夏目漱石「倫敦塔」

前扱った「カーライル博物館」と同系列の作品。漱石本人を思わせる「余」が倫敦塔を見物する。
筆者は中世史をドロップ・アウトした人間だからちんぷんかんぷんだったが、中世イギリス史に興味のある人ならもっと楽しく読めるかもしれない。

とにかく、単なる「観光小説」とならないのは、「余」の圧倒的な想像力によって倫敦塔に幽閉された多くの死者たちが生々しく蘇ってくるからだろう。
またそれが最後、宿の主人に種明かしされてご破産になるのは漱石的なのか(あまり詳しくない)。

村上春樹氏が夏目漱石から影響を受けているのも分かる。「倫敦塔」でどれだけの死者が出ようと、話のウェイトはあくまで「余」/生者にある。それは村上氏の作品でも同じである。
対極にいるのは泉鏡花/小川洋子などだろうか。死者の世界にのめり込む作家たち。

(追記)最後の詩は大した詩ではない。処刑人を扱った滑稽詩。

(作中に出てくる単位)
一尺:約3センチ
一間:約1.8メートル
一丈:3メートル

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