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2章 魔法の国 ~第1話 魔法学校ギャラクシア~アイリスの深淵より~




魔法の支配

壮大な城を背景に、活気溢れる町。

そこに、皇帝を乗せた馬車が向かっていた。

そうとは知らぬ町人は、果物屋の前で値段交渉したり、踊り子に投げ銭をしたり、鍛冶屋で刃の品定めをしたり、それぞれの日常を送っていた。

その中で、不穏な様子で人々を押し退けながら走る男がいた。
腕に、年端もいかぬ子どもを抱いている。
ぐったりと項垂れており、重症患者のようだ。
その男は、その子の父親だった。

男は、薬屋に向かっていた。
中に入ると、数人の客人がおり、そこそこ繁盛している様子。

店主は、ローブを頭から被り、カウンター前に立っている。
顔はうつむき加減で表情は良く見えない。。。

”味方になってくれるだろうか。”

そんな不安が一瞬よぎったが、
父親は、意を決したように、その店主の元へと歩み寄った。

近くで見る店主の顔は、無表情であった。
若い男性のようにも見えるが、不思議なことに、中年を通り越し、老人にも見える。

年齢不詳の怪しい容貌に、父親は怯む様子も見せず、前のめりになって懇願した。
「頼む!
ぐったりしているんだ。
滋養水をくれ。」

切羽つまった状況に反し、父親は努めて声を圧し殺していた。
この話は、誰にも聞かれてはならないのだ。

店主は子どもを見て、何かを察したのか、他人行儀に言った。
「畏まりました。
少々お待ちを。」

父親は、そんな店主の態度にお構いなしに小声で囁いた。
「あんた、魔法免許所持者だろ。」

店主は、その言葉を聞き明らかに動揺を見せた。
彼の無表情な顔の瞳の奥に、微かな怯えが見て取れる。

「やはり、まだ魔法免許を持つ人間が残っていたんだな。」
父親は、彼の様子を見て確信したように言った。

続いてすがるように訴える。
「一生の頼みだ。
この子を、医術魔法で治してくれ。
その代わり、あんたが免許師であることは誰にも言わない。」

その時であった。

店の入り口の幕が、勢いよく上がり、1人の町人が入ってきた。
拡大した瞳孔を震わせて、只事ではない様子である。

町人は、声を張り上げ、店内の人々に呼び掛けた。

「皇帝陛下がいらっしゃる!」

その一言は、恐ろしい意味を持っていた。

その場にいた誰もが顔つきを変えた。
外がざわつき、緊迫している様子が伝わってくる。

「早く外に出て敬礼するんだ、、、!」
そう声がけが成された時、
折り悪く、父親の腕の中で、子どもが痙攣し出した。

「あぁ…!」
父親が焦りから掠れた声をあげる。

店主は、そんな彼の隣に立つと、目を合わせず、低い声で言った。
「申し訳ないが、今は施せない。
陛下が行ってしまわれるまではな。
ここで、魔術を使えば、ほぼ確実に、魔族である陛下には気づかれるだろう。」

