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13章 さようならギャラクシア(第1話 完)

魔法遺伝子の開発者


雲に散りばめられた星々は、自我があるかのように動き回り、そして数多の星で描かれた巨大な絵になった。

それは、端正な顔立ちの男性の肖像画である。

魔法写実画にいた、シェフの息子。

長老、という呼ばれ方には相応しくない、若々しい頃の男性が、空を見上げて瞬きをしていた。

男性は口を動かし、不思議な声を発した。

『辺鄙な場所へ、神秘な場所へ、空に1番近い場所へ、ようこそ』

聞き覚えがある。

それは、編入式で迎い入れの言葉を送った時の声であった。

校舎では、みなが窓に群がり、また外に出ていき、幻想的な景色を食い入るように見つめていた。
不思議なことに牽かれるのは、人間の性であることが示された。

しかし、雲におちた光が見えた学生たちにも、男性の声は聞こえなかった。

声が聞けるのは、全体像を見て、正体が見える、展望台にいる者だけが持っている特権なのであった。

「長老お久しぶりです!」
ラベンダーが柵から顔を出して、にこっと笑って言った。

若い男性は、目を細めて言った。
「ラベンダーですか。何の用ですか?」

「この3人は、長老に聞きたいことがあるのです!」
ラベンダーは、言った。

すると、長老の顔を形作っていた星々がうごめき出し、端正な顔が消えていく。

星の肖像画が次に描きあげたのは、老人の顔だった。

呼び名に相応しい顔となった長老は、
嗄れた、エコーのかかった声で言った。

「くだらない内容ならお断りだ」
厳しい口調である。

若さを失い、代わりに厳格な風格を漂わせる老人となった魔物は、
噂通りの気難しく恐ろしい長老であった。

「まぁまずは、話を聞いてください!」
ラベンダーが、臆することなく言う。

すると突然、星の肖像画が、沸騰水のように蠢き出した。

それは、先程のような、肖像画の描きかえをする前触れなどではない。

星々は老人の姿を崩すことなく配列し続けながら、蠢いているのだ。

顔が震えているようにも見える。

「快い返事は期待出来そうにないですね」
エリカが顔を強ばらせて言った。

ラベンダーは尚も臆する様子も見せずに、あっけらかんとして言った。
「長老は情緒不安定なの。
まぁ要は気難しいってこと。
この状態を見てたら分かると思うけど、
ギャラクシアにいるどの魔物よりも強く強く、ここに縛りつけられて、自由度も遥かに低いからね。」

彼女が話している間にも、長老の顔の震えは増していく。

フランチェスカは、それを見るとクスクスと笑った。
「陛下の顔が浮かびます。
近頃は情緒不安定が過ぎますからね。」

「会ったことあるのですか?」
エリカが驚いて訪ねると、
フランチェスカが言った。
「いいえ、文通です。
文章の端々に、精神の脆さが垣間見れましたよ。」

皆が呆気に取られていると突然、
震えはぴたりと止まった。

今にも散り散りになりそうであった星の肖像画は、安定を取り戻す。

「話は聞こう。
それからだ。」

老人の威厳に満ちた声が響き渡る。

どうやら山場は越えたようだ。

肖像画が描く老人は、少しだけ顔つきが変わっているように見えた。

端正な若い頃の面影を残しながらも、
経験と苦労を積み重ねた故の落ち着き。
そこに微かに垣間見える優しさと理性。

嘲笑していたフランチェスカは、顔つきを変えた。
圧倒されたように両膝をついて、片手を肩に当て、最高敬礼の姿勢を取った。

「秘少石を作り、その力で魔界の扉を開き魔法の歴史を作った、偉大な人物。
科学者の中の誇り、、、
皇族の方々など足元にも及びません。」
そう言った、フランチェスカ研究長の様子は、いつもの皮肉を含んだ丁寧さではなかった。

明らかに、本物の畏敬を示していた。
先程までの嘲笑は微塵も感じられない。

再び、星々が蠢き出す。
しかし、いつまでたっても無秩序に動くばかりで、具象的な絵として現れることはなかった。

よもや知らぬ内に逆鱗に触れてしまったか、、、

みなが唖然としていると、背後から声がした。

「こちらの方が話しやすい」

振り向いて見ると、星の絵画ではなく、人間の姿をした老人が後ろに立っていた。

星々が描いていた長老の顔が、普通の人間として目の前にいる。

長老は、フランチェスカを見て言った。
「仰々しい物言いはやめてくれ。
魔族の産みの親は、魔法遺伝子を作った人物だろう?」

「世に魔法がもたらされなければ、そのような遺伝子を作ることもありませんでした。
それに、あなた様の子孫の受精卵に魔法遺伝子は注入されたので、魔族のご先祖様ということになります。」
フランチェスカの言葉に、
長老は目を見開く。

