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#56|17 2020年9月8日 情

 たまに本当に自分のことが嫌になることがある。3年前のあの日も今日と同じだった。昼飯を作ろうと思って野菜を刻んでいたら包丁でうっかり指を切ってしまった。たいして大きい傷ではなかったけど血が出てきてホストマザーに絆創膏をもらった後もパニック状態のようになって脈が速くなって貧血を起こしてベットに倒れこんで数分は動けなくなった。前はこんなことがなかったのに怪我をすること自体がだんだん非日常になってきているからかもしれない。毎日野球をしていたあの頃の方がよっぽど血を流していたはずだがこんなことは一度もなかった。
 そして3年後の今、またもや同じ症状に襲われた。いつ指を切ったかは分からないが、調理も後片付けも終わらせて料理を自分の部屋に運んでノートパソコンのマウスに触った時に血が付いたので気が付いた。痛みは全くなく、トマトソースのパスタを作ったので最初はそれが付いているだけだと思ったが、血独特の酸化して色が暗くなるのを見て確信した。右手の人差し指に小さな傷を見つけるまで体調に変化は全くなかったのに出血している事実を自覚したとたんにまた動悸が激しくなってしまった。パスタが伸びる前に早く食べたい気持ちとは裏腹にベットに横たわってただただ呼吸をしている自分が情けなかった。頭の中ではまずゆっくりと「情」の漢字を2、3度書き、そのあと素数を数えた。
 昨日Mに言われていた通り、既にパンプローナに着いている同じ学科の学生たちと会うことになった。全部で7人いて、おそらく全員がスペイン人だった。中でも印象に残ったのはAの話すセビーリャ訛りのスペイン語だ。発音もそうだが、かなりのスピードで話す。それに加えて語尾のsを発音しないので単語同士の差が分かりにくかった。当然僕は彼女のスペイン語を何度も聞き返したが、優しくスペイン語で言い直してくれたし、帰り道ではゆっくり話してあげると言ってくれた。
 まず、彼らのスペイン語を完璧に聞き取れないことは情けない。だが、酔っていたしスラングも多かったはずだ。少なくともこちらが言ったことは全部理解してもらえた。同時に複数人が話しているのを聞き取るのがさらに難しいが、こういう状況は珍しくないので聞き取れないのは情けない。でも聞き取れなかった時や理解できなかった時に英語で説明されるのではなくてスペイン語で言い換えてくれるのは嬉しかった。とうぜん1回で聞き取れていないのでその時点で情けないのだが。

(9/9 16:40 パンプローナ自室にて執筆)

落ち着け・・・・・・・・・・・・・・・
心を平静にして考えるんだ・・・
こんな時どうするか・・・・・・・・
2・・・
3 5・・・ 7・・・
11・・・
13・・・17・・・・・・・19
落ち着くんだ・・・
『素数』を数えて落ち着くんだ・・・
『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字・・・・・・・わたしに勇気を与えてくれる

ーーーー『ジョジョの奇妙な冒険 第6部 ストーンオーシャン』
                       エンリコ・プッチ


現在、海外の大学院に通っています。是非、よろしくお願いします。