そう言い残して去って行こうとする。

その手を掴んで父親は懇願した。
「そこまで待てない。
見ろ!
この子の状況を、、、!」

「申し訳ないが、赤の他人の子どもを、自分が命を捧げてまで救う義理はない。」

店主のその言葉に、父親は崩れおちた。
悲痛な泣き声を押し殺す。

店主は、背を向けたが、横目でその様子をちらりと見て、眉を潜めた。

外では皇帝が、馬に股がり、護衛を引き連れて、敬礼する町人の間を進んでいた。

人々を品定めするような目付きで見回しながら、
時折敬礼の姿勢が緩い者に罵倒を浴びせている。

その時であった。
皇帝の顔が曇る。

何か機嫌をそこねることでもあったようだ。

皇帝は馬から降りると、護衛を連れて力強い歩で向かう。
彼の行く先には、あの薬屋があった。

勢いよく、その入口の幕が蹴散らされる。

皇帝とその従軍は、店舗の中に押し入った。

そこには、、、
誰もいなかった。

しかし、皇帝は何かを確信したようだ。
怒りに満ちた足取りで闊歩すると、何やら指示を出し始める。

その少し前に、父親と子どもと、薬屋の店主は逃げ出していた。
今、3人は路地裏にいる。

「この町から目立たずに外に出る道だ。
魔族と言えど、外に出れば分かるまい。」
町に詳しい父親が店主に言う。

父親の隣では、先程まで危篤であった、彼の子どもがしっかりと自分の脚で地面に立っていた。

「礼を言うよ、息子を治してくれて本当にありがとう。」
父親がそう言って深々と頭を下げると、
子どもも、店主の顔を見上げて礼を伝えた。「ありがとう。」

恩威を伝えられた店主は、弱々しく笑って言った。
「……もう十分生きたから死んでも構わないさ。
命をかけると言ったが、魔法で延命していたからな。
その愚かさに気づいたよ。
それに、いくら魔法と言えど、生き物である以上は限界がある。
死からは逃れることなど出来ない。
まぁ、逃れられるものならそうしたいから、ありがたくこの道は使わせてもらう。」

店主の顔を見て、父親はハッとした。
年齢不詳であった彼の顔が、今や完全に嗄れた老人へと成り果てていたのだ。

父親の表情を見て、老人は笑顔になった。
深い皺が顔一面に広がる。

「お元気で。」

そう言い残して、、、店主は、老人は、行ってしまった。

彼の背中を見守る隙などなかった。
皇帝がそろそろ、この辺りにもやって来るはずだ。
父親は子どもを連れて、急いで裏路地から出ると、少し離れた位置にいる敬礼の列に紛れた。

暫くして、皇帝が、歩いて来るのが横目で見えた。
遠くからでも、立腹している様子が分かる。

、、、バレた。

父親が顔を上げた時には既に遅かった。

ローブを着た老人が、路地裏から引っ張り出されていたのだ。
先程別れを告げたばかりの店主である。
従軍により発砲された弾の音が響き渡る。

彼は絶命した。

町人は頭を垂れながらも、誰かが処刑されたことを察知して、緊張を募らせた。

皇帝は、堅まる人々に向かって声を張り上げた。
「余以外に魔法を扱う者または扱うことが出来る者は、国に災いを呼ぶ。
数十年前、魔法を教授していたギャラクシアからの卒業生。
彼らが魔法を乱用したが為に、世界は滅びかけた。
それを救ったのが、我々一族、魔族だ。
卒業生などではない。
純粋な魔族だ。

よって、卒業生はみな処刑だ。
もっとも、何をせずとも、血を繋ぐことの出来ない奴等は、一世代限りの魔術師だがな。
時期に消え去るだろう。

しかし、奴等の中には魔法で寿命を伸ばす愚か者がいる。
それにより奴等がのさばる期間が延長されていることも事実。
見つけ次第報告せよ!
奴等が良からぬことに魔法を行使する前にな!」

死領域

あれから約1000年後、、、。

砂漠の過酷な暑さの中で、化け物と形容出来るような獣が牙を向き、狙いを定めていた。

獲物は何と、1人の人間。
しかも少女だった。

この荒廃した地には、どんなに適応能力のある人間でも、住み着くことが出来るはずもなかった。

勿論そこに人間などいない。
旅人を除いて、、、。

少女も旅路にいた。
彼女1人ではない。
同行者達もいる。

しかし、獣の視線はその少女1人に集中していた。
他の者達より、かなり後ろを歩いている彼女は、非力に見えるのだろう。

肉食動物ならではの習性が顕になる。
獣は、焦点を定めると、一直線に向かっていく。
その獰猛な化け物に背を向けていた少女。
振り向いた時には遅かった。
今にも飛びかかろうとしていた。

次の瞬間、血飛沫があがった。
辺り一面は真っ赤に染まる。

その惨状の場に、同行者の男がやって来て拍手を向けた。
「いやはや、、、
その見た目と地位にしては、、、だが、見くびっていたな。」

そんな皮肉にしか聞こえない称賛が送られたのは、なんと、少女であった。

彼女は傷ひとつなく、佇んでいた。
絶命したのは獣の方。

銃を構えたその少女は、獣をすんでのところで仕留めることに成功していたのだ。

彼女は銃を仕舞うやいなや、声を荒げた。

、、、大尉!!
先ほど小耳に挟みましたが、、、話と違うではないですか!!
この死領域を越えて探索することが目的などではなかったのですね!!」
そう少女に恫喝されたのは、先ほど皮肉を言った男。

