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事例から学ぶ内部統制

はじめに

急成長しているスタートアップ企業では、事業の拡大のスピードに内部統制システムの構築のスピードが間に合っていないというケースが多くあります。事業の黒字化することが最優先で、 直接利益を もたらさないバックオフィス業務の人材の状況は後回しになりがちなのです。 バックオフィスの中でも人事は人を雇う際に必要がありますし、経理も金銭の管理や税金の支払いのために必要なので、わりと早めに採用される傾向がありますが、 直接収益を生み出さない内部監査部門はIPO直前になって用意される企業が多いのではないかと思います。 IPOがまだ先のスタートアップや上場していない中小企業においては、 性善説に立った管理体制しかなく、内部統制システムの構築が不十分で不正や不祥事の発生が起きやすい状況であることが多いのではないでしょうか。 このような企業においては、従業員や取引先が少ないうちは経営者の目が行き届きますが、 だんだんと従業員が増えていき事業規模も大きくなっていくと、 経営者の監視が及ばなくなり不正や不祥事の発生リスクも大きくなっていきます。

事例から学ぶ内部統制

そこで本日は、「事例でわかる 不正・不祥事防止のための内部監査」(樋口編集著・高橋著・山内著)を元に、 スタートアップや中小企業で留意すべき不祥事や不正の防止のポイントを勉強してみたいと思います。本書では不祥事の具体的な事例をたくさんあげて、 どのような視点で内部監査を行うべきかが説明がされています。

その中でも私が特に気になったのは、上記書籍の第2章で紹介されている①従業員による架空発注・水増し発注が繰り返された事例、② 経理担当者による会社預金口座からの不正な引き出しが行われた事例、と③従業員により10年以上の金銭が着服されていた事例などです。

不正のトライアングル

不正がなぜ発生するかについては有名な「不正のトライアングル」と言う仮説があります。 これはアメリカの犯罪学者であるクレッシーが唱えたものですが、不正は不正行為を実行する「動機」、 不正行為の「機会」、不正行為を「正当化」する状況 の3点が揃った時に起きるというものです。 この観点から 前記の不正・不祥事事例を見てみると、 会社の経営者が行える最善の策は不正行為の「機会」をなくすことだといえます。 この不正の機会をなくすための社内体制の整備が、まさに取締役に課せられた内部統制構築義務にあたるのではないでしょうか。

具体的事例

まず①従業員による架空発注・水増し発注が繰り返された事例では、 接待日や交際費を捻出するという動機のもと、 現場の慰労のための必要経費であるという正当化がされていると分析できます。そして、 経営者は不正行為が行われる危険性があることについて認識できておらず、人事ローテーションを組んだり管理監督制度を入れたりすると言う内部統制体制が整備されておりませんでした。 そのため不正を行う機会があったのです。

次に②の経理担当者による会社預金口座からの不正な引き出しが行われた事例では、行為者には銀行のカードローンなどの債務が存在すると言う個人的な事情が動機となっていました。そして、このような従業員がいるにもかかわらず会社の経理体制には不備があり不正を行う機会がありました。 この事件で特徴的だったのは、この会社には経理部における業務の運用ルールがあったにもかかわらず、人手不足を理由にこのルールの運用が形骸化していたという点があります。
また、③の従業員により10年以上の金銭が着服されていた事例においても、マンパワー不足によりダブルチェック等が社内規定通りの運用が行われていなかったということが原因になっています。

これらの事例からは、内部統制システムの不備はルールがないことではなく、むしろルールが形骸化していることの方に危険が潜んでいると言うことがよくわかります。
IPOに向けて大慌てで社内規程を作ったり、 会社の組織が大きすぎて社内規程通りの運用を各部門に徹底させるのが難しかったり、 ルールが形骸化する理由はたくさんあると思います。 ルールがきちんと守られているか、モニタリングする機能が内部統制にとっては重要になるのです。

それでは、また。

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