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第二卒業式という名の旅立ちに光はきっと差す


人気のない廊下を
ひたひたと歩くスリッパの音が響く

春の予感

春風は切なさも連れてくる

今日が最後かもしれない
ほろりと苦い淋しさが
指の先から零れ落ちる

私は淋しいんだ
そんな
自分の気持ちに今ごろ気がつく

旅立ちの予感

ひよよと
ヒヨドリが悲しくないた
別れは迫っている


廊下の端に
ひっそり隠れるように
図書室はある
きしきしと音を立てて扉は開いた

本の匂い
この匂いに
どれほど癒やされたことだろう

まもなく旅立つ
ここには
二度と来ることはないかもしれない



第二卒業式の時間が迫る
みんなと一緒の式には入れなかった
そんな
子たちを集めた
第二卒業式

いつしか
私は教室に入れなくなっていた
理由は
自分でもよく分からない
大人たちは
理由を求めたがる
なぜ?
なぜ?
どうして?
その言葉に私は俯いた
分からない

ただ
人が怖かった
人の集まりが怖かった
だから
卒業には悲しみなどない
そう思い込んでいた

それでも
図書室の本たちは
優しく迎えてくれた
いつも
夢中になって
本の世界に入り込むうちに
気がつくと
夕暮れのオレンジの光に包まれていた

私は
自分の居場所が見つかった気がした

がらりとドアが開く

時間だと
養護の先生が教えてくれる

ドアから光がさし込む
私にも旅立ちのときはきた

振り返ると
複雑な感情がこみ上げる
私の居場所

一般の
華やかな卒業式の終わったあとに
ひっそりと開かれる
第二卒業式という名の儀式
旅立ちは
誰にでもくる

たとえ形は違っても

拍手拍手拍手
次の扉は開かれた
希望の予感
そこに
光差すことを信じて
私は一歩を踏み出した



煌々たる月夜のかげのしずけさや
    扉の向こう舟は漕ぎ出す



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