水漏綾

水漏綾と申します。

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最近の記事

通信R050214「こたえあわせ」

 岩波書店のロゴは「種を蒔く人」。  あの美しいロゴが好きで、わたしはよく広辞苑の背表紙を見てはうっとりとしている。  わたしはその「種を蒔く」という意味合いが色濃く反映されるような仕事をしている。あくまで比喩的な意味で。どんな言葉が種となり、どんな栄養分を蓄え、どんな花が咲くのかを、自分の中に蓄積された「経験」という少し頼りのないデータにより見計らいながら、育てていく。作物たちとともに過ごす中で、驚いたり、悲しんだり、嬉しく思ったり、様々な自分の感情に気づかされることとな

    • 通信 R031207 「酔い」

         20連勤より酒がきらいだ。  正しく言うと、「誰かと飲む酒」がきらいだった。頭が痛くなる、眠くなる。そのことで誰かに迷惑をかけたくない。酒自体の味は好きなのにも関わらず、身体が酒を拒否してしまう。  大好きな梅酒やワイン、日本酒を少量しか飲まない、という我慢大会が飲み会のたびに私の頭の中で開催のコングを鳴らす。  相手を包んでいる空気が酒によってまろやかになり、その空気が少しずつ広がり全体を含んだ瞬間、わたしはその中でぶくぶくと溺れそうになる。「ノンアルコールで

      • 通信 R030722 「手の綺麗なひと」

         手が綺麗なひとだ、と思ったのは初めてふたりで話をした日曜日のことだった。1年前。  「日曜、わざわざ仕事場に来て寝るなよ。」  違うんです、ただ今は日差しが暖かくて思わずウトウトしてしまったんです、さっきまではちゃんと仕事を...という言葉をわたしは飲み込む。このひとの理路のたどり方は正確で、わたしのちぐはぐな言葉が入り込む余地はない。言い返したところで「大前提として、今日は勤務日じゃないよなあ。」と言われておしまいだろう。  隙の一切無いスーツから伸びた白い手が、わ

        • 通信 R030227 「うつくしい」

           今日のことがうつくしすぎて全部忘れたくないどうしよう。  あなたとわたしは、ご飯にいった。急に誘ったのに快く受け入れてくれたあなた。帰宅していたあなたは仕事を終えてすぐに着替えてしまっていたみたいで、外に出るために急いで着替えてきたのだろうね、きっと。普段見ないような灰色のチェックの可愛いワンピースを着ていて、少し良い匂いがした。  あなたは意地悪だから、教えてくれない。わたしが創作、というものに、どうして悩んでいて、どうして書けないかのヒントを。  強いて言うならわ

        通信R050214「こたえあわせ」

          通信 R021219 「よる」

           今晩は、元気にしていますか。わたしは元気です。  あなたのことをふと、思い浮かべたとき。この手紙がいつ、なんときに届こうとも、あなたはこれを夜に読むことを選択するだろうなというなんとなくの憶測です。正解を確認する術はきっとないだろうけど、事実がどうであれ、わたしにとっての真実は、今晩は、でした。  わたしが生活の拠点を雪の降らない街に変えてから、8ヶ月が経ちました。何度か連絡を取り合いはしたけれどやっぱり距離というものは強くて、お互いがお互いを少しずつ忘れていく過程をゆ

          通信 R021219 「よる」