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“自分の物語”を創れますか? -大学入試にみる日米の違い-

以前にこちらのnoteで紹介した『15歳からの人生戦略』の著者、山脇秀樹先生(ドラッカー経営大学院教授/前学長)の来日に合わせて、アカデミーヒルズで“アメリカの人材育成の潮流に迫る!〜大学の選考基準の変化を読み解く~”をテーマにお話いただきました。


米国の大学入試の仕組み

米国では9月の入学に向けて、前年の10月ごろに願書を提出して結果は年明け3月ごろになるそうです。日本のように試験を一斉に実施して、数日後に合格発表というプロセスとは違い、願書が全てになります。
願書の評価の内訳は図1の左図になりますが、50%がエッセイ等、25%が高校での成績であるGPA(Grade Point Average)、25%が大学進学のための標準テストであるSAT(Scholastic Aptitude Test)かACT(American College Testing)になります。

(図1)左図:大学入試願書の評価割合、右図:Common Applicationの共通エッセイの課題例
(山脇秀樹先生の説明資料より抜粋)

半分を占めるエッセイについては、全学共通のテーマと各大学固有のテーマがあり、500~600語程度で執筆する必要があります。Common Application共通のエッセイの課題例は図1の右図を参照してください。
これらは思いつきでは書けず、山脇先生は以下のようなプロセスを経る必要がある説明されれます(図2の右上参照)。
1.自分を知る
2.自分のビジョンと世界観を持つ
3.自分の課題とテーマを見つける
4.自分のブランドを創る
5.インテグリティを高める
これらは、「自分はこういう人間で、こういうブランドをもっている。自分は他の志願者とは違う。だからこの大学は自分に合っていると『自分の物語(ナラティブ)』を語り、自己をアピール」(図2の右下参照)する必要があります。

(図2)エッセイを書くにあたり必要なこと
(山脇秀樹先生の説明資料より抜粋)

また、25%を占める高校での成績のGPAも、高校の4年間の日々の活動の積み上げです。エッセイと同様にどのように高校生活を送ってきたかを学力の視点から見ています。
日本の受験勉強という発想とは随分違っていると感じます。
日本でも総合型選抜が広がっており、大学のAdmisson Policy(どんな人間に大学で学んで欲しいのか)に合う人物を選抜する方式が増えていますが、まだまだ学力重視が主流ではないでしょうか。
※2021年4月入学者を選抜する試験から、AO(Admissions Office)入試は総合型選抜へと名称及び内容が変更になりました。AO入試は学力を問われない入試という印象が持たれたために、学力も含めて総合的に見ていこうと再定義されたのが総合型選抜のようです。

自分の物語(個性が大切!)

米国の大学ではエッセイを読んで何を見ているのでしょうか。
どのような経験を積んでどのような価値観を持っているのか、その大学が重視している人材とマッチしているのかではないでしょうか。
18歳の高校生の段階で「自分はどんな人間か、どのような人生を送りたいのか」を根拠に基づいて表現することです。全学共通のテーマ、各大学個別のテーマという複数のエッセイを通じて表現する必要があり、インテグリティを高めることが重要になります。だから大学は3ヶ月以上をかけて願書を検討して合格者を決めているわけです。

そして、コロナ禍を経て、25%の学力テストの部分(SAT or ACT)がオプションになりました。エッセイとGPAがより重視されます。益々「自分はどんな人間か、どのような人生を送りたいのか」が重要になっています。言い換えると、個性(自分の物語)ではないでしょうか。
それは、米国が様々な個性が共存できるインクルーシブ(包摂的)な社会で、だからこそダイバーシティ(多様性)が個性としても重要になるのだと思います。

日本社会でもダイバーシティ&インクルージョンが重要であると言われますが、大学入試に関しては正解を求められる(個性より正しい正解が大切)ことが一般的ではないでしょうか。
そこで、昨年の2022年11月に開催されたInnovative CIty Forum 2022での議論を思い出しました。
南條史生氏(森美術館特別顧問)は、「“いじめ”というのは、基本的にグループの中で違う人が対象になる。違うことがマイナスになる」と発言しており、伊藤穰一氏(千葉工業大学学長)は、「“教科書通りにする”ことが重要な日本の教育では、この特殊性が排除されてしまう」と発言しています。


山脇先生は、最後に「今回のお話は米国の高校生全員ではなく、大学への進学を目指す場合の話である」と説明されました。
大学入試の段階で「自分はまだ足りていない。もっと時間が必要と考える高校生は、コミュニティカレッジに入り3年生でユニバーシティへ編入する方法がある。ルートは1つではなく複数準備されている」と説明してくれました。復活の道があることも米国の強みだと思いました。

山脇先生のお話を通じて、米国は大学入試の制度の変更により、ますます個性を大切にする社会へ向かっていると感じましたが、最後に下記の記事を紹介します。
1970年代にニューヨークの黒人文化の一つとして生まれたヒップホップが、ヒップホップ教育学として米国の教育に影響しているという記事です。米国の多様性を感じる内容でした。


アカデミーヒルズ 熊田ふみ子

#アカデミーヒルズ #教育 #総合選抜型 #多様性 #インクルージョン #自分ブランディング #ヒップホップ

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