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【全4回連載:畜産の新しいカタチ】牛のふん尿で自給自足も?全国で進むバイオガスプラント最前線

こんにちは!ER.の鈴木です。
さて、前回では「【全4回連載∶畜産の新しいカタチ】牛のげっぷ・ふん尿を資源に!メタンガス排出削減の最新動向と使えるソリューション特集!」として畜産業が置かれている現状や各国で進む政策動向を見てきました。

今回は具体的な取組・ソリューションを見ていきたいと思います!


メタン排出削減に向けた3つのアプローチ!

畜産由来のメタンガスに対して各国のベンチャーや企業、研究機関などで研究や実用化が進められていますが、具体的な活用方法を整理すると主に3種類ありそうです。

A.エネルギー源として活用:牛などのふん尿をバイオガスなどに変換→電気や熱として利用するもの。化石燃料の使用量が減るため温室効果ガス排出削減が見込まれます◎
B.飼料の工夫:牛の飼料中の配合や原料を変えることで、げっぷなどに含まれるメタンガスを最大9割削減できることが近年の研究で明らかに◎
C.メタンガス排出抑制マスクを牛へ装着:牛から排出されたメタンをマスク内で二酸化炭素と水に分解(※1)し、温室効果の抑制するもの◎
※1 大気中のメタンは、7年間でその半分がメタンよりも温室効果が小さいCO₂や水に分解されることがわかっています。

メタン排出削減のための3つのアプローチの整理
「「牛のげっぷ」を“クリーン”にするマスクが、気候変動の進行を遅らせる? 英スタートアップの挑戦」WIREDより画像引用

今回は、その3つのなかでも全国で導入が進む家畜のふん尿を活用したエネルギー利用について、その仕組みや実際の取組事例を見ていきたいと思います!

ふん尿がどうやってエネルギーに?その仕組みと導入の3パターン

家畜排せつ物をエネルギー資源として活用する取組ですが、ここ10年、酪農大国・北海道を中心に導入が進んでいます!
なお、その使い道は電気だけではなく、温水利用や、バイオガスの精製過程で農液体肥料(液肥)も生成されることから、エネルギー以外での使い道も実用化されてきています。

このバイオガスエネルギーの製造プロセスは意外にシンプルで主に3ステップ。

①排せつ物を1つのタンクに集める
②タンク内で嫌気性発酵させる
③②で生産されるバイオガス(メタン)を原料に用途に応じてバイオガスボイラーで温水として、ガスタービン発電機で電気として、バイオガスにならない分を液体肥料として利用する

バイオガス発電 | 大商金山牧場バイオガスプラントより画像引用

更に具体的にバイオガスプラントを導入する場合、その形式として主に3パターンあります。それぞれの導入方法による特徴やメリット・デメリットは以下の通りまとめましたが、中でも重要な点について簡単に説明します。

バイオガスプラント導入の3パターン
(参考:令和2年度畜産環境シンポジウム 農林水産省資料)

1つ目は『個別型』というパターン。
こちらは一つの畜舎や畜産農家さんに対し1プラントという形で導入するものです。営農状況に合わせて個別最適に管理できるのと、基本畜舎に隣接する形でプラント導入されるのでふん尿の輸送コストが削減できるメリットがあります。ただ個別最適化できるがゆえに、プラント運用の維持管理のための労力は発生するのと、飼育頭数にもよりますが、もととなるふん尿の量が小規模だと発電コストが最終的に割高になる傾向にあるようです。
個別型の例として、町ぐるみでバイオガスプラントを導入しているところも。北海道士幌町は2003年から導入を開始し、2014年には農協がプラント建設(4基)を行い、個別酪農家もリース進め、現在は個別型が11基稼働しているようです。

400頭の牧場に導入されている北海道士幌町の事例
(令和2年度畜産環境シンポジウム 農林水産省資料より引用)

また、2018年~2020年には北海道上川郡清水町をフィールドに、㈱北土開発、エア・ウォーター北海道㈱、帯広畜産大学が国内初・小規模酪農家向けのメタン発酵プラントについて実証研究に成功
一切の加水をせず、酪農家の作業負担もほとんどない原料の自動投入装置が完成し、1日あたり約6.2トンのふん尿の処理が可能。バイオガスの一部を精製し、約98%以上のメタンを含む高純度メタンガスも製造でき、このガスを燃料電池に供給したり、ガス発電機に投入すれば、牛舎や住宅に使う電気・熱エネルギーなどを自給することもできます。

北海道上川郡清水町に導入された乾式メタン発酵プラントの図
(NEDOプレスリリースより画像引用)

2つ目の方法は『共同型』
共同型では、例えば1つの畜舎ではなく、近隣の畜産農家さんでシェアする形で導入します。自社だけで導入するのが費用対効果的にハードルがある事業者さんにとっては共同型にすることで導入コストも下がり、一定のふん尿量も確保できるという所にメリットがあります。他方で、畜産農家さんたち自身の物理的距離が充分に近くないと結局輸送コストがかかるので、距離の制約などを踏まえ、共同型で導入できるところは限られてきそうです。
実は先ほど出てきた士幌町はこの共同型をうまく活用。
250頭を有する川口牧場と200頭を有する山岸均牧場が連携してバイオガスプラントを導入しています。

