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#8 雪隠と留学 [第1部インドネシア編] ep.II 「ボルケーノ」

インドネシア第一夜。

三人部屋に泊まった。チェックイン時の集合写真では数人の足元だけが不自然にブレていた。

 部屋のトイレには謎の張り紙「この部屋は暗闇を恐れない」。そしてシャワールームは寝室の一部にあり、すりガラスのドアと壁だけで上部は一切覆われていないため、頭を洗うときなどは気を使わなければベッドまで水しぶきが飛んでいく構造だ。そのベッドもダブルベッドの上に二段ベッドの要領でシングルベッドがあるという不可思議なもの。

 滑川がスマホ充電のために延長コードを挿した途端、部屋のブレーカーが落ちた。チェックアウトするまでとうとう電力は戻らなかったが初日としては絶好の滑り出しだろう。

 このインドネシア編を語る上で欠かせないのはこの滑川の暗殺計画だ。
首謀者はナマダリ・ひとみ、同じ高校出身の参加者だ。動機は彼のあまりにも調子に乗りすぎた態度である。

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 この国は日本や日本人に対してある種の憧れを抱いているようで、街の広場を歩いていると我々が一般人であると知ったうえで写真撮影を求める列が出来上がるほどだ。中でも彼は当時、髪を染めており、非常に目立っていたためか特に人気だった。母国では味わえない歓びを少々振りまきすぎたようだ。

 ナマダリの作戦はペットボトルの水を水道水にすり替えるというものだ。インドネシアの水道水は慣れていない日本人にとっては下剤そのものであり、入手の手軽さがこの作戦の核になっていた。結果として未遂に終わったが、帰国後の打ち上げの席ではその気持ちはまだ途切れていないと話していた。

体調不良で病院送りになったのは前述の誕生日コンビだったというのは有名な話。

 ホテル近くのボルケーノという鶏肉のグリルがおいしいレストランでボルケーノような勢いで食べてたマロシは突如顔色を変え、今度は自分がボルケーノになってしまった。

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インドネシアからは思掛けない土産を幾つも貰ってしまった。踊りに使う馬を模した人形、染物「バティック」専用のペンや影絵「ワヤン」用の人形などもなかなかわやな土産だったが、何よりも現地学生の熱意に感銘を受けた。

同じ大学生とは思えない優秀さと学びに対する純粋な興味や姿勢があまりにも衝撃的だった。学部に関わらず英語は堪能で日本語学科の学生は三年生にもなれば会話にほとんど支障がない。恐るべし。このままでは日本などすぐに追い越される。

帰国後、野球部の練習に参加するのはやめた。

―― 第1部 インドネシア編・――

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次回予告『#9 雪隠と留学 [第2部 ドイツ編] ep.I 「アウトバーン」』

現在、海外の大学院に通っています。是非、よろしくお願いします。