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憧れの鍾乳洞


すでに5年以上前の話です。

当時、鍾乳洞に行ってみたいと思いながらなかなか機会がありませんでした。

社会人になってから高校時代の友人たちと、奥多摩の鍾乳洞に行ってみようという話になったことがありました。

この鍾乳洞は日原(にっぱら)鍾乳洞のことですが、当日は残念ながら大雨。
とにかく行ってみようということになったものの、どうも道路が通行止めになったらしいとのことで、取りやめに。
そしてボウリングをして終わった、というなんとも微妙なイベントでした。

その後は彼らとも疎遠になり、行く機会もなかなか見つけられずにいました。

あちらこちらへと旅をしているうち、訪れていない県の方が少なくなってきたこともあり、どこに行きたい、というよりも先に未踏の県に何があるか、という探し方をするようになりました。

そして、山口県に行ってみよう、と思って調べているうちに知ったのが、山口県美祢市の秋吉台と、そこにある鍾乳洞の存在。

それを知った途端に、山口県の探訪地は確定していました。

前夜は温泉に

宿は新山口、すなわち小郡に取りました。

チェックインまで時間があったのでしばらく街並みをぶらぶら。

種田山頭火にゆかりがある土地なんですね。

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ホテルに荷物を置き、一息ついたところで、旅といえば温泉、ということで、白狐が見つけたという伝説のある湯田温泉へ向かいました。

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実はこの時、あまり調子が良くなかったものの、お湯に浸かり、飲泉(飲める温泉)のおかげで中からも整ったのか、翌日はすっかりよくなっていました。

この旅は一人旅でしたが、移動の自由を確保するためにレンタカーで、いざ秋吉台へ。

秋吉台最大の観光洞窟、秋芳洞の駐車場に車を止めます。

ちなみに、台地の名前は秋台。
洞窟の名前は秋洞。

これは、1926年(大正15年)、当時「滝穴」と呼ばれていたこの洞窟を、皇太子だった昭和天皇が行啓。

それを記念する意味もあり侍従長により命名されたものなのだそうです。

よりめでたい意味を込めて「芳」の字を当てたということなのでしょうか。

秋吉台との漢字の違いにより、音読みで「しゅうほうどう」と呼ばれることも少なくないようですが、正式には「あきよしどう」だということです。

車を後にして、観光客向けの商店街を抜けます。

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時間が早いからか店はほとんど開いておらず、客もまばらでした。

チケットを購入して、はやる気持ちを抑えながら先に進みます。

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えっ、ペットOKなの? と、注意看板に驚きながら、しっかり舗装された道を進んでいくと、入口に架かる橋が見えてきました。

その下の水が不思議な青さに染まっていて、鍾乳洞への神秘さを思わせます。

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まるで別の惑星

中に入ると、それは今まで見たことがない、まさに別世界でした。

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広いところでは高さ35mもの空間が広がっている上、洞窟の中とは思えないほどしっかりとした川が流れているので、どこか別の惑星にでも来たかのような感覚になります。

薄暗い洞窟内ですが、あちらこちらに命名された特徴的な箇所があり、そこには看板が掲げられてしっかりと照明で照らされていました。

また、足元もそのほかの照明もしっかり整備されているため、全く苦もなく歩けます。

のんきに、「他の惑星に来たかのようだ」なんて思いながらうろうろできるのもそのためです。

まるで棚田のように何段もの小さなプールが連なっている「百枚皿」。

山から土砂が流れ落ちてきているような洞内富士がある「広庭」。

高さ15m、幅4mもの巨大な柱「黄金柱」。

などなど、洞内の「名所」は数知れず。

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奥の「黒谷支洞」まで進み、その先で外に出ることもできるのですが、せっかくなので来た道を戻り、その景色をしっかり堪能しました。

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入口近くまで戻ると、「冒険コース」というのがありました。
設置された料金箱に追加料金を納め、備え付けの懐中電灯を手に、梯子を登ったり凸凹した岩肌を歩き回ったりして、ちょっとした冒険気分が味わえます。

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しかしこれは序の口、ほんのお遊び程度に過ぎなかったと後で痛感することになります。

