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【書評】読書のススメ_11月29日

今回の担当は藤澤です。

僕は神戸・西宮で何件か家庭教師の仕事もしています。中学生・高校生に英語・数学・理科・国語の授業を行っています。この記事を書いている今日も中学生の授業を実施してきたのですが、数学の問題で以下のようなやり取りをしました。

 下の図の長方形で、点PはAを出発して辺上をB→C→Dと動く点です。
 点Pは毎秒2cmの速さでAを出発し、x秒後の△APDの面積を y cm^2とします。
 点Pが辺AB上にあるとき、yをxの式で表しなさい。

動点P


正しく式立てをするならば、y=6×2x÷2という式を立てたいのですが、その生徒、仮にAくんとすると、Aくんは

y=6×x÷2×2

という式を立てました。

藤澤「y=6×x÷2という部分はやりたいことは分かる。底辺が6で高さを点Pが動いた道のりと考えてxとして、三角形の面積を求めたいから÷2をしたんだね。最後の×2は思いつかなかったなぁ。この×2はどうやって思いついたの?」

僕はつねづね生徒に、考えてもらうことをうながす質問を投げかけます。考えてもらうことをしてほしいので、解いた問題が合っているのか間違っているのかを生徒に匂わせないようにします。そうでないと講師からする質問が生徒には「ここ、間違っているよ。」という指摘のメッセージとして受け取られてしまい、意識が考える方向に向かず間違い探しに終始してしまうからです。生徒が考えるモーションに入れば、反応を見ながら次のやり取りに進みます。

Aくん「三角形の面積を求めたいからy=6×x÷2ってして、そのあとに問題の文章に”Pは秒速2cmで進む”って書いてあったのに気づいて×2ってしました。」

この問題、実は、y=6×2x÷2の式も、y=6×x÷2×2の式も、どちらも計算をするとy=6xとなって答えだけ見れば正解なのですが、明らかに2つ目の式はマズいです。ここでは、点Pの速さ(毎秒2cmの速さ)に点Pが動いた時間(x秒)を掛け算して点Pの道のりは2xとして考えるのが正しい。よってy=6×2x÷2という式を立ててほしいのですが、このAくんは、点Pの道のりは2xとして考えることができるという発想が出てこず、よくわからないけれど問題文に点Pは毎秒2cmで進むとあるから、y=6×x÷2のおしりになんとなく×2をくっつけるということをしてしまっています。

このような、見たところつじつまが合わない考え方をしてしまうケースはよく見られるのですが、このケースでは計算すると見かけの答えはy=6xで正解してしまうので、途中の式が正しいか確かめようとしない限り、式立ての間違いに気づくことはまずありません。

さて、算数の文章問題や図形問題、加えて数学を指導する際に、僕が生徒にいつも伝える原則は次のようなものです。

〇観察する
問題文や図を「観察する」ように読みます。解き慣れた問題などであればサラッと読んでも差し支えない場合がありますが、それでも「見落としていた」「気づかなかった」ということはままあります。読んだつもりが最も怖い。すぐに答えを出そうとして問題文や図に全然目がいかないのはNG。まずは問題を観察することが重要です。

〇図や表を書いてみる
問題を理解するためには、手を動かして思いついたことを書いてみることが非常に重要。特に図や表を考えにもとづいて書いてみることは理解の助けになりえます。合っている・間違っているはさておいて考えを試しに書いてみることが重要。

〇具体的な数字を使って確かめてみる。
特に方程式やある2つの関係を表す式については、式を立てることができれば、実際に簡単な数字をあてはめてみて成り立つかどうかを確かめておきたいところ。あてはめてみて計算が合わないようであれば、つじつまの合わない式を作ったことに気づけるので、やり直すチャンスができます。

〇式を立てた過程を説明してみる。
どのように考えて式を立てたのかを自分で説明する作業を取り入れると問題の理解度がより明らかになります。説明がうまく出来ない場合は見落としや考えの抜け漏れの可能性があります。僕が上記でAくんにうながしたのもこの部分です。自分で自分に説明してみることも問題の理解度を計るのに非常に効果的です。

算数・数学は考え方を身につける最良の学問だと僕はつねづね考えています。計算だけが算数・数学ではなく、何が正解で何が間違っているのかを考えてみることはもちろん、仮説を立ててみたり、物事をシンプルにして捉えてみることや、複数のパターンや選択肢に分けてみたりすることなど、社会に出て仕事などにおいて自然に行うこれらのことは算数・数学からたくさん学ぶことができます。しかし、頭を動かして手を動かして常に自分の考えが合っているか確かめることをしない限り、なかなか算数・数学と仲良くなるのは険しい道です。問題を解くのに時には、いや、よく辛抱させられることが多い科目ですが、アカデミーの生徒には考えるという行為そのものをしっかり磨いてもらおうと、学習指導に励む日々です。