士幌町の共同型事例
(令和2年度畜産環境シンポジウム 農林水産省資料より画像引用)

最後は『集中型』のパターン。
こちらは多数の畜産農家さんで運営する比較的大型のプラントを導入する形です。
大型になってくると牛などのふん尿だけでなく、家庭の生ごみなども受け入れるケースもあります。規模感からも公共性が高くなる傾向があるので地方自治体などが推進するところも多いようです。
しかし大規模ゆえの課題もあります。
導入のためのイニシャルコストが高額になりやすく、タンクなどが大きいため成分が不均一になりやすい、多量にガスが得られるのでそれをどう効率よく活用するかを事前にきちんと設計する必要があるなど様々です。
この集中型の導入事例としては、京都府南丹市八木バイオエコロジーセンター(処理能力 65.2 t/日、発電機容量230 kW)、大分県日田市バイオマス資源化センター(処理能力 80 t/日 、発電機容量340kW)、北海道鹿追町(処理能力 94.8 t/日と210 t/日、発電機容量290 kWと750 kW )などがあげられています。特に鹿追町は2007年より1,300頭分のバイオガスプラントを、2016年からは3,000頭分のバイオガスプラントを設置。2018年度の総売電量は617万kWhにも上り、町内総世帯数(2500世帯)の約7割分の電力需要をカバーしています。またバイオガス精製時に生まれる余剰熱を利用して、チョウザメの養殖やマンゴーのハウス栽培なども行い、高単価の一次生産事業が進められています。

3,000頭分をカバーする瓜幕バイオガスプラント
(令和2年度畜産環境シンポジウム 農林水産省資料より画像引用)

畜産農家さんにとってのメリットは?

肉食人口が増え→飼育頭数が増えるといった流れの中で家畜のふん尿も増えてきた日本。そのなかでふん尿処理は実は長年畜産農家さんの悩みの種でした。
従来は、ふん尿をそのまま野に積んでいく「野積み」や掘った穴に埋めていく「素掘り」などがメインでしたが、他方で水質汚染やそれによる生態系の破壊、加えて悪臭による住民への被害などもあり、”畜産公害”と呼ばれることもあった時代もあったほど。

「ふん尿は自然に還るのだからそのまま使えるのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、生ふんには病原菌や寄生虫の卵が含まれることがあり、生のまま農地に施用すると人や家畜に感染するリスクがあったり、土壌中で分解する際にガスが発生することから、作物が生育障害を起こす恐れがあることも指摘されています。

また、ふん尿処理をきちんとするにはそれなりの設備投資も必要のため、なかなかバイオガスプラントの導入が進みづらかった背景もあります。
(人間の場合は下水道や浄化槽などの整備で何とかしていますが、世界には16億頭も牛がいるとなると改めてふん尿処理を考えていく必要がありますね。。)

そんななか、バイオガスプラント導入の転機となったのが2012年7月に導入された再エネの固定価格買取制度(Feed-in Tariff:以下、FIT)。
FITによりバイオガスプラントで発電した電力が高い価格で電力会社へ販売することができるようになったことから、厄介ものであったふん尿処理が、売電して”新しい収入を獲得するため”のビジネスチャンスとして捉えられるように。現在ではバイオガス発電や熱利用などのエネルギー事業に着手する事業者が北海道を中心に増えてきました。

こうした歴史を踏まえた上で、改めて畜産業者にとってのバイオガスプラント導入のメリットは↓の通りに整理されています。

☑ ふん尿の適切な処理により地下水・河川汚染の防止や悪臭除去が可能に
☑ 従来と比べて家畜ふん尿処理の労力が大幅に軽減されるケースも
☑ 畜舎によっては貯留槽まで自動処理できるので堆肥化処理の人的コストも削減に
☑ 従来の堆肥化で必要だった水分調整資材(おが粉等)の購入が液体肥料になったことで不要となりコスト削減へ
☑ 液肥の散布にあたり散布機を導入している場合は、散布作業の負担が軽減
☑ クリーンな畜舎のイメージ向上や高付加価値化につながるなど

令和2年度畜産環境シンポジウム 農林水産省資料より引用

まとめと次回予告

いかがでしたでしょうか?

バイオガスプラントメーカー自体の導入実績も増えてきているので、今後導入を具体的に検討される方は、
・どのパターンのバイオガスプラントがありえそうか?(個別型か、共同型か、集約型か)
・飼育頭数踏まえて実際導入するとしたらどのくらいの発電量が見込めるか?
・液肥などの具体的な使用先(自家消費か近隣農家への販売など)
・上記をトータルで見たときの具体的な収支
などなどを考えたほうがよさそうです💡

さて、次回は【全4回連載】の3投稿目として、ここ数年でめちゃめちゃ研究が進められてる家畜の飼料開発を取り上げます。お楽しみに!

それでは、牛にも畜産農家さんにとってもよりハッピーな未来にむけてLet’s ジャストラ!

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