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5章 魔法物理学

4次元空間


快晴の空に浮かぶ雲たちの中に、一際大きな雲が浮かんでいた。

それは聖ギャラクシア帝国学園を乗せて浮遊する雲である。

学園の講堂では、生徒達が座り、落ち着きのない様子で話をしていた。

「皇族の方々に魔力がまだ残っていたんだね、、、。」
「本当に、魔法を学ぶの?」
「魔法じゃないよ、魔法物理学!」
「魔法と魔法物理学の何が違うのよ!」
「魔法物理学は、原理を学ぶけど、実践するのが魔法!
実践するには魔力が必用だよ。
つまり、精神力だね。」

開校の日から、1週間ほど経っていた。
その間に、手続き事などの準備が整い、いよいよ最初の授業である。
さすがに、この頃にはほとんどの者が、魔法の存在を現実のものと捉えていた。

そんな生徒達の中に、エリカとマリアもいた。
「帝国の皇族が、教壇に立つのでしょうか。」
エリカが、隣にいたマリアに呟いた。

「分かりません。」と、
相変わらず、無表情なマリア。

エリカは辺りを見回してから、小声で囁いた。
「まさか、、、本当に、魔法を解禁するなどということは、ないですよね?」

マリアは、エリカに向き直って言った。
「私は間諜でも側近でも腹心でもないので、
そのようなことは知る由もありません。」

公国は、身分制度が根強く、腹心や側近といった言葉も身近に存在する。
只、この国では、実質的な権力を握るのは、物理学を牛耳る研究者の長。
つまり、エメラルドの署長となる。
フランチェスカはその直々の部下だ。

そして、フランチェスカは確実にマリアを腹心として扱っている。

自覚がないのか、あるいはそう装っているのか、掴み所のないマリアに、
エリカは唖然としながら言った。

「腹心ではありますよね?」

「研究長に、そのように思っていただけているなら幸いです。」

「、、、そうですか、、、。」

会話としては成り立っているが、絶妙に何かが噛み合っていない。

そう思った時、部屋に1人の女性が入ってきて教壇に立った。

この学園の教師である。

皆がそれに気づき静かになった。

その教師は、優雅に言った。

「みなさん、ごきげんよう。
わたくし、フランチェスカ・フランソワーと申します。
公国アクア科学の国の科学省に所属する研究者です。」

そこには、白衣を着たフランチェスカ先生が立っていた。

先生は、中央に座っていたエリカに視線を送り微笑んだ 。

自身は地上に残るかのような態度で2人を送り出したのに、平然とそこに立っている。
しかし、考えてもみれば、エメラルドの研究者なのだから、こちらにいる方が自然な流れだ。

エリカは、彼女の気まぐれな台詞に辟易としたが、会釈で返した。

魔族ではなく、科学者の登場に場がざわつく。
主に声をあげていたのは、メイデン帝国魔法の国の生徒だった。

「皇族でもない人間に、魔法など扱えるものか!」
「いくら優秀でも、魔法遺伝子なくしては、魔法物理学の理解は不可能よ!」

フランチェスカは、ざわめく生徒を制することなく、お構いなしに話し始めた。

「魔法を扱うには、⚛️”✴️✴️✴️✴️✴️”を理解しなければなりません。
魔法物理学は、思いや願いをエネルギー化し、
エネルギーを物理化する原理と技術を学ぶ学問です。
これを物にしない限りは、魔族といえど、魔法を扱うことは出来ません。」

自身が魔族であるかのような口振りである。
帝国の者達は、彼女の言葉に反応し、口をつぐんだ。
一気に場が静まる。

フランチェスカは、話し始めた。
「帝国の方々は、魔族がなぜ、魔法物理学を理解出来るのか、知っているのですか?
それは、
_人人人人人人人人人人人人人人人人
無意識下に4🛑🛑🛑🛑🛑を秘めているからです
Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y

次元というのは、物理学的には空間の広がりの程度を示していることは、既知のことと思います。

1次元は線、2次元は面。
そして、、、、私達の住む3次元。


これ以上の空間を、私達は認知出来ません。縦横奥行き以外に、空間があると思いますか?無いと、私達は思っていますよね。

ただそれは、3次元である人間が、認知出来ないだけです。

4次元は、、、存在するのです。」

一度区切ってから、彼女はとんでもない話を始めた。

「魔族でない私達にとって、非常に不思議な感覚ではありますが、
4次元では、奥行き以外の空間が広がっているのです。


そしてその空間は、時間自体だと考える学者もいます。(但)

時空のことではありません。
時空は、時間と空間を一緒に考えてはいますが、あくまで、時間は時間、空間は空間、別の物として扱っています。

その学者の説はこれとは全く違うものです。
その説というのは、、、
_人人人人人人人人人人人人人人人人人
時間が空間として見えるということです。
Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y

