19YEARS #6 予言スクリーン
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2013年7月
ささ、という店へ行くことが日課のようになっていた。カフェのような飲み屋のような店で、お酒が苦手でも、1人でも、気兼ねなく溶け込める。コーヒーもお茶も美味しくて、体に馴染むような食事もあるのだった。
何より、マスターの佇まいが素晴らしくて、心の傷が異常なわたしのことや、他にも道に迷っている人や、体が病んでいる人など、深く癒しを必要としている人々を、大きな愛で包んでくれる存在だった。
カウンターには、いつもいる人、時々会える人、初めての人などいろんな人がいて、隣り合った人と気兼ねなく話せるのは、マスターの何気ない存在感のおかげだった。家に1人でいると、地獄の底にすぐ沈んでしまうので、わたしはまるでもう1つの家のように、ささで長い時間を過ごした。4時間くらいいることも度々あった。
人と知り合うたびに必ずささに連れてきた。まるで友達を親に紹介するみたいに。マスターは、お客さんを連れてきてくれてありがとうと言うのだが、お礼を言うのはこっちの方なのだ。私は人と知り合うことが不安なのだった。すすむ亡き後、初めて東京で、自分1人で人と繋がり始めていたから。
ささという自分にとっての安全地帯に連れてくると、初めて落ち着いて話ができた。古い友人も、知り合ったばかりの人も、みんな連れてきた。そこで一緒に過ごすことが心の安寧だった。
ある日の夜、ささに行くと、Cちゃんがカウンターにいた。彼女は私にとって、身内みたいな人だ。すすむの葬儀の時は私のそばにずっといて、すべてを取り仕切ってくれた。しっかり者の妹のように。
カウンターのCちゃんの両脇には、音楽家Tくんと整体O先生がいた。3人とも心許せる人ばかりなので、輪の中に入れてもらって、楽しく喋っていた。この4人は、共通の興味があるので、話していて本当に楽しいのだ。体から心のこと、ひいては宇宙にまで想いをはせ、熱く語ってしまう。その日は、閉店になってもまだ話し足りなかった。
「今からうちにおいでよ」
Cちゃんが言った。夜おそく、女性の部屋に男性と集まるなんて若い人みたいで新鮮に思えた。4人は私の車に乗り込んで、学生みたいにはしゃぎながら、夜道を走っていった。Cちゃんは私より10歳年下。TくんとO先生は、さらに若い。
このごろ、私の周りにいる人達は、年齢的にずっと若い人ばかりだ。だけどみんな、変に年上扱いしないで付き合ってくれる。対等に議論したり、仕事を助けたり、遊んだり、目の高さが同じなのが嬉しかった。
Cちゃんの家で楽しく飲み直しながら、話している時、ふと、このメンバーならわかってもらえる気がしたので、あのことを話してみようと思った。
「この頃、亡くなったすすむさんと、普通に会話してるんだよ」
3人とも、何の違和感もなく、そうなんだね、とわかってくれた。
「それでね、すすむさんがこないだ、私に結婚しろって言ったの」
「へぇー」
「だから私、彼氏探しを始めようかな」
そんな告白をするのは照れくさかったけれど、誰かに宣言することで現実になっていくような気がしたのだ。
「それはいいことだねぇ」
とCちゃんは言ってくれた。
「で、今、気になる人とかはいないの?」
「えー。そんな人はまだいないなぁ」
私の口は、そう答えていたと思う。けれどその時、頭のど真ん中に、ばーーーーん、とある人の顔が現れた。え・??と思った瞬間、目から涙がぶわっとあふれた。
3人はあっけにとられていた。
「あっこさん。その人のこと、好きなんだね」
まさか、そんな。
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