『考える力をつける数学の本』岡部恒治

岡部恒治(おかべ・つねはる)
数学者。1946年生まれ、1969年東京大学理学部数学科卒業。同大学大学院修士課程修了。埼玉大学経済学部名誉教授。
著作に『分数ができない大学生』『大人の算数』など。
説明(Amazon商品ページより引用)

本書は、「数学の本なんて、高校卒業以来、目にしたことがない」、あるいは「手に取りたくもない」といった数学コンプレックスに陥った人に、「本当は何を教わるべきであったか」を教えてくれる本である。

著者は、数々の数学関連の著書を持つ埼玉大学の教授。東大理学部卒という学歴にもかかわらず、「通信簿で算数の成績が2だったことも」あったという。こんな経緯から、計算問題のテクニック重視の教育には相当の抵抗をもち、またこうした風潮が数学嫌いを助長していることに相当の危機感を抱いている。これが、本書を含めた数学関連本の執筆に熱意をもつ理由のようだ。

本書では、中学校入試から大学入試、公務員試験にいたるまで、さまざまな出題例を交えながら、その解法のテクニックを論じたりもしているが、その一方で、「手を動かすことは大事ではあるが、それ以上に大事なことは論点の抽象化である」と説く。課題が与えられた場合に、求められているものは何か、何が本質的に大事なことかと思索をめぐらし、抽象化の発想によって、ときにはおおざっぱに物事をとらえた捨象を行い、何が本質的に大事な論点なのかを探ることが重要なアプローチである、という。こうしたスタンスは、まさにビジネスの世界で必要な「他人に物事を伝える時、ポイントを押さえつつ不必要なものをカットして、よりわかりやすい形にする」というセンスにつながるものであるといえよう。

数学的思考とビジネスという、一見かかわりがなさそうなものの結びつきを示唆するという著者の試みが成功しているかどうかは、読者次第、であろうか。(杉 良介)

出版されたのが2001年と少し古い本になりますが、現在でも全く古臭くさなくぜひ読んでみてほしい良書です。僕も今も教材研究や指導研究でお世話になっています。数学を理解するとはどういうことなのか、数学の力をつけるにはどういった方法を実践すれば良いのかといった内容が平たく易しい文章で書かれています。小学生にも伝わる算数の話もあれば中学・高校数学の内容にもわたるものもあるので、おすすめできる年齢層が難しいのですが、ご興味のあるテーマがあればぜひゆっくりパラパラと呼んでみてほしい一冊です。

つづいて2冊目は小説です。最近読んだ作品から1冊を簡単ですが、ご紹介いたします。

砥上裕將(とがみ・ひろまさ)
1984年生まれ。水墨画家。『線は、僕を描く』で第59回メフィスト賞を受賞しデビュー。同作は、2019年ブランチBOOK大賞受賞。2020年度本屋大賞第三位に選出された。

説明(Amazon商品ページより引用)
 
国家試験に合格し、視能訓練士の資格を手にしたにもかかわらず、野宮恭一の就職先は決まらなかった。
後がない状態で面接を受けたのは、北見眼科医院という街の小さな眼科医院。
人の良い院長に拾われた恭一は、凄腕の視能訓練士・広瀬真織、マッチョな男性看護師・剛田剣、カメラが趣味の女性看護師・丘本真衣らと、視機能を守るために働きはじめる。
精緻な機能を持つ「目」を巡る、心温まる連作短編集。

毎月の塾のおたよりで連載中の学習コラムでは、西富先生のアドバイス・監修のもと、生徒の学習のどのような点を観察して指導を行っているか、その観察の視点としての認知心理学や発達心理学にまつわる知見をご紹介しております。

生徒が正しく学習できているかを見るうえで、いま僕は認知心理学と関連して「見る力」を勉強しています。
見る力とは、たとえば、ちがいを識別する能力や、見たものを正しく読んだり、素早く正確に書き写したりすることができる能力などを指します。

見る力のバランスが弱い場合、読み飛ばしや書き落としが生じやすかったり、自分は正しく読んだり書いたりしているはずなのに上手くできていなかったという現象が起こりやすくなります。理解は正しくできているのに、自分が思った通り書けていないことがあるという経験は、勉強に不安を持ってしまう原因になるので、学習指導の際にはより適切なアプローチをとる必要があります。

この小説は見る力を勉強しているなかで気になり手に取った小説です。
ジャンルはお仕事小説。街の眼科医院で働き始めた新米の検査技師である主人公が訪れる患者さんへのサポートを通じて成長していくストーリーを短編仕立てで描いています。純粋に眼の病気や健康にまつわる内容が中心ですが、興味深く読むことができました。

この小説を読んでみて感じたのは、周到な資料研究に基づいたものであろう医療小説なのにびっくりするぐらいの読みやすさと、著者の優しい人となりが感じられる登場人物たちの親しみやすさ。温かな気持ちで読み進めることのできる作品です。

2冊とも山手台教室にて貸出可能です!よければぜひご覧ください◎

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