白い顔の冷徹な顔。
ゴルテス・ガロン

公国アクアの軍人である。

彼は、少女の様子とは対象的に、一切表情を動かすことなく言った。
「そう怒れるな。
エリカ・ブラウニーどの。」


同じく公国の人間である。
ツインテールの小柄な少女で、生来のきつい目元が、気の強さを象徴していた。

エリカは憤りを顕にして言った。

「この死領域より先に、魔法を扱う国、メイデン帝国が本当にあるのですか?」

ゴルテスは冷笑を浮かべると、止まっていた歩を進めた。
エリカに背を向けながら言う。
「それを確かめに行くのですよ。
科学者の卵として、探求心の強い者だと聞いておりましたが、、、。」

エリカは、彼の後ろに続きながら言った。
「勿論、その意欲はあります。
しかし、あなた方がやろうとしているのは帝国メイデンがあった場合に、脅すこと。
魔法を扱う国ですよ?
ぜっっったいに負けます。
そもそも、その帝国があるのかも、人間の住めるような環境であるのかさえも定かではないのですよ!?」

ゴルテスは、エリカに背を向けたまま言った。
「負け戦を自ら挑むなどということは、陛下はなさらないでしょう。
勝敗の不明な戦なら違いますがね。」

「どう考えても、負け戦です!」
エリカは、彼の背中に向かって声を上げた。

「いやはや、、、どうやら一から説明しないといけませんね。」
そう言うと、
ゴルテスは話し始めた。
「ここは、日付を分ける本初子午線、、、。
それに沿う5kmは、死領域と呼ばれ、原因不明の失踪者が後をたたない。

失踪の瞬間を見た者は、まるで空間の歪みがあるかのように、体が消え去っていくとね。
事実この辺りは電磁波が届かない。
更には、壁があるかのように、その先にも。

ところが不思議なことに、空間の歪みと思われる箇所は、この死領域内を移動していることが、これまでの事例から考えられます。

しかも、自分の後に続く同行者が、自分は無事通過出来た場所で消えたと言います。
人により、消えたり消えなかったり、、、
空間の歪みによる消失だとしたら、等しく起こるはずの現象です。

さらにはそのその先は、未開の地”でした”
数は少ないけれど、数百年前からその地から生還した人物の証言があります。

死領域の向こう側の地は、通称、
には、
魔法の国があり、かつては魔力で支配されていたが、
年々弱体化していることも、
武力による謀反に怯えていることも、それから、
魔力に頼り、中世のままで科学技術が止まったままでいることも。

相も変わらず、死領域では、謎の消失が後をたちませんが、そこを越えれば、晴れて魔法の国にたどり着けます。

生還者が偽りの証言をしていなければですが、、、
何せ、その先は電磁波が届かない故に証言に頼るより他ないのですが、いくらか証拠となるような土産物を持ち帰る者もいます。

人間の指揮に従い移動する紙や、宙を浮かぶマント。
どれを調べても、電磁気のようなものは見当たらず、
まるで魔法としか考えられないような。」

そこでゴルテスの話は終わった。
エリカは、眉根を連ねたまま聞いていたが、納得いかぬ様子であった。

「それは分かっておりますよ。
それを調べる為に、私は同行したのです。
そんな、魔法の国メイデン帝国に喧嘩を挑む為に同行したわけではありません。」
エリカがゴルテスの背に向かってそう言うと、彼はぴたりと脚を止めた。

エリカもその後ろで立ち止まる。

彼は体半分だけこちらに傾け、
エリカを見下し、冷笑を浮かべながら言い放った。

「、、、戦争は別としても、個人的な恨みなら、あるはずですよ。」

その言葉に、意表をつかれたように固まるエリカ。

「何が言いたいのです?」
やっと絞り出した声で、そう尋ねる。

しかし、ゴルテスは、エリカに背を向け再び歩きだした。
牽制されのだろう。
そう思い、エリカは黙ったまま彼の後ろを歩いた。
すると、彼は口を開いた。

「あなたも、いやあなたが誰よりも、生還者の証言の中の1つに食い付いていたと、聞きましたが?

