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#13 雪隠と留学 [第3部 スペイン編] ep.II 「スウェーデン大使館」

留学先の授業は9月1日に始まる。この時点で六月上旬である。

 ビザの申請から発行まで二ヵ月要すること、犯罪証明書と健康診断書が一ヶ月のみ有効であることを考慮すると6月の上旬から中旬までに全ての書類を用意し、8月下旬の出発を目指さなければならない。

ビザの発行される日付は郵送で受け取りが可能な日にち当日に知らされるため、直前まで出発日は確定できない。つまりその郵送が来るまでは航空券も購入できない状態だ。

6月上旬時点で用意できていない書類があと一つある。

留学先の大学が発行する留学証明書だ。
こればかりはスペインから郵送されてくる原本を待たなくてはならない。この時代に紙媒体限定である。

 6月中旬を過ぎた。大学の国際課を通じて何度か催促の連絡をしたが、すでに送付済みだという。下旬に差し掛かり、いよいよ切羽詰まってきたため、改めて催促をするともう一通念のために送ったとのことだった。

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 シリアの内戦に巻き込まれたのだろうか、インド洋あたりに浮かんでいるのだろうか、北朝鮮に撃ち落されたのだろうか、などと考えているうちに金曜日のお昼過ぎにようやく届いた。

 翌月曜の朝7時半ごろ発の便で東京へ向かった。スペイン大使館は平日の午前中しか窓口が開いていないのだ。

 10時頃、コンクリートの森と地下鉄の海を渡って六本木にあるスウェーデン大使館、じゃなくてその向かいにあるスペイン大使館に到着してようやく申請が完了した。

窓口では偶然にも数分前に到着していた杉田さん(同じゼミで同時期に留学)ができるだけ発行を急いでくれないかと懇願していたが、あっさりと断られていた。

近くでお茶してから羽田空港で豚丼を一緒に食べた。

日帰りで夕方5時頃に新千歳に到着する便で帰札し、その足で直接大学へスペイン語の授業を受けに行った。

東京は怖いところだった。

6月だというのに息の詰まるような暑さ、そして、東京タワー。あれは刺さるぞ。あのは夢を持って上京し、挫折した田舎者たちの血だ。

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 7月中旬、ボロボロの封筒に入った留学証明書が届いた。一通目だ。

 大学生協の山品さんと何度か話し合い、8月28日月曜日に新千歳を発ち、29日火曜の午前中六本木の大使館にてビザの受け取り、翌30日水曜日にマドリードに向けて成田空港からの直行便に乗る、という戦略を立てた。大使館からビザ発行の通知が来ない限りは仮予約にして代金は払わずに席のみ確保することにした。

航空券の最終購入期限は8月25日金曜日の昼12時

 ビザなしではスペインに渡ってもどうしようもないからである。この便は授業開始日に間に合うぎりぎりのものだ。もし通知が金曜の昼までに届かなければ出発は延期、授業初日には間に合わない。

 8月24日木曜日夜。
授業を終えて帰宅してすぐに郵便受けを確認したがまだ届いていなかった。未配達で郵便局にあるかもしれないと思い、自転車を駆った。帰り道で顔に蜘蛛の巣をかぶった。

 8月25日金曜日朝。
我が家には一日一回郵便局が郵便物を午前10時頃に配達しに来る。航空券の期限はこの日の昼12時。前日に山品さんから電話がきて、金曜日は自宅で配達を待ち、届き次第山品さんに即連絡、との段取りになっていた。11時になり、1台の赤いバイクが郵便受けに何かを投函していった。

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山品さんは電話口で嬉しさと安心からか、涙声になっていた。

次回予告『雪隠と留学 [第3部 スペイン編] ep.III 「30€」』

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現在、海外の大学院に通っています。是非、よろしくお願いします。