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#54|15 2020年9月6日 下手な歌と意外な歌

 しし唐を3つに輪切りにする。この国のしし唐はなぜか大きい。詳しくは調べてないけどもしかしたらピーマンなのかもしれない。そもそもピーマンとしし唐の違いって何だろう。フライパンに油をひいてしし唐を乗せる。皿に既に切られたサニーレタスやオオバコのような味のする葉を袋から取り出して乗せる。トマトは残してもサランラップにくるんだりしないといけなくて面倒だから8等分に切って1個分を全部皿に乗せる。しし唐の片面に焼き色が着いたら裏返してベーコンを3枚同じフライパンに乗せる。脂が跳ねるので蓋をした。皿に乗ったトマトには塩を軽くかけて、サラダにはオリーブオイルを少しとバルサミコ酢を少しかけた。あまりかけすぎると後でベーコンについてしまうからだ。蓋を開けてベーコンを裏返す。その上に生卵を乗せて目玉焼きを作ろうと、殻を割ると思ったより弾力のある感触だった。違和感はあったがそのまま割り入れようとすると、見慣れた白い塊が隙間から覗いた。なんてこった。ゆで卵だ。スーパーで既に茹でられた卵が平然と並んでいることなんて全く想像していなかった。6個も買ってしまった。とりあえず殻を剥いてフライパンにそのまま載せる。混乱した頭で2個目の殻も剥いてフライパンに乗せた。あと4個もゆで卵を食べないといけないのか。卵焼きを作ろうと思ってせっかく醤油も買ったというのに。ベーコンの両面に焼き色が付いたので同じ皿に盛り付けた。部屋にあるパンと合わせて引っ越し後初めての生野菜のある食事だ。机の上に置いておいた黒胡椒を削ってかけて食べた。口内炎には沁みるけど結構おいしい。トマトはそんなに甘くないけど塩も振ってるしバルサミコ酢の酸味がさらによく合う。
 夕方になり、ベットに寝ころびながら本を読んでいるとMが友達と一緒に飲んでいるからバルに来ないか、とメッセージが来た。映画『イエスマン』に影響されて前に留学していた時もほぼすべての誘いに乗っていたので今回も即答した。もちろんMの人柄があってこそだ。授業が始まる前にできるだけスペイン語に触れる時間も増やしておきたい。
 シャワーを浴びて服を着替えてから家を出ると外は風が強かった。日本では台風が来ているというニュースを見たな、と思いながらたくし上げたシャツの袖を元に戻す。日曜だしもう9時近いので外はあまり人がいなかった。もう街中から帰っていく人たちの方が多いみたいだ。バルに着くとMとMの友達が食べ終えたばかりであろう空になって揚げ物の衣が少しだけ残った皿とあとひと口分だけ残ったグラスを片手に迎えてくれた。何か飲むか聞かれたが、すぐに次の店に行くならここではいらないと答えて2人が飲み干すのを待ってから店を出た。
 スマホで地図を見ながら歩くMについて行くとMの同居人とその友達が飲んでいるバルに着いた。2人ともコロンビア人で、1人はこちらの顔を見て英語で挨拶をして、もう1人はスペイン語で名前を名乗った。どこかアメリカ英語のようなコロンビアの訛りがあるスペイン語を話していたのでMよりは少し聞き取るのが難しかった。彼は僕のことをコウイチと呼んでいた。コロンビアにいる知り合いの日本人がコウイチという名前らしい。特別いい気分はしないが、長い付き合いになるとも思えないのでこのことについては何も言わなかった。
 赤ワインを1杯とトルティーヤを食べて5人で店を出た。もう12時近かったので飲食店もほとんど閉まっていたが、まだ開いている店があったので入った。石を積み上げたような内装の店で、中に入ると目の前のカウンター席でギターを弾いている人がいた。おそらくあまり上手くはないのだろうが、僕は弾けないので批判をする立場ではない。少ししてビールを飲みながらMとMの友達のお互いに一歩も譲らない、会話分析でいうところのオーバーラッピングばかりするのをラジオ感覚で聞いていると、ギターを弾いていた人が歌も歌い始めたが、やはりさほど上手くないようだ。いや、僕は歌が下手なので批判をする立場ではない。

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