その証言とは、メイデン帝国の皇族が、あなたの両親を殺したというもの。
科学技術より、魔法が上だと国民に示す為の犠牲になったと、、、

それを確かめたいのが本来の理由のはず。」

ゴルテスは、ちらりとこちらに冷笑を向けた。
彼の言うことは、全て本当である。
エリカは何も言えずに押し黙ってしまった。

そんなエリカに追い討ちをかけるように、ゴルテスは付け足した。

「気をつけてくださいね。
この地帯は、遺伝子実験に失敗した生物の廃棄場でもある故、この場に適応してしまったとんでもない獣が生息しているのですからね。」

明白地帯と暗黒地帯

死領域を挟んだ未知の世界を暗黒地帯と呼ぶならば、エリカ達の生きる地は明白地帯と呼ばれていた。

その明白地帯にある公国アクア
エリカは、その国民として派遣されたのだ。

遂に、砂漠の終わりがきた。
陽炎の向こうに、都市が見えてきたのだ。

一同は、設営したテントを畳み、残りの道のりに備えて準備する。
公用車はガソリンが切れで、既に乗り捨ててきた。
(磁気が届かぬ為、ガソリンに頼る他ない。)
後は徒歩だ。

遠目からでもうっすらと分かる、その地の中世らしき雰囲気。

公国のような、高層ビルが立ち並ぶモダンな町並みでは決してないことは確かだろう。

どこかおとぎ話の世界観に近いものを感じて、高揚と共に不安がつのる。

「言葉は通じるのですか?」
エリカは思わず不安を吐露した。

「1000年以上、同じ言語でい続けていましたら、通じるでしょう。」
書類を記載していたゴルテスは、エリカを一瞥して言った。

「1000年?」
ふっ出てきた言葉にエリカは首を傾げる。

「、、、歴史を知らないようですな。
約1000年ほど前、魔法の支配から逃げ出した人間達が、我々明白地帯に生きる者の先祖。
ほぼ神話に近い話です。
しかし、魔法の国メイデン帝国が本当に実在したならば、歴史書が正しかったということを示しています。」
ゴルテスはそう話し終えると、
嘲笑するかのような、邪悪な笑みをエリカに向けた。

”無知だと思われたらせっかくの機会を逃してしまう”
エリカはそう思い、慌てて言った。

「それくらいは理解しております!」

それから、補うかのように続ける。
「かつて、人類は魔法を科学の延長線上に創造し、更には乱用し、自滅の危機に追いやられた。
それを救ったのが、この先に見える国メイデン帝国の皇族。
彼等は魔法を自身の肉体に封印し、魔力により崩壊しかけた世を再建しました。
その功績は確かに計り知れないものですが、裏を返せば、魔法を独占し崇拝させ、支配しようとしたのです。

だから、唯一残った、魔術を扱える人間を徹底的に追い詰め処刑した。
その残虐性故に、この死領域さえも乗り越え、明白地帯に逃げ出した、その末永えが私たち。

私達が魔術を扱えないのは、逃げ出した大半の人間が魔術者じゃない普通の人間だから、というばかりではなく、その魔術は遺伝させることの出来ない1代限りのものだったからです。

その歴史が本当だとしたら、現在、魔術を扱い、更には遺伝させることが出来るのは、帝国メイデンの皇族だけということになります。」

「お見事です。」
ゴルテスは、一言だけそう返した。

あしらっているようにも見える。

エリカはそんな彼の態度に不安を覚えながらも、疑問をぶつけた。

「しかし、本当にあれは魔法の国なのですか?
確かに、幻想的な雰囲気はありますけれども、昔の面影を残した小国にも見かけられる景色です。
明らかに魔法と思われるような景色ではありません。」

