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トラベルテディ・プロジェクト 〜ぬいぐるみ留学生が世界へ飛ぶ〜 その5:留学生が到着!

文通もいいのですが、このプロジェクトの最大の魅力は「ぬいぐるみが3Dである事」だと感じています。ぬいぐるみを、全身で「ぎゅーっ」とできる。触れる、撫でることができる、手のひらで、体でその存在を感じることができる。

「プロジェクトの概要」「相手の見つけ方」「留学の準備」についてはこちらにまとめています。

留学生が到着!

国外から届いた荷物を見るのは、大人でもワクワクします。どんな子が入っているのだろう。本当は子どもたちの目の前で一緒に開封するのがいいのですが、私は事前に開けて内容を確かめています

今までの経験で、ぬいぐるみではないものが入っていたり、お手紙が入っていたり、お菓子などの食品が入っていたり、シールやギフトが入っていることもあります。手紙、お菓子、シールなどのギフトは、クラスの人数分あるかどうか。人数分あった場合は子どもたちにどのように配布するか、数が足りない場合はどのように分配するか。食べ物アレルギーの対象かどうか、確認します。

事前に教員が中身の点検をしたら、いよいよ子どもたちとのご対面です。教室に届いた箱ごと持っていき、まずは箱に貼られている宛名シール、箱に書かれた外国語をみんなで確認します。ここに書かれているのは何語か、宛名シールには私たちの学校の住所と相手の学校の住所が書かれています。外国から届く荷物を受け取る経験は子どもたちもなかなかないので、宛名だけでも情報がいっぱいで興味津々です。

いよいよぬいぐるみ留学生が箱から登場。子どもたちの「わ〜!!」という歓声が上がります。ぬいぐるみを見て、真っ先に子どもたちがすることは「ぬいぐるみ留学生の匂いを嗅ぐ」という行為。子どもたち曰く「匂いは絶対に確かめたい!」「外国の匂いを知りたい!」のだそうです。

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子どもたちと一緒に、ぬいぐるみ留学生の名前、持ってきたものを確かめます。真っ先に質問が来るのが「先生、名前はなんていうの?

そこで、黒板に大きく留学生の名前を書きます。現地語で書いてくる場合もあります。正しい名前の「音」がわからない場合もあります。その場合はまず文字を確認して自分たちで調べることもありますが、「名前を間違えた音で呼ぶのは嫌だ」と相手の先生に直接確認することもあります。

お世話スタート

ぬいぐるみ(本物)のパワーはすごいです。子どもたちは匂いを嗅いで、触って、抱きしめて、お世話もせっせと行います。本や映像ではなく、実際に海外からやってきた本物のぬいぐるみは、小学生に非常に大きなインパクトを与えます。

人間の留学生とは違い、言語や食事の心配は要りません。また、大人がいなくても子どもたちだけで好きなようにお世話ができます。お世話当番の決め方も色々あると思いますが、私の学校では日直のように当番を決めて毎日交代でクラスの全員が必ずお世話できるようにしています。

席はどうする?教科書や筆箱とかいらない?お昼は何を食べる?お弁当は?

子どもたちはあくまで一人のクラスメートとして、必要なものをどんどん考えて自分たちで準備していきます。子どもの想像力は大人の予想を遥かに超えます。ぬいぐるみ留学生専用のお家ができたこともあります。

基本的には授業の妨げにならないこと、自宅から色々なものを勝手に持ってこないこと、一人で勝って決めるのではなく班やクラスで相談することを守れれば、子どもたちの好きなようにさせています。

子どもが初めて「外国語」を自分の意思で使い始める

ぬいぐるみ留学生の生活を相手の学校に伝える活動は、子どもたちにとっても楽しみの一つになります。自分たちとぬいぐるみ留学生がどんな生活をしているのか、相手に知らせたい。でも、相手は日本語はわからないだろうなぁ、ということは小学3年生でもわかります。

相手は何語を使っているのだろう?英語で通じるのかな?

