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「支笏湖の廃墟ホテル」

何やらちょっとヤバい雰囲気のタイトルである。今回少しだけ怖い思い出をお話ししたい。なに、たいした恐怖ではないからご安心を。

専門学校時代。当時はよく友達4、5人と車に乗り込んで札幌の街をフラフラとさまよい遊んでいた。
しかしそれも次第に飽き始め、ちょっと冒険したくなる。これは男の性分なのだろう。

「肝試ししてぇー」

友達だちひとりから信じがたいリクエストがあった。私はお化け関係は全く見えない。しかしその存在を完全に信じている派の人間である。そのせいか警戒心が高い。しかし男のプライドも保ちたい。こんなあい対する心理のせいで、思いっきり困り顔で

「いいねー!いってみるかいーひさびさにー!」

調子にのって口先だけの返答をしてしまった。当然ひさびさでもなんでもない。
そしたらよりによって心霊スポットに詳しい友達が得意げに言い出した。

「ここからなら…まぁ、支笏湖のホテルかな?」

まったく要らぬ情報を!そこは肝試しスポットのなかでも上級クラスとの噂が立つところだ。これでは3歳の子どもが富士急ハイランド最恐といわれている絶叫コースター「ええじゃないか」で楽しみましょうよ、と言われてるようなもの。まずはコーヒーカップくらいで手を打ってもらいたい。
そんな私の声にならない願いは当然ながら届かず、今から支笏湖へ向かうことになった。

この支笏湖。あくまでも噂だが、もともとは「死骨湖」と呼ばれていたという。そう呼ばれる由来だが、この湖は村を水没させて作った湖だからだという。そして今でも湖の底には村全域がそのまま残されているという。

そんなゾッとする話を友達はまた得意顔で語るのである。今夜、その支笏湖のほとりで廃墟となって建っているホテルに行こうというのだ。よくないことが起きるのはほぼ確実と思った方がいいだろう。

そうこうしているうちにあたりは真っ暗になってきた。腕時計を見ると深夜2時だ。山道は外灯もほとんどない。私たち4人は次第に口数が減ってきた。明らかにここへ来たことを後悔している。後部座席に座っていた私は、右側に流れる黒い闇のみの風景をできるだけ凝視しないようにしていた。何か見えそうで怖い。

「あ、見えた。あったよ」

友達の声にビクッとして前方をみると、山道から左の脇道を降りたところに赤い屋根のホテルがぼんやり見えた。ここからは車を降りて、歩いてホテルに向かうらしい。もう気がおかしくなりそうなくらい怖いのだが、

「おーっ、あったなホテル!よーし、いっちょう行ってみるかー」

私はドリフがスタートする感じのテンションで車を降りた。怖さを散らすにはこの方法しか思い浮かばなかったのだ。私たち4人はフラフラビクビクしながら闇の中の細道を下っていった。すると前から何かくる、、、

「だ、だれか、、くる」

一番前を歩いていた友達がボソッといった。その声と意味を理解するかどうかという瞬間、

人が目の前にいた!

ひーーーーっと思ったけど、なんと同じ志で肝試しをしてきた人たちが帰ってきようなのだ。向こうの人たちも一瞬ビクッとしていたのがわかった。私たちは必死で叫び出しそうな声を抑えながらすれ違った。な、なんだよびっくりさせやがって。

ついに廃墟ホテルが見えた。入り口まで20メートルくらい。思ったより大きい。赤い屋根の二階建て。ここまで来たら行くしかないな。そんないらない男気を絞り出し私たちは足を前に進めた。

その時私の耳もとで何か聞こえた。ん?なに?、、、え?何か聞こえる。

ブイン、ビーン、、、ビィーン

右耳から始まり、次第に左耳へ。なんだか分からないがジワジワ怖くなり、近くの友達に言った

「な、なあ、何か変な音が聞こえる。ヤバイかも」

友達も

「だな。帰ろう。今すぐ帰ろうっ!」

私たちはクルリと向きを変えて足早に戻った。なぜか走ったら襲われそうな気がしてあくまで早歩きに徹した。おそらく絶叫して走ってしまうとますます怖くなりそうだったから。

その後は無事に車へ戻り札幌の街へ帰ったのだ。廃墟ホテルの中には入れなかったが私たちは十分男の肝を試したということにした。4人は車の中で怖さの余韻に浸っていた。あそこまで行けばまあまあの男であろう。私も自分に合格点を出した。

「グオォーーーーーーーン!!!」

突然、右から出てきた車が目の前を横切った!ぶつかったかと思うほど近かった。

「ヤベェ!し、信号無視しちゃった」

運転していた友達は謝っていたが、これあと1秒でも早く走っていたら側面から衝突されていたのは間違いない。ちょうど私が座っている右後部座席付近は被害が大きいだろう。あのスピードなら命を亡くしている可能性もあった。

もはや支笏湖も廃墟ホテルも可愛いものに感じた。
交通死亡事故寸前の恐怖。
本当に怖いときは全く声が出ないということを知った19歳の私である。


皆さま、くれぐれも安全運転で。
ではまた。



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