「よくもまぁそこまで嗅ぎ付けたものだ」
厳格な顔に、感心と辟易の念が浮かぶ。

「光栄です」
フランチェスカはそう言って立ち上がると、本題に入った。
「魔界から生還した唯一の人間は、誰ですか?」

長老は、予想外のことを口にした。
「そんな人間は知らない。
私が全知の仙人かのように思っている人間もいるが、私は空から世界が眺望出来るだけだ。」

フランチェスカは下がらずに続けた。
「では、質問を変えます
魔界の入り口は、どこでしょう?
かつて、あなた様が秘少石のエネルギーを使用し作った、世界の裂け目です。
どこで、使用したのですか?」

エリカは一瞬どきりとした。
先ほどから然り気無く、2回も秘少石の創造主についても触れてしまっているのだ。
今度こそ、嗅ぎ付けたことに怒りを見せるかも、、、。

しかし長老は、気にする素振りも見せずに言った。
「そんなものは覚えてない。
エネルギーを使ったとき、秘少石に関するほとんどのことが忘れてしまった。」

「……普通に話が進んでいますね…」
エリカがこっそりとマリアを見て呟いた。
「秘少石の創造主は、長老ということで、確定でしょう。」
「ですね。」

長老は、話を続けた。
「しかし、、、
魔族の産みの親なら知っているかもしれん。
つまり、魔法遺伝子の開発者だ。
その者は、この学園で、その開発に着手していた。
その過程で、魔界の位置を割り出していたからな。
なぜかは知らん。
寡黙無口で何を考えているか全く解せない男だったからな。
研究結果の書類もどこにあるやら。」

「その人は、どこにいるのですか?
人ならば完全に寿命を越えているはずですが、魔物としてこの学園にいたとしたら、拝見することが出来ます?」
フランチェスカが食い入るように尋ねた。

長老は目を伏せて言った。
「消えた。
魔法遺伝子を開発したとたんに消えたんだ。
そのエネルギーで、学園が封鎖された。」

「なら、魔界の位置、聞けないね。」
ラベンダーが言った。

「しかし、その者の助手は生きて下界に戻った。
先祖が続いているか分からんが、助手の帰還先なら教えてやれる。
いや、送り届けてやる。」

すると、老人だった顔が若々しい男性の顔へと変貌する。

「これが最初で最後の別れになりましょう。
一度出てしまえば、二度とこのギャラクシアに入ることは叶わないでしょう。

雲の正体に気づいてしまうからです。
そして、呪いの解き方にも。

外出許可は滅多に出ないと、最初に言いました。
禁止領域から、皇族の魔法でやって来る郵便も、同じ人物は二度と来ることはありません。

雲=私の魔法の解き方は、魔法の階段がかかっているときは気づかないものです。

雲の上にいるときも気づかない。
少し離れて見ると分かるものなのです。」

フランチェスカは、エリカとマリアを見て言った。
「いかがいたしましょうか?」

マリアは言った
「研究長、ここに残る意味はもはやないと思われます。
長老との面会が叶い、必要なことも聞き出しました。」

エリカも言った。
「私も、同感です」

「では、その助手の先祖とやらに会わせてください。」
フランチェスカが言うと、男性が言った。

「その約束は出来ません。
先祖がいるかも、まだその地に残っているかも私には分からないのですから。
私は、ただその地に送り届けるだけです。」

フランチェスカが言った。
「ですから、そういう意味で言いました。」

「誤解を産む物言いをするでない。」
そう言った男性の顔は、一瞬だけ老人になった。

しかし、また若々しい顔に戻ると言った。
「では、下界に降りる覚悟をしてください。」

「あ、1つだけ、忘れていました。
用水路の牢にいる、黒髪の男も釈放して一緒に連れていきます。」
フランチェスカがふと思い出したように言った。

「いいでしょう」
長老の呼び名に相応しくない、若々しい男性は、そう言うと、
何の前触れもなく、、、
突然、
柵から身を投げた、、、。

男性は、奇妙なほどゆっくりと、頭から落下していく。

エリカはその唐突な行動に、唖然としながら呟いた。
「やはり、一級の科学者は違いますね」

それから、マリアを見て言った。
「まさか私たちも、これに倣えとは言いませんよね。」
「お答えしかねます。」
「倣うとしたら、ルイスさんは清く飛び降りるのですか?」
「はい。」
「怖くないのですか?」
「はい。」
「代償を打ち破れば呪いは解ける
今がその好機かもしれません。」