「、、、」

可憐に無視されたが、更に続ける。

「それに、
1000年以上も同じ言語を使用し続けているでしょうか?
しかも、魔法の国に挑むには少人数すぎます。」

ゴルテスは、薄ら笑いを浮かべて言った。

「何も分かっておられない。
それを今から確認しにいくのですよ。」

「つまり、、、実験台ですか。
しかし、喧嘩をふっかける必要はないんじゃないですか?!
隣国との紛争が続いており、人員を割けないのは分かりますが、だからこそ、魔法の国を味方につけるべきでは?!」

「それは私ではなく、陛下にお尋ねください。」

ゴルテスの言葉に、エリカは唖然とすることしか出来なかった。

アクア公国は、隣国、ベータ軍国から狙われている。
物理学の最高峰、エメラルド学園を、、、。
故に、学生や学者は護身術を身につけている者も少なくない。

エリカも、その1人である。

公国は、明白地帯の中で最も科学技術に秀でており、その技術を軍事力の強化に充てていた。
にも関わらず、何故か隣国は、軍事力に関しては手強かった。

エリカが悶々としている傍ら、ゴルテスは冷たく言い放った。

「ご自分の役割をしかと心得てしてください。
魔法の国との交渉材料には、あなたにかかっているのですからね。」

エリカも負けじと語気を荒げた。
「分かっています、、、!
実在していれば、ですがね。」

「出発しましょう。」
準備もまとまり、出立を告げられる

エリカは、きつい目元に力を込めた。

この先に見える国をも敵に回すとは、、、。
魔法を扱えるなら尚更、公国の先は暗い。

もはや運に任せるしかあるまい。

魔法の封印

そこから先は、誰も話すことがなかった。

皆それぞれ内に不安や闇を秘めながら、目的地まで一言も、口を割らなかった、、、

かのような重い空気は、
エリカの声で打ち破られた。

「それにしても、、、」と、ゴルテスに声をかけるエリカ。

「まだ何かあられるのですか。色々と疑問が絶えないお方だ。」
冷たく返すゴルテスに、エリカは構わず疑問をぶつけた。

「魔法を封印するというのもイメージが掴みにくい言葉です。
物ならともかく、魔法なんて技術みたいなものではないですか。
それを封印するって、、、やはり容易に想像がつきません。」

「その技術もろとも、一人一人の人間から、奪って、1つの入れ物に封じ込めたのです。」

「だから、それが解せないのですよ
技術を奪ってっどのように奪うのですか?
物じゃいんですよ?脳レーザーなんか使って記憶でも消去するんですか?」

ゴルテスは、
横目でエリカを一瞥して言った。
「、、、大方、それと似たようなものでしょう。」

「そ、そんな、特定の記憶だけを消す技術なんて、アクア公国にもないというのに!?」

「それが魔法というものです。
魔法というのは、物理法則と人間の心理、両方のバランスから成り立っているのです。」

「、、、それで、その大層な魔法とやらが封印された入れ物も、大層な物なんでしょうね。」
そう言ってから、エリカはハッとして立ち止まった。

「ま、、、まさか!!それを奪おうとか!」

声が裏返っていた。
もしそうだとしたら、とんでもない黒い波に飲み込まれようとしていることになる。

ゴルテスは、暫くエリカを置き去りにしたまま先を歩いていたが、
立ち止まって振り返った。

彼は太陽を背に陰影を作る。

「奪えるはずがありません。」

穏やかで冷静な声だ。
恐らくその言葉は真だろう。

ゴルテスは静かに言った。
「それが封印されているのは、、、」

それから、手を自身の胸に当てる。
「ここにありますから。」

「心、、、?ですか?」
エリカが戸惑いつつ返答する。

しかし、彼の口から出たのは、予想外の言葉であった。
「遺伝子です。
魔法遺伝子と、呼ばれています。」

遺伝子、という言葉の登場に、エリカは驚いた。

かつて、魔法が世界を滅ぼしかけた時、それはある1つの入れ物に封印された。
その入れ物が、遺伝子だったというのである。。。

しかし、それは妙に頷ける話でもある。

魔法遺伝子と呼ばれ、魔族の起源となり、後世に魔力を継承させることが可能となってしまったのだから。。。

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