前に調べた相手の国に関する情報を引っ張り出してきて、相手が何語を使うのか確認します。今まで英語の授業で習った表現を使って何か書けないかなぁ、と考えたり、絵や写真なら通じるかもしれない、と考えたり。

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この「相手に通じるように自分でできることは何かを考えて試行錯誤する」、これがとても、とても大事なんです。教員から「英語で書きましょう」と言ってしまったら、そこで子どもたちの思考が止まります。子どもが、自分自身で伝える方法を考えてチャレンジする絶好のチャンスです。

子どもが「英語で書くにはどうするの?」と聞いてくるのをじっと待ちます。逆に言えば、子どもからこう言ってくるような流れをぜひ作りたいと思っています。

小学生の段階では、細かいエラーはあまり気にしたくありません。とにかく、子どもが自分の意思で英語を使ってみようかな、と思うことが大事なんです。

せっかく頑張って書いたのに、間違いだらけで先生から指摘を受ける。子どももがっかりします。これほど残念なことはありません。そうは言っても、間違いだらけでは相手に通じないじゃないですか、と心配される方もいますが。

大丈夫です。海外の先生も学校の先生です。子どもたちのエラーなんて、慣れっこです

子どもが、生まれて初めて自分の伝えたいことを外国語を使って表そうとチャレンジしたわけです。「おめでとう!」とお祝いしてもいいくらいです。

英語の書き方を意識する絶好のチャンス

外国語の学びとして、ここでぜひ子どもたちに意識させたいことがあります。普段の授業ではいくら言ってもあまり効果がないことも、このプロジェクトでは子どもが「あ、そうか!」と実感を持って聞いてくれる。

まず、アルファベットの書き方を意識させることです。せっかく書くんですから、相手が読みやすい字がいいよね!というのは子どもたちも納得します。形を誤りやすい a と d、h と n、c と o は、ここでしっかり形を意識させてます。

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次に、英語の文の形を意識させます。大文字で始まって、単語と単語の間にはスペースを入れる、そして文の終わりのマークをつける。日本語は分かち書きをしません。小学生にはこの「単語間のスペース」を入れるのは結構難しいのです。

I like red. を Ilikered. のように全部くっつけて書いちゃう子は多いです。そこで、Writing Spacer(ライティング・スペイサー)というものを使います。これは海外ではよく使われている教具で、子どもにスペースを意識させるための工夫です。「Writing Spacer」で検索するとたくさん情報をゲットできます。

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よく指を置いてスペースを意識させる方法もありますが、左利きの子にとっては非常にやりにくいです(実際にやってみると手が交差するので、無理なのがわかります)。そこでスペイサーを置くと左利きでも右利きでも書きやすくなります。

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上の写真は市販品でamazonなどのサイトで購入可能ですが、私は図工の時間にできる厚紙の切れ端を使って簡易的なスペイサーを手作りし、授業で使用しています。矢印を上向きにしても下向きにしてもどちらでも使えます。

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英語以外の言語にもチャレンジ

交流相手が使っている言語に興味を持って、一生懸命その言語を使おうとする子どももいます。小学生にとっては、英語も他の言語も同じ外国語。レベルは同じです

さらに、今は子どもでもGoogle翻訳を使うことが可能です(すごい世の中になったものです)。機械翻訳がまだ今のように使えなかった時は、英語を使うことがほとんどでしたが、今は相手に合わせて様々な言語を使い始めることが多くなりました。

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ただ、教員としても英語ならまだなんとかわかるけど、他の言語になると単語があっているのかどうかもお手上げです。「ごめん、○○語は先生もよく知らないんだよね。これがあっているのかどうか、先生もわからないんだよね。」これは、子どもたちにも正直に言います。

英語以外の言語で文書を考える時、子どもも私も必死になって、本を使ったり機械翻訳で何度も確かめての共同作業になります。これはこれで、とても楽しいです。教員にとっても色々な発見や学びがあります。

機械翻訳をうまく使うためには、正しくて簡潔な日本語を入力しなければなりません。普段の会話文のまま日本語を入力すると大体失敗します。「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「どのくらい」「どうする」をしっかり入力すれば、ある程度正確な文に変換することは可能です。小学生にとって、国語のよい勉強にもなっています。

また、英語への変換だったら、Google翻訳よりもDeepLがおすすめです。

より自然な英文が作成できます。DeepLの翻訳できる言語はどんどん増えていて、今では26言語(2021.6.27現在)になりました(去年はたしか11言語くらいだった気がしますが)。フランス語、スペイン語もかなり精度が高いと思います(フランスの先生に「上手に書けている」と褒められました)。

気がつけば、英語を含めて色々な外国語が飛び交う教室になっています。それもこれも、海外から本物の留学生がやってきたから。子どもに外国語の必要性を体験させるためには、やはり本物の力には敵わない、と毎回の活動を見ていて実感しています。

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次は、最終回。帰国とプロジェクトでのトラブルについて書きます。

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