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”屋台をやってみたら大変すぎた”という屋台博士が福岡屋台のあれこれをデータで解説します。

 福岡の屋台は、天神、中洲、長浜と3つの地区に大きく分けられます。今は福岡市に103軒(2024年1月末日現在)の屋台があります。これは103軒に占用許可が出されているということ。福岡市では2000年に「福岡市屋台指導要綱」ができて、屋台に占用許可が出ました。それは画期的でしたね。
 13年には「福岡市屋台基本条例」が施行され、屋台が守るべき基本ルールが明確になりました。さらに、公募制を導入したことで、個性的な屋台が増えたんです。グッドデザイン賞を受賞するような屋台が登場したり、料理も今までお決まりのラーメン、焼き鳥、おでんだけではなく、フレンチもあればイタリアンもあるし、コーヒーを出す店もあって、非常にバラエティー豊かになりました。
 今では年間約119万人が福岡の屋台を利用しています。また、屋台で飲食している人のうち、屋台が主な目的で福岡市に来た人※は13万5740人とされ、屋台利用者の11・4%になります。この主目的率は2011年調査時に比べ2倍近くになりました。このことからも分かるように、屋台は福岡観光の目玉の一つになっているといえるでしょう。
※市内居住者を除く

博多・天神。渡辺通りで空色が目を引くTelas&micoの屋台はグッドデザイン賞にも選ばれた

屋台をやってみたら大変すぎた!

 実際に屋台を引いたことがあるんですが、それはもう大変でした。夕方5時ぐらいから屋台を組み立て始めます。でも、その前に、まずは屋台を止めてある駐車場から決められた場所まで屋台を持って来なきゃいけない。自分で引いて来る人もいれば“引き屋”に頼む人もいます。そこから組み立てに1時間半ぐらい。福岡では夕方5時から翌朝4時まで占用していいことになっていますので、夕方から営業して深夜に解体してまた駐車場へ持って行く。
それから帰って風呂に入って、朝食を食べて7時頃に寝る。午後1時には起きて、それから仕込み。で、また5時から開店準備です。しかも、本人営業という原則があって、占用許可を受けた人が必ず店にいないといけないから他の従業員に任せられない。ね、大変でしょう?

屋台のかたちもいろいろ

 屋台といっても、いろいろなパターンがあるんです。問題になるのは、福岡の屋台のような公有地でなおかつ常設でやっているところ【図の❶】。占用許可を出すのは行政であり、道路使用許可を出すのは警察です。どちらも規制が厳しいため許可を得ることは、とても難しいです。それに福岡市では条例に従って行政側が上下水道の整備など衛生環境も整えないといけない。また、都市化が進んでいくと、ビルやマンションのオーナーからうちの前ではやめてね、という話も出てきます。

屋台の経済効果は104.9億円!

 屋台数105軒(2023年11月時点)、年間利用者数119万人、そのうち屋台を主目的とする人13.5万人。1人当たりの平均飲食費は1,923円であることから、屋台の年間売上高は22.9億円です。その他、屋台を主目的とする人の宿泊費や交通費、ショッピング費などを合わせると総需要額は90.2億円。福岡市提供の産業連関分析ツール「観光・イベント消費」を使って試算したところ、経済波及効果額は104.9億円と推計されました。これは2011年12月の53.2億円に比べ、約2倍になっています。

那珂川沿いの中洲の屋台街。ラーメン、餃子、うどん、おでん、焼き鳥、もつ鍋など、博多の名物料理が味わえる。キャッシュレス対応も進む

イマドキの屋台出店事情

 屋台営業が公募制になって福岡県外からも出店希望者が増えています。今では、全体の約4割が公募から生まれた屋台です。もともと飲食業の経験者多くて、開業するなら屋台をやりたい、あるいは、すでに店は持っているけれど屋台もやりたいというような感じです。昔はどちらかというと、飲食店を開きたいけど、やむにやまれぬ状況があって焼け野原の中で始めたわけですが、今はそうではない流れがあるようです。それに、若い人たちの応募が多いことも特徴です。

グッドデザイン賞受賞の「珈琲と蒸溜酒 メガネコーヒー&スピリッツ」。ハンドドリップコーヒーと、珈琲焼酎やコーヒーハイボール、クラフトジンなどがメイン

紆余曲折の屋台の歴史

 今の屋台は戦後のヤミ市や露店から始まっています。1948年にGHQが衛生面を理由に廃止を求めますが、福岡では移動飲食業組合を設立してこれと戦おうとするんです。しかし、福岡県は55 年に屋台の全面廃止の方針を打ち出します。このとき、当時の福岡県議・河田琢郎さんが厚生省に直談判し、厚生省は許可基準を示した上で屋台の営業を認めました。この許可基準というのが、今でも屋台営業に生きていて、例えばナマものを出したらダメ、直前に加熱して出さないといけない、などです。60~70年代は、都市化していく中で、全国的に警察や行政の取り締まりが厳しくなって、福岡でも400軒ぐらいあった屋台が80年代には250軒ほどに減りました。
 近年は100軒前後で推移しています。それでも、こんなに屋台がある都市は他にないから、希少価値は上がってきていますね。最初は地元の人のものでしたが、出張・転勤族が利用するようになり、ラーメンブームが起こったりして観光客も来るようになった。最近は外国人観光客も増えています。

子連れOKなので親子で屋台を利用することも

長浜屋台街が復活!

 長浜ラーメンで知られる長浜地区ですが、2年くらい前まで屋台は風前のともしびだったんです。「さよ子」という店1 軒だけで頑張っていらっしゃいました。公募をしてもなかなか新たな屋台が生まれない。ところが、2022年第4回の公募では名乗りを上げた経営者がいて、その中から7人が選ばれ、今では長浜屋台の8区画が埋まりました。この理由の一つには屋台のためだけではないですが、トイレなどインフラが整備されていること。もう一つは長浜地区は最近人口が増えて地価も上がり、マンションもどんどん建っていることが考えられます。長浜は天神まで歩いても15分ぐらいと立地もいいですし、ホットスポットの一つになりつつあります。

解説 八尋和郎さん(やひろ・かずお)
THINK ZERO代表取締役。九州大学大学院工学研究院修了、工学博士。九州経済調査協会に入社、地域経済の調査・研究活動を手掛ける。会員制図書館「 BIZCOL(I ビズコリ)」の初代館長、福岡市屋台選定委員会副委員長を歴任。

写真提供=福岡市


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