淡々と会話する2人。
いつしかエリカは、マリアの口調に合わせ、淀みなく会話出来るようになっていた。

ラベンダーは、2人を遠巻きに見て、少し寂しげに言った。
「みなさんとはこれでお別れですね。」

エリカは、その言葉で突きつけられた。
一期一会の別れを、、、

「ラベンダーさん、今までありがとうございました。」
感慨深い気持ちでそう言うと、
ラベンダーはにこっと笑った。

そして、「こちらこそ」と言うと、そのままの調子で話を変えた。
「投げた魔法写実画だけど、厨房に帰る時にまた元に戻るんだ。
それをジャスミンに届けたい。
もらってくれるかは分からないけどね。」

それから、ラベンダーはフランチェスカを見た。
「研究長、あたしは、シェフとは長い付き合いだったんです。
あの世があるかは、魔物にだって分かりません。
もしあったとしたら、、この絵が誰かの手にあると寂しくないんじゃないかなって思ったんです。
これは単なる個人的な見解です。」

用務員の彼女は、ジャスミンがどこにいるか知っているようだった。

フランチェスカが微笑を浮かべて言った。
「私は何も出来ませんよ。
管轄外ですからね。
長年付き添ったあなたが持っていればいいのではないですか?
ベンジャミンは一度彼を騙した人間ですからね。」

