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連載小説『青年と女性たち』-十一- 朝の光


十一


 窓から差し込む朝日がまぶしくて純一は目を覚ました。『ここは……』寸刻、自分の今居るのを何処どこだろうといぶかしんだがぐに分かった。隣を見るとおちゃらがまだ眠っておりかすかな寝息だ。顔を覗くと愛嬌のある可愛らしい素顔に初めて心をかれる思いがした。見られる自分から見る自分への転換、それをまだ純一は自らは意識していなかった。しばらくの間そうしていたが、やがておちゃらが目を覚ました。

 おちゃらが大きな眼を開けて純一を見つめた。
「良く寝たかい」と純一は微笑みながら云う。
「ええ。昨夜はごめんなさい。お酒を呑みすぎたわ。せっかく私のために待って居て下さったのに……」
「好いさ。己は顔を洗ってくる」見つめ合ってい居るのが少しが悪い気がした純一は立ち上がろうとした。
「だめ。私も洗ってないし、お互いにこのままで好いよ」と云うが早いかおちゃらが純一を引き止めてその胸に抱きつく。

あたし、純一さんと出逢った日からずっとこの日を待って居たの」真剣な顔でおちゃらが云う。
 最初の日も昨日も宴席ではおちゃらが純一に付かず、かといって離れずの距離を保っていたのが自分には不審だったことを思い出していた。己もおちゃらの事を最初から意識はしていたが……、おちゃらは本気で己の事を思っていたのか……、半信半疑であった。

『何を勘違いしているのよ。こんな事は只の遊びなのにさ。真面目な話をするなんて野暮ね』などとおちゃらから云われ赤恥あかはじくのかも知れないが、と思いながらも穀然こくぜんとして云った。
「本気なのか。己には金もないし出世もどうなる事か分からないぞ」

「あゝ、分かって下さったのね」と会心の笑みを浮かべながら緑色の目の奥を潤ませておちゃらは云った。「いいの、お金も出世も。でも、あたしには分かります」
『強欲ではない……』云々という新聞のおちゃら評を純一は今に思い出しながら納得する一方で、おちゃらの後の一言が心に掛かる。
 ――己の事を出世する人間だと思っているのか――。純一が為にはおちゃらが何を根拠としてそう云うのか怪訝けげんに思われたが純一はとりあえずは好しとした。

「己の何処どこが好いのだ」と純一が話を換えた。
「顔も……、何処どこもよ」といっておちゃらは純一の顔を両手ではさんで眼をじっと見つめてから、にっと笑った。と思うやおちゃらは倍の力で純一にしがみ付いて来た。
『面食い』云々という新聞のおちゃら評も思い出して、刹那せつな苦笑したがそれも好として、おちゃらに合わせて腕に、ぎゅっと力をめた。
「痛いよっ」とお茶らが云ったのであわてて少し力を抜くと、今度はおちゃらが純一の唇を吸いに来る。唇を合わせて吸うとおちゃらの甘美な味が口一杯に拡がり、それと同時に熱い吐息が漏れて「あああっ」とおちゃらがあえぐ。

 争うように二人が着ている物を全ていでしまう。見ればおちゃらの全身が美しく光を発散している。柔らかなおちゃらの胸や腰や全身がまとわり付くような弾むような不思議な反応をする。朝のまばゆい光の中で二人の体が合わさって一つの塊になろうと引き寄せせめぎ合う。

 おちゃらの体が弓形ゆみなりり激しく震えて、純一も同時に果てた。
 二人の営みが天に祝福された瞬間だと純一は思った。


 ――十二へ続く――



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