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鉛の如く冬雲は静かに季節を震わせている

空を見上げると鉛色の雲がどんよりと横たわっています。
日差しは雲の裏側を照らしているようです。雲の陰から射抜くように差す光。冬の足音。枯芒が頭を垂れて冬を迎えています。

季節は晩秋から初冬に移ろって、風は屋根屋根を渡り歩いているようです。
窓を開けると、その風はカーテンを揺らして床を這うのです。

冬はそこかしこにその存在を漂わせています。ひんやりとしたドアの取手の感触。引き戸はキシキシと音を立て、わずかに抵抗を示しながら開きました。

しんと静まる空気。畳と冬の匂い。
もう一度窓の外を見ると、乾いた風がカサコソと木々の周りを回っていました。猫がひとつ伸びをして、のそのそと落ち葉に場所を明け渡します。窓枠は景色を縁取る額縁といったところでしょうか。

鉛色の空。どんよりとした雲の塊。
赤、黄色の葉と枯芒。
白い小菊が霜を避けて立っています。

一冊の本を手にすると
こんな言葉たちがこぼれてきました。


春雲は綿の如く
夏雲は岩の如く
秋雲は砂の如く
冬雲は鉛の如く
あさ雲は流るる如く
午雲(ひるくも)は湧くが如く
暮雲は焼くが如し


正岡子規は雲をこう表現しています。

再び外に出て雲の鑑賞会といきますか。

暮雲が焼けるように空を飾っています。
空を見上げる心の余白を子規は思い出させてくれたようです。
季節を問わず、空の芸術を愛でることはできるのです。冬の雲は鉛の如く見えて、朝、昼、暮と刻々と姿を変えます。
雲は季節を漂わせ、色づかせ、震わせます。

欠伸猫雲と芒は湧くが如し
鉛の色が冬を震わす



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