しかし、4次元認知を持つ魔族にさえ、真実を自分の目で確かめることは出来ないと言われています。

なぜなら、4次元空間の存在を感じとることは出来ますが、実際には見ることは出来ないというのです。

例えるならば、絵の世界しか見ることは出来ない人間がいるとして、
その人が奥行きという空間があることだけは知っているようなものです。

5次元以降の世界が存在するかは不明ですが、
4次元までは確実に存在します。
そして魔族は、4次元までの空間認知を内に秘めているのです。

その認知があるからこそ、高度な空間的計算を可能にし、魔法物理学の理解を可能にするのです。

魔術を使用しない普段は、認識出来ないそうてすが…。

ですから、3次元でしか認識出来ないみなさんは、本来、魔法物理学など理解することは出来ないのです。

それを可能にするのは、世界で唯一、この学園だけです。
更に、学園外まで理解を持ち出すには、卒業資格を持たなければなりませんね。

しかし、ここは長い封鎖で廃れてしまいました。
かつては、敷地内にいるだけで4次元認知を可能にしましたが、今はそれが容易ではなくなっています。

つまり、
非常に高いIQが、求められるのです。

皆さんはまず、物理学を徹底的に叩き込まなければなりません。
魔法は物理学の延長線上にあるもの。
通常の物理学を制さなければ、魔法物理学も扱うことは出来ません。」

生徒の1人が声をあげた。
「先生は、4次元認知を可能にしたのですか?」

フランチェスカは不適な笑みを浮かべて言った。
「、、、勿論です。
でなければ、教壇に立つことは出来ません。」

帝国出身の学生が、憤りの声をあげた。
「魔族である皇族の方々を差し置いてですか?」

「勿論、魔族には、敵いません。」
フランチェスカは意味深な笑みを浮かべた。

皮肉を込めている理由が、エリカには分かった。
皇族の魔法遺伝子は、代々傷つけられてきているのだ。
フランチェスカはそれを知っているに違いない。

煽るような態度に、生徒は乗せられた。
「証拠を見せてください!
4次元認知を可能にしたという!」

その瞬間!!
生徒の体が椅子に打ち付けられた。
明らかに、本人の意思に反する体の動き、、、。
その不可解な現象に、誰もが驚き、そして魔術が施行されたのだと理解する。

フランチェスカが掲げた手を振り下ろしすと、生徒の体は解放された。

「、、、とまぁ、この程度の簡単な魔術ならば習得しましたよ。」

優しげな笑みを浮かべるフランチェスカを、生徒は震えあがって見つめていた。

彼女は、そのままの調子でゆったりとした口調で問いかけた。
「ここまでで、何か質問はありますか?」

場がしんと静まり返る。
笑顔の下に脅威を隠しているフランチェスカを、皆が恐れていた。

その時、1人の学生が挙手して尋ねた。
「4次元が時間として存在するとしたら、魔族は時間を自在に操ることが出来るのですか?」

「それは魔族に聞いてみてください。
恐らく、分からない、と答えるでしょうね。
彼らにも、4次元を実際には見ることは出来ないのですから。

今だ魔法をもってしても出来ないことは、
♟️
です。」

「と、聞きました。」と語尾に付け加え、お茶目に笑ったフランチェスカ。

彼女は、ふと笑みを消し、顔つきを変えて言った。
「魔法は科学の延長線上にあるとはいえ、魔法ばかりに頼ると科学技術は衰えます。
それは今のメイデン帝国魔法の国を見れば一目瞭然です。
例えていうなれば、
数学的な計算での算出方法を覚えると、算数を使用して求める考え方が衰えてしまうのように。。。」

通信制限

エリカは学生寮の一室で頭を抱えていた。

ベッドの上で目を瞑っていても眠ることが出来ないのである。

理由はアリスのお喋りだ。
3人部屋のメンバーに、とんでもない騒音源が来てしまったものだ。

それをずーーっと聴いてあげている女の子はマーシャ。
ハーフアップの清楚な見た目の優等生だ。
おっとりとした雰囲気の、天性の癒し系である。

エリカは遂に痺れを切らした。
「何時だと思ってるの!!」

一瞬の沈黙があった。

令嬢のアリスは高飛車な目線をエリカに向けた。
「生意気な子ね!
お父様に言いつけてやるわ!!」

「落ち着いて、アリスちゃん、、、。
学園内の者は決して、下界とやり取り出来ないんだよ。
魔物の魔力がそれを許さないんだよ。」
マーシャが諭すように言った。

その言葉に、エリカの興味がそそられる。

「?どういうこと?」

「謀反を防ぐ為だと本に書いてあったよ。」
マーシャが言った。

「それは、学園の図書館の本で知ったの?」
エリカが尋ねると、マーシャが「うん」と頷く。

「マーシャは本当に、本が好きね」
エリカが笑って言った。

マーシャは本好きである。
加えて、聞き上手である故に、色んな人から話しかけられる。

つまりは、情報通だ。

「聞いて。」

マーシャがそう言って、小窓を開けた。

爽やかな夜の風が部屋に吹き込む。

風がエリカの頬をなでた時、
音の波が鼓膜を軽やかに振動させた。

鐘の音である。

それは、編入の時に聞いたあの鐘の音。

どこからともなく、聞こえてくる爽やかな音色に、
3人は耳を奪われていた。

先ほどの口論などなかったかのように、エリカもアリスも、マーシャと共に、窓の外を見つめるのであった。

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