「そうですよね。」
そう言ってにこっと笑った顔は少し悲しげだった。

その時、身を投げた長老の体が、頭から雲におちた。

雲が波打ち、そこに散りばめられた星々が輝きを乱射する。

虚空になった空が、まるでガラス面のように、その輝きを反射していた。

そして、雲の声=長老の嗄れた声がした。

「躊躇せずに、この星雲へ向かって飛びおりるのだ。」

フランチェスカは、目を輝かせて言った。
「これぞ神秘!
わたくしの求めていた冒険です!」

それから、彼女は何の躊躇いもなく柵から身を投げ出だ、、、、そうとした。

が、ふと思い起こしたようにとどまった。

「その前に、やるべきことがありました。」
そう言うと、フランチェスカはマリアとエリカを見て唐突に指示を出した。

「マリア!
ブラウニーさんと共に、その地で探索をしてきなさい。
私も、後ほど同行します。」

突然の意思変更に、エリカは気持ちが追い付かず戸惑いを見せていると、マリアが事務的に言った。
「承りました。」

それから、まるで事務作業かのような足取りで、飛び降りた。

明らかに、物理的な落下と思える速さでおちていくマリアを見て、エリカは一瞬怯んだ。

しかし、覚悟を決めると、ラベンダーに向き直る。
「ラベンダーさん、お世話になりました。」

「行ってらっしゃい。」
ラベンダーはにこっと笑ったが、悲しそうであった。

囚われている自身とは対照的な3人がいるからかもしれない。

エリカは、何とも言えない気持ちになったまま、意を決して飛び降りた。

滝から真っ逆さまにおちた経験があるとは言え、慣れるものではない。

浮遊感に加え、体が衝突し激痛が襲いかかるのではないかという強い恐怖に苛まれる。

自然と体は強ばっていた。

「吉報を期待していますよ。」
フランチェスカはエリカを見送りながら言った。

噴水の彼方へ

ギャラクシアの陰鬱な地下廊で、囚人たちは疲れはて、意識が半分なかった。

船長と名乗る男が入る牢。
ジャスミンとエヴァンが入る牢。

その2つの牢の間に、水がチョロチョロと流れていた。

半目を開けぼんやりとしていたエヴァンがそれに気づいて、目を見開く。

完全に目が覚めた彼は、柵ごしにいるジャスミンを叩き起こして、壁側に避難させる。

ジャスミンが何事かと柵の外を見ると、そこには急速にかさを増していく水流があった。

廊下に、魚がやってくる時の前兆である。

以前、魚が生徒を襲った時のことが、2人の脳裏にフラッシュバックした。

「さ、魚がくるよ、、、。」
ジャスミンが震える声で言った。

「静かにしろ。」
エヴァンが声をおし殺して言った。

もう1人の囚人は、柵ごしで熟睡していたが、水かさの増加と共に大きくなる水音で、目を覚ました。

最初は、寝ぼけ眼でいたが、何が起きているか分かると、
ガタガタと震え、地面に這いつくばりながら壁側に向かった。

あっという間に、通路は用水路のようになり、幅は牢の柵をも越えた。

水流の他に、水中で意思を持って動くものがある。
それは、囚人たちの格子の前で姿を表した。

巨魚が、水飛沫をあげて水面から顔を出したのだ。

魚の横についた目は、片方は子ども達を、もう片方は男を睨んでいた。

その不気味さに、全員が声を失う。

魚は、突然、予測不能な動きで泳ぎ始めると、鉄格子を食い破った。

男を監禁する鉄格子である。

「あわわー!!」

男の叫び声と共に、魚は大口を開けて襲いかかった。

そして、悲鳴はぴたりと止んだ。

男が、魚に一口で飲み込まれたのだ。

そのまま、巨体は男を体内に入れたまま、水中に潜っていく。

化け物が去っていった後の水面は、不気味なほどに静かになった。

その静けさを残したまま、音もなく水は引いていく。

目の前で起きた強烈な出来事に、間諜の2人は、ひたすらに震えることしか出来なかった。

~~~

ギャラクシアの園庭は、雲の地面が光輝き、普段以上に幻想耽美であった。

その中央の、何段もある巨大な噴水に、不気味な姿が現れた。

それは、汚ならしい色の魚だった。

綺麗な真透明な水を汚すかのように、泳いでいる。

1人の生徒がそれに気づき、叫んだ。
「用水路の巨魚が、噴水にまで出てきているよ!」

近くにいた生徒達が注目し出す、、、。

突如!!!

魚が水面から顔を出し、水飛沫を飛ばした!!!

辺りにいた生徒に水がかかり、1番手前にいた者はずぶ濡れになってしまった。

しかし、その場の誰もが濡れた衣服は意識の外にある。

魚の恐怖をしっかりと刻印された生徒達は硬直し、動くことが出来ずにいた。

その恐怖の対象は今、大口を開けている。

その場に戦慄が走った!!!

静観することしか出来ない者達の前で、魚はいつもと違う動きを見せた。

何かを吐き出したのだ。

口から出てきたのは人間。

小麦肌の汚ならしい様相の男。

例の囚人である。

魚にひとのみされたあと、噴水に打ち捨てられた哀れな囚人。

彼は、生徒達に見守られながら、悲鳴をあげて噴水の水と共に舞い上がり、そして雲の下へと落下した。

光る雪

宮殿のテラスで、女帝ヴァイオレットは夜空を仰いでいた。

遥か彼方の空は、輝く幻想的な光で明るい。

ギャラクシアの光りであることは、もちろん彼女は知らないが、そうだという予感はしていた。

「リー大佐、、、」
ヴァイオレットはそう呟くと、護衛に弱々しく命じた。
「リー大佐を連れてきてください。」

~~~~~~

皇帝ヴァイオレットの元から遥か遠く、ギャラクシアでは、
雲に散りばめられた星々が、下界へと舞い散っていた。

それはまるで、光る雪のようであった。

"雪"は地上付近にまで舞い降り、人々の目を惹き付けた。

不思議な現象に驚き、空を見上げる者、我を忘れてその幻想美に見入る者、"雪"に触れようとする者、、、。

下界では、時間が止まったかのように、皆が星の雪に目を奪われていた。

その上空で、
星の雪を降らせた分厚いギャラクシアの雲からは、
突如、ぼこぼこと小さい何かが出てきた。

人間である。

目的の為の下界を許された、科学者の見習い生、エリカとマリア。

魚に追い出された男、
元航海士の囚人。

3人は、舞い散る光の中で、浮遊しながらゆっくりと下降していた。

男は、2人の姿を見つけて叫んだ。
「おい!!小娘ども!!
やっと解放してくれたのか?
あれはないぜ。
一度喰われないと出れない仕組みなのか?」

「船長さん、解放されたのだから約束は守ってちょうだいね!」
エリカが釘を指すように言った。

「勿論だ」と言い船長は薄ら笑いを浮かべ、マリアはその様子を静観している。

エリカはそんな2人を見て、不安げに言った。
「不安しかない、、、。」

その時、ふと衣服が湿気っていることに気づいた。

次第にその湿気は増していき、遂には、水中から出てきたかのようにびしょ濡れになってしまった。

「雲の正体は水だったようですね。」
マリアが珍しく自分から声を発した。

「それは勿論雲ですか」
エリカは言いかけてハッとした。

「魔法が解けたから普通の水に戻ったのですね。」

それから、他2人を見る。
自分と同じようにびしょ濡れである。

「いや、オレは普通に濡れた、魚のおかげでな。」
エリカと目が合うと、船長が皮肉混じりに言った。

しかしエリカは彼のことは意識の外にあった。
マリアを見て興奮気味に言った。
「ルイスさん!
ギャラクシアに入って出た者が、
その正体を知ってしまうのは、
体に付着した”雲”の魔法が解けて、水へと変わっていくのを見てしまうからですよね。」

