計画にどのように利用され、ニューヨークの景観を変えていくのか。LiDARデータがあれば、他の都市での利用可能性もあるようなので、今後の広がりにも注目したい。

04:森林破壊に立ち向かう先住民族とオープンデータ

南米や東南アジアの熱帯雨林で今なお続く、違法な森林破壊。そこに住む先住民族や地元コミュニティは、自分たちの生活を支えてきた先祖伝来の土地を守るために、衛星画像やオープンデータを駆使して、違法な伐採や乱開発に自ら対抗しているという。というのも、こうした脅威が発生する場所は、法の整備や施行が不十分であるため政府を当てにできず、自分たちの手でモニタリングする必要があるからだ。記事に紹介されているのは、スリナムとインドネシア、ペルーの3地域で、いずれもGlobal Forest WatchRainforest Alertなどの無料で入手できるツールを利用して、道路開発に伴う伐採や汚染、違法に伐採された木材の輸送追跡、コカ栽培のプランテーションなどの証拠を収集し、法的措置を取るために役立てている。中でも、ペルーのコミュニティは、この活動を通じた森林破壊の削減によってレインフォレスト財団から資金を得て、土地の権利取得手続きに充てることができたそうだ。最終的には、政府が先住民族やコミュニティに土地の権利を認め、罰則を強化していくことが不可欠だが、衛星データの活用は、直接行動では危険も伴う土地の監視や記録に、小さなコミュニティが取り組むための大きな武器になっている。

05:グリーンベルトからグリーンインフラへ:都市計画における「自然」

都市における「自然」とはなにか?という問いのもとに、都市計画の歴史を辿りながら、その時々で「自然」が意味してきたことを整理した論文。例えば、19世紀末に提唱された「田園都市(garden city)」の考え方は、都市部の周縁に緑地帯を設ける「グリーンベルト」という手法の発端となったが、その背景には、近代化によって大気も衛生状態も悪化した都市から逃れるために、自然を守ろうという意識があった。しかし、21世紀の今では、都市は生態系に影響を与える自然の一部として、さらには地球環境の中の「システム」として捉えられ、都市そのものが「再自然化」すべき対象となりつつある。また、論文中でダブリン市の事例から読み解かれているように、都市計画の文脈では「グリーンインフラ」という考え方が前面に出てくるようになった。時勢に応じて変遷してきた「自然」や「緑化」といった言葉の射程。自分たちも、その背景や文脈を踏まえながら使っていかなくてはと思わされる論考だ。

The ‘natures’ of planning: evolving conceptualizations of nature as expressed in urban planning theory and practice
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09654313.2017.1404556

06:垂直農業の第一人者が提言する、森のような都市

人口増による食料危機の解決策として『垂直農場―明日の都市・環境・食料』を執筆し、垂直栽培ブームの火付役になった研究者ディクソン・デポミエ。本インタビュー記事では、新刊『The New City: How to Build Our Sustainable Urban Future』に詰め込まれた、エコロジカルな都市をつくるアイデアが紹介されている。その中心となる主張は、木造建築を増やすこと。CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー:木目を直交方向に積層することで強度や耐火性を高めた人工木材)は、現在主流のコンクリートよりエネルギーがかからず、環境負荷が低い。しかし、実際に広く普及させるためには、森林を増やす必要がある。森林が増えれば建材としてだけでなく、二酸化炭素の吸収も大幅に増やすことができる。では、増え続ける人口(少なくとも向こう数十年)を賄う農地の確保はどうするのか。垂直農法で補えば良いというのが著者の主張だ。都市の暮らしと自然を調和させる「森のような回復力ある都市」という意欲的なビジョンだが、果たして今後いかなる展開を見せるのか。80歳を超えて未来を提案し続けられるエネルギーには脱帽してしまう。


Comorisシェアメンバー募集中(4/24まで)

2024年5月からの4か月間、代々木上原に小さなアーバンフォレスト「Comoris」をオープンします。都市に新たな森をつくるノウハウを学びながら、在来種を基本とした森づくりを進め、シェアメンバーは、パーソナルプランターでの植物育成や各種イベントへの参加、山梨の森での研修など様々な特典を得ることができます。

あなたもこの新しい試みの仲間となって、 一緒に学び、実践してみませんか? 参加をご希望の方は、以下の記事中の募集要項をお読みの上、ご応募ください。多くの方のエントリーをお待ちしております。

本記事は、ニュースレター2024年3月号のINSPIRATIONSを転載したものです。最新の内容をお読みになりたい方は、以下のリンクよりご登録ください。ニュースレターを購読する ▷


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