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#40|1 2020年8月23日 ウトナイ湖上空

 安直すぎる。映画や小説の導入部分、書き出しが表紙と同じなんて。それでもそこから書き始めてみることにする。どうせこんなものは自己満足に過ぎない。そしてこれが飾らない現実だから。飾ったってしょうがないしょ。

 青空は何色だろうか。
「今日はスペイン晴れだ」
「札幌の青は薄い。」
たしかに。マドリードのは濃くて深いように見えた。いつも見ていた藻岩山をなぜか今日は見なかった。これからたくさんするであろう後悔の1つかもしれない。最初の後悔ではない。いくら自分が全ての原因ではないにせよ、根本的な非は免れない。今までほぼ一切の影響を受けていないつもりでいた流行りの新型肺炎に最後の最後で物理的に干渉された。感染者を責めるつもりはない。もはや逃れることはできない。代替案は既に考えてある。もちろん計画は完璧ではなくなったが、早めに取り返しのつく失敗をしておくことは安心につながる。一番の近道はいつも遠回りだ。
 新千歳空港のインフォメーションでは笑顔の作り方を教えてもらえる。便は10時半発なので、ちょうどよくOに会うことができた。もしかしたら合わせてくれたのかもしれない、という浅はかな過剰した自意識を抑えて「雪待人」を手渡す。いつもの恥ずかしさの中にある、めんこさは筆舌に尽くし難い。これがいかに幸せなことか理解できるほどの人間になれていないのが歯がゆい。なぜあの時もう一歩、もう一言が出なかったのだろうか。
 昨日食べたギリシャ土産のオリーブのせいか、若干の腹痛を感じながらもkindleで「質料と形相」の章を主翼より少し前方の窓側席で読んでいると雲の上に出た。この空という質料は青のグラデーションという形相に属する、と言えば正しいのだろうか。
 羽田空港にあるうどんチェーン店には数年前にドイツ語の通訳のアルバイトを一緒に大倉山でやった後輩Mが働いている。ちょうど昼時でもあったので生卵が乗ったのにだし醤油をかけて、揚げたてのさつま揚げを齧ると、第二の故郷である鹿児島を思い出した。
 第三ターミナルで働いているYの家に泊めてもらうことになっているので出発カウンターの近くの電源を使ってYouTubeでIndy 500のCurb dayのハイライトで決勝フロントロースタートの佐藤琢磨の調子はどうか、来季のF1復帰が決まっているF.アロンソはどうだ、とみていると暇そうなYがやってきて「浮浪者みたいだ」と話しかけてきた。たしかにスーツケースを2つ持ち、片方は半分開いて中が少し見えたまま同じような紺色の半袖短パン姿はお世辞にも紳士には見えないだろう。

(16:19 羽田空港第三ターミナル TALLY'S COFFEEにて執筆)

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