見出し画像

2022年4月から義務化!ハラスメント防止のための措置とは?

2022年4月1日、いわゆるパワハラ防止法の改正法が施行されたことにより、全事業主に、いわゆるセクハラ、パワハラ、妊娠等ハラスメントといった各ハラスメントを防止するための措置をとることが義務付けられました。
とはいえ、「措置」とはどのようなことをすればよいのでしょうか。
ここでは、各ハラスメントを防止するための措置について、整理します。
いまだ十分な対応が追いついていない企業もあると思いますが、この記事を読めばポイントをつかむことができます!

1 パワハラについて

2022年4月1日、改正パワハラ防止法(正式名称;労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)が施行されました。
これまで大企業のみが措置をとることを義務付けられていましたが、本改正法施行により、全事業主に、パワハラを防止するための措置をとることが義務付けられることとなりました。

<事業主が講じる必要のある措置とは>

1.  方針の明確化、周知、啓発
2. 相談体制の整備
3. 事後の迅速で適切な対応
4. プライバシーの配慮、不利益取扱い禁止

上記1〜4について、どのようなことをすればよいのかご説明します。

【1.  方針の明確化・周知・啓発について】

*就業規則等で明確に規定しましょう*

就業規則等の内部規定で、
a パワハラの内容(パワハラとはどういうものを言うのか)
b パワハラを行ってはならないこと
c パワハラを行った者は厳正に対処すること(懲戒事由となること)
について、明確に規定する必要があります。
まだ対応していない企業は、いますぐに就業規則等の改訂を行いましょう。
就業規則等に記載するだけでなく、社内報や社内ホームページなどに掲載することも有用です。
そのほか、労働者に対する研修制度を設けることも大切ですね。

【2.  相談体制の整備について】

*相談窓口を設置しましょう*

相談窓口を設置し、その旨を労働者に周知する必要があります。
窓口では、パワハラのおそれがある場合、パワハラ該当性が微妙な場合でも相談に応じることが必要です。
そして、窓口で相談を受けた場合には、窓口担当者が内容や状況に応じて適切かつ迅速に対応できる必要があり、そのためには窓口担当者の研修等も重要です。

【3. 事後の迅速で適切な対応について】

*パワハラ事案が発生した場合の事後体制、フローを整えておきましょう*

実際に、パワハラの相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。
そのためには、ヒアリングを行ったり証拠となる物(メール等)を精査したりすることが必要になりますが、誰が担当するのかはあらかじめ決めておきましょう。
また、被害を受けた者に対する配慮として、匿名で相談できるシステムを構築する、パワハラに関するヒアリングを受けていることなどが周囲にわからないようにヒアリングの日時、場所、呼び出し方などに注意する、などが考えられます。
そして、事実関係を確認した上、パワハラ行為であることが判明した場合は、行為者に対し、就業規則等に従って適切に厳正な対処を行いましょう。
その上で、再発防止に向け、改めてパワハラに関する方針を周知し、個々が適切な言動に配慮するよう啓発することが必要です。

【4. プライバシーの配慮、不利益取扱い禁止について】

*プライバシー配慮及び不利益取扱いの禁止についても明文化しましょう*

上記1~3の措置を講ずるにあたり、以下のabも講じる必要があります。

a プライバシー配慮
✔︎ 相談者及び行為者のプライバシーを保護するための措置を講じる必要があります(誰のことかが特定されないというだけでなく、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の情報も漏れることがないようにすべきです)。
✔︎ プライバシー配慮の必要性を周知する必要があります。

b 不利益取扱いの禁止
✔︎  労働者がパワハラに関する相談をしたこと、事実関係確認の調査に協力したこと、都道府県労働局の援助制度等を利用したことなどを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を就業規則等で定める必要があります。
✔︎  不利益取扱いの禁止について周知、啓発する必要があります。

2 セクハラについて

セクハラについても、男女雇用機会均等法の改正法が2020年6月1日に施行されたことにより、義務の内容が追加され、全事業主が以下のセクハラを防止する措置を講じる義務を負うことになっています。

<事業主が講じる必要のある措置とは>

パワハラに関して講じるべき措置と同じです。
つまり、

1.  方針の明確化、周知、啓発
2.  相談体制の整備
3. 事後の迅速で適切な対応
4. プライバシーの配慮、不利益取扱い禁止

の4つであり、その内容も上記で「パワハラ」と記載した部分を「セクハラ」に読み替えればよいだけです。

3 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて

妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(以下、便宜上「マタハラ」といいます)についても、改正男女雇用機会均等法が2020年6月1日に施行され、改正育児・介護休業法が2022年4月1日に施行されたことにより、義務の内容が追加され、全事業主が以下のマタハラを防止する措置を講じる義務を負うことになりました。

<事業主が講じる必要のある措置とは>

パワハラ、セクハラに関して講じるべき措置と基本的には同じです。
つまり、

1.  方針の明確化、周知、啓発
2.  相談体制の整備
3. 事後の迅速で適切な対応
4. プライバシーの配慮、不利益取扱い禁止

が必要です。
ただ、マタハラにおいては、そのほかに

5.  マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置

も必要です。

それでは、上記の1〜5について、パワハラ、セクハラの場合と異なる部分について、以下で説明します。
全く同じ内容というわけではありませんので、少し注意しましょう。

【1.  方針の明確化、周知、啓発について】

方針の明確化、周知、啓発等を行うにあたり、パワハラ、セクハラの場合で必要な事項のほかに、次の2点も加える必要があります。

d 妊娠・出産等、育児休業等に関する否定的な言動が職場におけるマタハラ発生の原因や背景となり得ること

e 育児休業制度等の利用ができること

これらd、eについても、就業規則等で規定したり、社内報・ホームページに掲載したり、労働者に対する研修を行ったりなどして対応しましょう。

【2~4について】

2~4については、マタハラにおいてもパワハラ、セクハラと同じ内容です。上記で「パワハラ」と記載した部分を「マタハラ」に読み替えてください。

【5.  マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置について】

*業務体制を整備しましょう*

もし、従業員から「妊娠して休みが取れていいよなぁ。こっちはその分残業ばっかりなのに」などの発言が出るとしたら、その業務分配が偏っていることなどが背景に考えられます。
事業主は、業務の分配の適切性や効率化などについて検討し、実情に応じた措置を講じましょう。

4 まとめ ~各種ハラスメントに対する対応を適切に~

厚生労働省では、各種ハラスメントの相談窓口を一元化することが望まれるとしています。
必要な措置に関してはほとんどが重なるものですので、事業主としても、一元化した方が担当者教育、フローの整備等を行う上でも便宜的かつ実効的ですね。
各種ハラスメントの相談窓口、対応者を一元化した上で、適切な対応を採れるようにしておきましょう。


【執筆者】弁護士 吉江千夏  検事としての10年以上の経験を基に、不正対応やコンプライアンスなどに関するアドバイスを提供します。著作権関連の法律問題も対応いたします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?