連載小説『青年と女性達』-十四-　おちゃらの意志

連載小説『青年と女性達』-十三-　お雪とおちゃらの入れ替わり｜らいとらいたあ｜note

十四

　おちゃらは商売柄、人間観察と人心じんしん掌握しょうあくには自信があった。それは純一に対しても効果があった。純一の興味を自分に惹ひきつけ、つかず離れずに焦じらしてみたりもした。強く出るべき場面ではそうした。恋の駆け引きこそはお手の物だ。
　純一の素直な性格はおちゃらの思う壺つぼで、まんまと自分の思う通りに事が運んだ。しかしおちゃらは不純でも強欲な女性でもない。純一を想う一念があってこその成果であった。しかし、作家として駆け出しの純一は海のものとも山のものとも末がわからない。今後大成するか落ちぶれるか……。考えそして覚悟した。
　――ええい、その時は自分が何としても二人の生活を立てて行こう――

　――お雪さんが私の一番の競争相手だわ――
　宴席で、瀬戸から純一の周りのあれこれをそれとなく聞き出して調べてみた所、お雪の名が浮かんできた。最大の恋敵こいがたきであることを踏まえた上で本日純一を訪ねて自分の真実を純一に伝えようとした事は前に述べた通りである。
　そこへ想定外の事が起きて、当のお雪が現れた。一瞬戸惑ったけれども、激しい正直な応答の末にお互いの気心が知れた。それはそれで返って好い事だったと受け止めることが出来た。
　しかし、おちゃらにはなお葛藤かっとうがある。女学生と云う物に対しておちゃらには良い印象がなかった。自分は碌ろくに学校へも行かず花柳界かりゅうかいに足を踏み入れて、その面で負い目がある。
　――なに、負けちゃいない――

　そういう自負はある。実社会で培つちかった経験がある。それで相対あいたいかもしれない。が、お雪に会ってみて実じつのある娘であることを知り、もしや純一はこのお雪に気があるのかしら。不思議ではないことだ。それならば潔いさぎよく身を引くことだって覚悟しないことは無い。
　自ら望んだ訳でもなく当初は不安もあったが、花柳界の世界は自分に合っていた。しかし、一方で自分はこの世界に身を置きながら芯からは染まっていない。
　――心の純な所は誰にも負けていないわよ――
　自信もあった。現に純一とは先日体を重ねた。果たして純一は想っていた通りの男であった。ここで身を退ひくことは全く本意ではない。

　そして、どうもお雪は生娘きむすめらしい。大村との婚姻話は耳にしており、お互いの家柄も申し分なさそうだ。純一がまだどこの馬の骨とも付かない不安定な立場に居ることは、大村との大変な隔へだたたりだ。
　おちゃらにとって、純一には申し訳ない事だが、それは逆に希望の光だ。
　――私の方が純一さんに近い――

――十五へ続く――

※画像はリカさんのものをお借りしました。