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地球転生前の記憶(後編)

ミネバは、プロジェクト実行の指揮官として、運命の瞬間を迎えていた。
彼は、恒星アルファのフレア活動を制御するビーム砲を搭載した宇宙船の管制室にいた。その映像は、モニターでイリウス星に実況中継されており、全イリウス星人がこの瞬間を見守っていた。

ミネバの表情に焦りや動揺はなかった。何故なら、狙撃位置、目標、タイミング、それら全てが、信頼すべき科学者によって計算されつくされていたからだ・・、のはずだった。

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放たれたビームはアルファの中心部に命中したが、その反応は、想定外のものだった。ビームはアルファの地殻変動を誘発し、かえってフレア活動が活性化する、という最悪の事態をもたらした。

もはや一刻の猶予もなかった。全てのイリウス星人は、直ちに大小無数の宇宙船に乗り込み、母星を放棄するしかなかった。高度な文明を持ったイリウス星人は、新たな移住先を求め、放浪の民に変わった。

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イリウス星人は、高次元の存在である。作戦は、イリウス星人の総意であり、科学者が最高の技術で練り上げ、誰もが最善を尽くした。イリウス星人はそれを理解しており、誰かを、または何かを責めることはしない。後悔という概念もない。出来事は全て偶然ではなく、起こるべくして起こることを知っていた。
これは宇宙の定(さだめ)であり、後はただ、その定を受け入れ、新たな希望を見出すしかない。彼らはそう考えていた。そう考えないものは、そもそもこの高次元には存在しない。


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どれだけの時間がたっただろう。地球時間との比較はできない。
ミネバは、放浪を続ける宇宙船の中で、その寿命を迎えていた。
周囲には同胞が温かい目で彼を見守っている。
やがてミネバは満足げな表情で息を引き取った。その満足はどこからくるのか、それは簡単なことだった。
理解者と協力者に囲まれて、肉体の限界まで生きた。そこには失敗や成功という言葉は存在せず、ただ共感があるだけだった。それで十分だったのだ。

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これが、地球に転生する前の私の記憶。
今までの過去世で、私が体験した一番古いものは、紀元前後のアラブで生きたイシュマエルなので、少なくともそれより前のものだろう。地球転生後の私は、地球人として何度も人生を繰り返しているようだ。

地球は、ミネバの生きた世界に比べれば、低次元で幼い。利得争い、偏見、主義主張の違いなどから、戦争を繰り返している。やがては自分たちの住む惑星まで破壊してしまうかもしれない。
そもそも地球の重力が体に与える負担は大きく、環境汚染、早い老化、人間社会の営みは、肉体的且つ精神的ストレスも与える。それだけの試練に耐えてまで、追求すべき価値とは何なのか。

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地球はこのまま暴走を続け、限界点に達して最後を迎えるのだろうか。
これも宇宙の定(さだめ)というのか。
私は何故ここに来たのか。ここで何を学び、何をしようとしているのか。
その謎を解くには、また別の物語があった。
(おわり)

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