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連載小説「まん・まる」 第二章 中間テストが終わった。1

 十月下旬に、二学期の中間テスト(※1)が終わった。
 結果はまあまあ。ていうか、ひけらかすわけではないが、僕の成績はよい方だ。一学期の中間テストが全校で17番、期末テストが11番だった。学年全体で10クラス、生徒数500人足らずだ。一年の時も席次はよかったが30番台から10番台で、一桁のときはなかった。
 きょう、廊下に貼りだされた、この二学期の中間テストの順位表(※2)に「6番 岡 潤一」と書いてあった。一桁だ!。しり上がりに席次が上がっている。トップクラスといっていい。

「がんばったね!」と〈谷っぺ〉からもえらくおほめをいただいた。
「うん、ありがとう」と僕はこたえた。彼女が可愛くてたまらないが、あの日彼女に宣誓したとおり、〈おませレベル〉は上げないように頑張っている。
 彼女とのまいにちの登下校や、休みの日のデートでは話が尽きなくてたのしい。
 その分、牧田さんへの妄想比率メーターは日ごとに減ってきている。
 話を戻そう。

 僕は、塾へ行ったり家庭教師についているわけではない。教えてくれる兄や姉がいるわけでもなく、両親が教育熱心でもない。ただ、授業をまじめに聴いてノートをとって、予習や復習を欠かさずしているだけだ。ほんとう。
 あっ、小学生の弟や妹の勉強をみてあげている。教えることは学ぶこと。……関係ないか。

 中学時代よりも、高一よりもさらに席次が上がった。このまま上がり続けると末恐ろしいくらいだ、が……。
 父がぼくの通知表をみて言った。「おまえの高校のレベルが〈大したことない〉んちゃうか」う~ん、そうかもしれない。いや、ありうることだ。学区(※3)内で、名門でも特に進学校でもない。普通科だけの普通の公立高校だ。結論。父の言うことが正しいと思う。ちゃんちゃん。
 僕は父に言った。「ええ大学行ったげるから、それまで我慢しとき」ひとごとのように。

 食後の昼休みの教室はまったりして、中にいる者はみんな居眠りしたり、友達と話をしたり、本を読んだりしている。窓の方にカオをむけたら、十月の空が見事な青さで目にはいった。
 で、一夜漬けのアタマが、テストから一夜明けてすっかり空っぽに心地よくなった僕は、いまクラスメイトの中原 修と話をしている。中原は、吹奏楽部の部長だ。さっきからドボルザークの『新世界交響曲』は、ジョージ・セル指揮がいいだの、モーツァルトの『ジュピター交響曲』はカラヤンか、ベームのどっちを選ぶかなど、話に花が咲いていた、のだが……。
 
「来月十一月の下旬は文化祭(※4)やな。吹奏楽部も演奏会やる予定やろ。毎日練習してる音が聞こえてるで。調子良さそうやな」当日が楽しみだといった僕に中原が意外なことを言った。
「調子がなあ。実は俺、困ってることがあんねん」
「えっ、なにが……」

 そのとき、ちょうど谷っぺと西川が教室に入ってきた。
〈こいつら、一緒にいたんか?〉と一瞬、西川にシットしかけたが、谷っぺのことをちゃんと信じている僕は、すぐに自分を取りもどした。二人を手招きしてそばに呼んだ。二人はそばの椅子を引いて腰かけた。
「この二人に、一緒に聞いてもらっても、ええか?」と僕は中原に聞いた。
「うん、もちろんええで」と彼が答えた。
 すると「部長さん、どうしたん、カオが暗いで」と西川が軽い調子で言ったので、僕がたしなめた。
「あほか、友達やったらまじめに聞いてあげんかい」
「それで?中原君、何か悩みがあるん」と今度は谷っぺが女子らしくやさしく聞いた。

 さすがに僕のカノジョだけはある。


ーーつづくーー 

※1中間テスト 一般に学期ごとに中間考査(ちゅうかんこうさ)・中間試験(ちゅうかんしけん)・中間テスト(ちゅうかんテスト)と期末考査(きまつこうさ)・期末試験(きまつしけん)・期末テスト(きまつテスト)がある。最終学期は、期末考査を兼ねて学年末考査(がくねんまつこうさ)・学年末試験(がくねんまつしけん)・学年末テスト(がくねんまつテスト)が実施される場合が多いが、学期ごとに単位を認定する学校では行われない。大学・短期大学などでは、中間試験をせず期末試験だけを行うことが多い。(ウィキペディア)

※2順位表の貼出し (現在は)個人情報保護法の観点から、基本的に全員の順位を貼り出すということはほぼ全ての高校でしません。受験校として試験成績の高いようなごく僅かな私立学校ではあるかも知れませんが。個人成績表に、クラス順位及び学年(科/コース)順位を載せる、おおよその試験成績の度数分布表を配布する、或いは、担任が学級通信などで、クラス上位5人ないし10人を成績優秀者として発表する、全体の順位の上位2割程度を成績優秀者として公表する、という程度です。(ヤフー質問箱の回答)

※3学区 大阪府高等学校の通学区域は、かつて1950年(昭和25年)度から2013年(平成25年)度まで大阪府の公立高等学校(全日制課程普通科)に設けられていた通学区域(学区)。2014年度の入学者選抜(入学試験)以降、全ての大阪府立および大阪市立・堺市立・岸和田市立・東大阪市立の公立高校は、大阪府内全域から出願が可能となっている。(ウィキペディア)

※4文化祭(ぶんかさい)は、日本において生徒が日ごろの学習や活動の成果を総合的に発展させ、発表し合い、互いに鑑賞する文化的行事の一種(学習指導要領上の特別活動)。日本のように学校教育の一環として毎年全員参加型の文化祭が開催されている例は世界的に見て珍しい。



※ウニ さんの画像をお借りしました。

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