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ヴィクトリアの電気棺

最近、私が読んで面白かった漫画は、「SNSで話題沸騰!」といったフレーズが本の帯に書かれていることが多い。
私の本棚では、漫画については、古い作品ばかり生き残っている。中には、自分の作品を制作するための資料として購入した物もある。娯楽として楽しめた漫画は、あまり残していなかった。

それなのに、書店で「これ、面白そう」と直感して買うことが増えてきた。田島生野さん「ヴィクトリアの電気棺」もその一つだ。先日、新たに棚に並べるに至った。

「死刑囚が医学博士に拾われてヒーローに転身する話」として、SNSで大反響があった作品らしい。
私はこの一巻を手にした折、SNSにはほとんど触っていなかった。SNSでバズッたとしても、そういった情報が購入のきっかけになることは、まずない。やはり書店で、表紙と題名から「これ、面白そう」と直感した作品だった。

近年、異世界転生がテーマの作品が流行していた。多くは、主人公が桁外れに強かったり、特殊能力や人間離れした知識を持っていたりして、それらを駆使して難問に挑む。

そんな中、この「ヴィクトリアの電気棺」は、異世界転生ものに見られるような流行のストーリー形態とは、違ったスタイルを見せてくれた。

私が着目したのは、主人公である死刑囚の青年アインスのできることが、ささやかである点だ。
医学博士の少女ヴィクトリアに電気仕掛けにされ、怪力の持ち主ではあるが、しょせんは一人の若者である。大きなことを成し遂げられるほど、器の大きな人物でも、カリスマ性があるわけでもない。

それなのに、彼の行動が、周りの人々を突き動かす。
彼は死刑囚だったが、ヴィクトリアに差し伸べられた救いの手によって変化した。彼が善の行いを取ろうとすると、それがきっかけで大衆も巻き込まれていく。それが、大きなことを成し遂げる力に変わるのだ。

そうした様子を目の当たりにした時、私は大衆と同じ気持ちになる。
彼の姿に、そして人々の姿に、とても胸を打たれるのだ。

アインスのできることは、ささやか。
そうは言ったが、一人では何もできない人物なのだろうか?
それは、最後まで読んでみればわかることだろう。
全三巻。


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