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通信 R021219 「よる」

 今晩は、元気にしていますか。わたしは元気です。

 あなたのことをふと、思い浮かべたとき。この手紙がいつ、なんときに届こうとも、あなたはこれを夜に読むことを選択するだろうなというなんとなくの憶測です。正解を確認する術はきっとないだろうけど、事実がどうであれ、わたしにとっての真実は、今晩は、でした。

 わたしが生活の拠点を雪の降らない街に変えてから、8ヶ月が経ちました。何度か連絡を取り合いはしたけれどやっぱり距離というものは強くて、お互いがお互いを少しずつ忘れていく過程をゆっくりと歩いている気がしています。

 先日、花を贈りました。

 忘れ形見として、わたしがいつも花を選択してしまうのは、形見がなくても覚えていてほしいと言う希望を捨てられないからです。花はいつか枯れて土に還るから。少し面倒くさがりなあなたは、きっとドライフラワーにするなんて工程の多いことを絶対にしない。それをわかってて、捨てられた花に自分を重ね打算的にせつなくなっているのはいつもわたしです。

 このわたしのせつない気持ちたちは、わたしが自分で、自分のちからで生み出した気持ちだと、決してあなたのせいではないと、客観視したふりをして自らを守る癖はいつになったら治りますか。

 あなたの周りを包んでいた、薄いオブラートのような膜を、溶かそうと躍起になったわたしの水は、いつだってとめどなく溢れていたのに、悲しいかな、絶対に届きはしないんです。弟の取れてしまった左腕に、届かなかった姉の手とその関係性はよく似ていました。

 でも、今となっては、それでよかった気もしています。届かないことは美しいことかもしれませんね。

 春になったら、またきっと手紙を書きます。そのときにはきっとこのさみしさも、虫の騒ぎと花たちに埋もれてきっと身動きができない、はずですから。


 雪の降らない街から、雪の降る街へ。

 水漏綾


 

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