「おっしゃる通りだと思います。」

「水が空を浮く、、、。
やはり魔法は不思議ですね。」

「一応の科学的原理はあるようです。」

「?!
、、、教えてください。
どんな原理なんです?」

「ギャラクシアの雲は、綿のような形状に保つことで、接触する物質の浮力を、異常なまでに増大させます。(但)

つまり、建物や人々は、水の上に浮かんでいるようなものです。

そして、禁止領域では、雲が翼の形で鋭角を保ち、渦巻きながら爆風を生じさせることで揚力を作り出しています。」

「それは、今考え付いたことなのですか?」
エリカは、思いの外具体的な答えに、唖然としながら尋ねた。

「ギャラクシアにいた頃、調査しました。」

それで、禁止領域付近にいたのか、、、。

そう納得してから、エリカはハッとした。
「分かっていたんじゃないですか!
なぜ、知らぬフリをするのです?」

「雲自体が長老だということは、つい先ほど知りました。」

またもや絶妙に噛み合わない会話。
しかし、もういちいち戸惑ったりはしなかった。
慣れつつあったのだ。

エリカは、空を仰いで呟いた。
「綿のようになれるのは、水分子1つ1つが意思を持ち、
物理法則を犯してでも、
術者=長老の希望通りに配列しようとしているのですね。」

「気味の悪い話だな。」
突然口を割ってきた船長に、エリカは学者気取りで言った。

「魔法物理学の基礎です。
魔法の維持には、精神力が必要で、人によっては、それを魔力と定義する者もいます。

魔力がないと、維持は出来ないのです。

しかし、長老の魂は、雲に囚われ、無理矢理にでも魔法を維持させます。

可哀想だと思いませんか?
長老の呪いはどうしたら解けるのでしょうね。」

「恐ろしいこと言うな!」
船長は声を荒げたが、
マリアは、エリカの言葉に答えた。

「魔法を解くには、物理行使しかありません。
魔法に注目してしまいすぎると忘れてしまいがちですが、結局のところ、やはり、この世は物理法則で成り立っているのです。
親水性の高い物質で、大量に水分子を巻き取っていけば、是が否でも呪いは解けましょう。
魔力に抗えるほどの量ならばですが。」

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      「陛下、お呼びで。」

宮殿のテラスで、リー大佐が女帝の前で跪いていた。

「あの光を見て、、、!」
ヴァイオレットは、狼狽えながら、手で空を示した。

大佐は、奇妙な景色に眉を潜めながら言った。
「ギャラクシアのものでしょうか。」

ヴァイオレットは、不安と焦りを表出した。
「そうでなければ何だというの?」

「すぐさま調査して、、、!」
情緒不安定な様子で言うヴァイオレット。

「承知致しました。」
畏怖しながら受諾するリー大佐。

女帝は、彼を見下ろして重々しい声で言った。

「帝国は、魔界に出でます。」

大佐の目が見開かれる。
公国側の彼が、帝国側と未知の世界に行くことになるのだ。

「承知、致しました。」
大佐は跪いたまま受諾した。
俯いた顔には、複雑な表情を浮かべていた。

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エリカは、光輝く空を浮遊しながら心に覚悟を決めた。

本当に魔界へいくことが叶ってしまいそうなのである。

゛さようなら、ギャラクシア゛

第1話『魔法学校ギャラクシア』完

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目次(1章)にとぶ⬇️

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後書き

ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
気に入ってくださった方は、ぜひ、2話もお読みくだされば幸いです。

※実際の科学のお話と入り交じった設定になっているので、後々、参考にしたものをご紹介出来たらと思っております。
各話の後書きとして載せるつもりなので、興味のある方は、そちらも合わせてお読みくだされば幸いです😊

※作者は、科学雑学が好きなだけの素人です。
良く調べれて書いたつもりではありますが、誤りが多々あるかもしれません。
ご容赦願います。
ご指摘やアドバイス等がいただければ嬉しいです。
真摯に受け止め改善に努めます。


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