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「マラソン大会での危機」

私はマラソン大会が嫌いである。できればサボりたい。休みたい。くつろぎたいのである。子供の頃から、自分の意志でない苦労を強いられることには我慢ならないタチなのだ。

とはいえ学生時代はある程度、規則に従わなければならない。そこで考えたのは、この苦しさは自ら進んで行っているのだ!という幻想の中で生きることである。具体的には、マラソン大会に向けてめちゃくちゃ訓練を重ねるのである。そして当日は余裕で超快適に走るという戦略だ。

これ一見してマラソン大会が大好きで日夜練習を重ねる熱い男のように見えるが、実際の理由は真逆である。マラソン大会が大嫌いであるからこそ生まれた、心を健全に保つための巧妙な施策なのである。実にややこしい。

中学校2年生のマラソン大会も当然ながら幻想の中ガムシャラに練習を重ねて本番に臨んだ。今回私たち男子は約6kmのコースだ。私は毎晩7kmほどのランニングで鍛えていたから余裕である。

指定の紺の短パンとTシャツを着た約30人ほどの男子たちが、合図とともにマラソンをスタートさせた。女子たちの声援であふれる垣根の中、男子たちは颯爽と走り出す。私も順調に走り出し練習を重ねた呼吸法である「鼻から2回吸う」「口から1回吐く」をテンポよく繰り返しすぐにペースをつかんだ。この呼吸方法、どこで学んだか忘れたが、息が簡単には上がらないため好んでよく使っていた。

折り返し地点に係りの先生が立っている。証明のために手の平部分にマジックで印を付けてもらうのである。私は勢いよく印をつけてもらい、あと半分の道のりをひたすら走った。10分ほど経った頃だろうか。

なんとなくトイレに行きたくなってきた。

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