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君は嶽本野ばらを知っているか⁉

いきなりチープなタイトルだが、この作家には合っているのではないか。
彼の作品で筆者が読んでいるものは三つ。
1.幻想小品集【一部】
2.下妻物語【一部】
3.星のアリスさま
つまり、まともに読んでいるのは一冊だけだ。
それで作家紹介とはおこがましいと思うかもしれないが、訳がある。
この人は大麻で捕まっているのだ。それは私の読者としてのポリシーに反する。
倫理的な不満ではない。ただ作家たるもの、現実に法を犯してどうすると思うのである。
殺人欲求も薬物への興味も結構、しかしそれは紙面の上で済ませてもらいたい。
紙面の上で、現実よりもめくるめく殺戮を、現実よりもめくるめく陶酔を生み出す。
それでこそ小説家ではないか。(筆者も上から説教できる立場ではないが)

ということで個々の作品に語れるほど思い入れもないので、手早く読者を解放しよう。

まず「幻想小品集」の「pearl parable」―訳すなら「真珠にまつわる寓話」とでもなるか。
【※性的な話を含む。】
解説すると下らなく感じるから、できれば自分で読むことを勧める。

【大まかなあらすじ】

真珠はアコヤガイなどの貝が異物をくるむことで発生する。ならそれを女性のヴァギナと、切除したクリトリスでできないか。そう考える男はそれに成功する。
 【細かい話】
話の筋にクレオパトラの逸話が組み込まれている。
ローマ将軍マルクス・アントニウスとどちらが君主の資格があるかの勝負のとき、クレオパトラは身につけていたイヤリングの真珠をワインに溶かすことで意表を突き勝利する。
この【真珠がワインで溶けるのか】という謎から話は広がり、女性のヴァギナで生み出した真珠は酸に弱い―つまりクレオパトラもまたヴァギナから真珠を生み出せる特殊体質だったというトンデモストーリーが展開される。

……この「いかがわしさ」はちょっと狙っては出せないものだろう。もはや天性のものとしか思えない。

この美しい表紙の「星のアリスさま」も、中身はなぜかプロレタリア文学(修正:プロレタリアート讃歌だった)と星の王子さまが混在するカオスである。
しかしその下らなさに元気づけられるところがある。個人的には筒井康隆の系譜にいる作家だと思う。

読むなら、夕日が鬱陶しい白亜の 露台バルコニーで「やれやれ、嶽本氏はまた下卑た作品を書くね」と煙管キセルでも片手間に吸いながら読む―そんなくらいがいい作家である。



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