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あばれる君が子どもたちの心をつかむ理由が、なんとなくわかった気がした。

初対面の人と話すとき、僕はまず相手との共通点を探す。

出身地、生まれた年、趣味や好きな映画、本の話…。色々なことを聞き合いながら接点を探していく作業を通じて、お互いのことを知っていく。もちろん、何か同じものを共有しているから仲良くなれるなんて人間関係はそう簡単にいかない。でも、初めて人と会うとき、相手の人と重なっているところを見つけることができたとき、少しだけ距離が縮まった気がするのだ。

僕は本も同じような読み方をすることがある。読んだ本の著者や登場人物との間に、思いもよらない共通点が見つかったとき、ぐっと距離が近くなるような感覚が生まれることがある。もしそんな本に出会えたときは、とても幸運であると思う。

3か月前、一般書編集部に異動になったばかりの僕に、同じ部署の先輩が渡してくれたあばれる君の初エッセイ自分は、家族なしでは生きていけません。はまさにそのような本だった。

あばれる君の初エッセイ『自分は、家族なしでは生きていけません。

あばれる君と言えば、誰もが知っている大人気お笑い芸人である。一生懸命な芸風、誠実そうなキャラクター。テレビの中で活躍する姿を何度も見てきた。

そんなあばれる君、初の著書である本書はタイトルの通り、あばれる君の家族にまつわる話をテーマにしたエッセイだ。妻・ゆかさんと息子さんたちへの愛にあふれるエピソードを中心に、天気予報士試験に挑戦したことや、自身の山岳部の話など、あばれる君の人生が詰まった内容になっている。

ポプラ社のエントランスでゾロリと対面するあばれる君

本書のために書き下ろされた文章は、あばれる君の真っすぐな性格をそのまま表したようで、エピソードもクスッと笑ってしまうものもあれば、あばれる君の意外な一面を見ることができるものまで幅広い。読み進めていくと、ある一節に目が留まった。

「僕は社会科の教員免許を持っていますが、教師という仕事はすごいものだと感じています。その仕事を43年以上続けてきたのが僕のお父さんでもあります。」

『自分は、家族なしでは生きていけません。』p49 「厳格な父に育てられました」より抜粋

「え! 僕も社会科の教員免許を持っています! そして僕の父も教師です!」

この箇所を読んだとき、心の中でそう叫んだ。飲み会だったら20分ぐらいはこのテーマで話せる自信があるぐらいの共通点だ。僕の中で、あばれる君と距離がぐっと縮まった。

親が教員あるある:地元のイオンに一緒に行くと、絶対に親の教え子、その保護者、同僚の教員のどれかと遭遇する

本書の中には、幼いあばれる君がお父さんを誘って地元のミニ四駆大会に行くエピソードが描かれている。

普段なかなか忙しくて遊んでくれないお父さん。お父さんと一緒にミニ四駆を作る他の子どもがなんだか羨ましく思えてしまう。幼いあばれる君は勇気を出してお父さんを誘い、地元のミニ四駆大会に一緒に行ってみるが、いきなり怒られてしまいもう二度と誘うことはなかった……。

わかる。めっちゃわかる。泣ける。

あばれる君も「このエッセイを書きたかった」とおっしゃっていました

先述したが、僕の父も同じような人で、地元の学校で先生をしている人だった。地域では怖い先生として有名で、ずっと生徒指導を担当していたこともあってとても厳しかったことを覚えている。

そんな先生の息子が悪事をしては、生徒を指導するときの際の説得力が失われてしまうという事情もあったのかもしれない。父親にまつわる記憶は叱られていることばかりだ。不思議なもので、幼いころは楽しかった記憶より、怒られた記憶の方が残りやすい。

大人になれば、怒られたことなんてすぐに忘れてしまうように努める(もちろん自分が悪い場合を除いて…ですよ!)。それは嫌なことをいつまでも覚えていては精神衛生上よくないし、怒られた理由と自分の行動を比較して、自分が悪いかどうかを理解することができるようになるからだ。もし相手の怒りの原因が僕にあるならば反省するし、理不尽と感じるのであれば反論するなり忘却するなりするし、酒席のエピソードトークにしてビールに流すことだってできる。

流すのはビールのときもあるし、日本酒のときもあります

でも、幼い子どもにとって「親」とは絶対的な価値観である。絶対的な価値観から発せられた怒りという感情について、その正当性を判断する術を子どもは持ち合わせていない。「どうしてあのとき、怒られたのだろう」という心に刻まれたモヤモヤは、消化されるタイミングを失ったままいつまでたっても残り続ける。

もちろん、怒らない親が絶対に良いということを言いたいわけではない。社会人二年目でこの前扶養から外れたばかりの僕が育児について語れることなどできるわけがない。でも、あばれる君は子育てや家族との関わりを経ながら、幼いころの自分のモヤモヤやお父さんの思い出と真剣に向き合ってきたのだと思う。

だからあばれる君は子どもたちにすごく優しい。それは大人が特に気に留めない一瞬の出来事、感情が、子どもにとってずっと心に残り続ける可能性があることを知っているからだと思う。だからこそ、いつも全力で子どもたちに接する。その一瞬が子どもの心のシワになることがないよう、決して手を抜かない。あばれる君が子どもたちの心をつかむ理由が、エッセイを通じてなんとなくわかった気がした。

サイン会にはたくさんのあばれる君ファンのご家族が来てくださいました!

本書には、ありふれた普通の家族の姿が書かれている。あばれる君の、妻・ゆかさんや息子さん、お父さんやお母さん、ご家族へ向けた、ありふれているけど真っすぐな愛が綴られている。

決してドラマチックではない。だからこそ、僕みたいなどこにでもいるような人間でも共通点を見つけることができた。ありがたいことにここまでこの感想を読んでくれたあなたも、ぜひ本書を手に取ってあばれる君との共通点を探してみてほしい。あばれる君のことが、そして自分の家族のことがもっと好きになれるだろう。

ポプラ社 一般書編集部 小堀数馬

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