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あの頃へ…9…夏の日の友達

近所のお兄ちゃん

我が家を出て神社の脇を通り、まっすぐ行った先、子どもの足では少し遠く感じた場所に、規則正しくカコーン、カコーンと鳴り響く庭園がある。
幼馴染と一緒に夏休みにだけ出会えるお兄ちゃんと遊ぶ。
庭の奥に竹林があり、その中を通り抜けると小川や土手がある。おじさんの手を借りて適当な竹を切り出し、お兄ちゃんに水鉄砲の作り方を教えてもらう。ふた手に別れて無邪気に撃ち合い、逃げ回る。

時には、夏草が咲く庭でたくさんのお喋りをした。知らない学校や友達の話はとても興味深く、質問攻めにすることも。
夏休みを存分に遊び、お別れの時。
バッグにつけていた大切なピンバッジをいただいた。握りしめながら帰り道を元気なく歩いた。

隣家のおばあちゃんが囲炉裏ばたで「おやき」を焼いてくれた。灰の中からかき出し、ふーふーすると今日のおやつができあがり。自家製粒あんが美味しかった。田舎での日常が戻った。

記憶への誘い

職場で公共のイベント準備や設営が終わり、昼休み、会場近くにある上司のお宅に4、5人でお邪魔した。大きな古民家の井戸にはスイカが冷えていた。上り口の横には、木箱の中に氷柱を入れた昔の冷蔵庫が置いてある。
疲れた体を休めるため、案内された広い和室にそれぞれが横になる。私は縁側の床板が気持ちよくて、庭に面した場所に横になった。
ゆらゆらと煙る蚊取り線香、サワサワとそよぐ竹林のざわめき。心地よく睡魔に誘われる。

カコーン、カコーンと懐かしい音に耳を澄ましながら目覚めた。一瞬で探していた遠い夏の記憶と出会った。30年前、幼少時に訪ねた庭だと気づく。小さな足で歩いた庭園や竹林、小川のせせらぎの記憶がよみがえった。