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三大鍾乳洞

洞窟を出てくると、お店が開いていたので「梨ソフト」で一服。

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そのまま商店街を歩いていると、「ごぼう麺」というものに遭遇。

この辺りで採れる「美東ごぼう」を麺に練りこんだうえ、ごぼうの唐揚げをトッピングするという、ごぼうづくしのうどんです。

ソフトを食べたばかり、しかも時間的にも少し早かったのですが、せっかくだからといただくことにしました。

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秋吉台にある鍾乳洞は、さきほどの秋芳洞の他にいくつかありますが、観光のために解放されている主要な3つの洞窟として、ほかに大正洞、景清洞があります。

3つを制覇しようと車に乗り込み向かったのですが、間違えて大正洞を通過してしまいました。

そこで先に、景清洞に行くことにしました。


真の暗闇

景清洞は、壇ノ浦合戦で敗れた平家の武将、平景清が潜伏したという伝承があるためその名があるようです。

こちらでは受付でヘルメットに懐中電灯、長靴まで借りることができます。

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さらに入洞の際に、名前、住所を記入させられました。……万が一、ということがあるのでしょうか。

中に入っていくとすぐに、景清が傷めた目を洞内の滴で癒したことから祀られたという、生目八幡があります。

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さらに先へ進むと、こちらも秋芳洞と同じく、特徴的な岩や鍾乳石に名前がつけられています。

とはいえ、秋芳洞のスケールに圧倒された後なので、それほどの感動を抱けなくなっていました。

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しかし景清洞の本領は【一般観光コースおわり】という看板から先にあります。

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ここまでは設置されていた照明が、この先はいっさいありません。

受付で、ヘルメットなどを借りることができる理由はここにあります。

先ほどの看板から遠ざかるにつれてどんどん暗くなり、ついに懐中電灯で照らした部分だけが見える状態になりました。

歩く速度も当然ゆっくりになります。

他に観光客はいないようで、聞こえてくるのは自分の足音。
そして、水滴の音だけ。

ライトで周りを照らしていると突然、白いものがフワフワと目の前に現れてギョッとしましたが、それは自分の吐いた息でした。

空気の動きがほとんどないため寒さは感じないのですが、気温はけっこう低いため、息が白く。またすぐに拡散しないため、フワフワと漂っていたのでした。

途中には天井が低い箇所もあり、手探りをしながらでないと頭をぶつけそうなところも。


ところで受付で、係の人に次のように言われていました。

灯りの届かないところまで行ったら、ぜひライトを消して暗闇を体験してみてください、と。

そんなわけで、ある程度スペースのある場所で、ライトを消してみました。



完全な闇。



本当の黒。



まったく、何も見えません。

目の前で手を動かしてみましたが、まったくわかりません。

全く光のない状態というのは、こういうことなのか、と初めて体感しました。

聞こえてくるのはどこかで滴っている水の音だけ。


たとえ何かが飛び出してきても、まったく気づけないな、と思っているうちにだんだん不安になり、ライトを点灯したのですが、一度湧いてきた不安感を消せるほどのものではありません。

コースはまだ続いているはずなので、先に進んでみるのですが、消灯前とは比べ物にならない心許なさで、そろそろと足を踏み出すのがやっとです。

そのうち、目の前が行き止まりになってしまいました。

道を間違えた??

そう思った途端もうダメで、元来た道を引き返しました。

走りはしないものの、歩く速度は自然に速くなり、あっという間に一般コースへと戻りました。

一般コースに入ると落ち着いて見る余裕も戻ってきて、写真を撮ったりしながら無事に外へ。

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受付に戻ると「どうでしたか?」と聞かれたので状況を話すと、多分この辺りじゃないかなあと地図を指して言われました。

それによると、探検コースの中間地点手前に大きな岩があって、行き止まりだと思ったのはその岩だったのだろう、と。

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落ち着いて全体をよく見てみれば、回り込んで先に進む道も見出せたのでしょうが、すでにそんな余裕は無くなっていたのでした。

一人でそこまで行ければ大したもんだ、ともいわれましたが、やっぱりちょっと悔しい。


それでも結構疲れを感じたので、大正洞に行くのはやめて、地表に飛び出した石灰岩の地形(それでも「地獄台」という名称なのですが)を眺めることで、秋吉台の旅を終えました。

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