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2022年はメタバース元年? 「化粧品業界のメタバースへの取り組み」

 2021年10月、フェイスブック(Facebook)社が社名をメタ(Meta)に変更したことで、「メタバース(Metaverse)」という言葉が市民権を得ることになりました。数年前から、フェイスブックに限らずマイクロソフト(Microsoft)やソニーといった企業はAR(Augmented Reality、拡張現実)/VR(Virtual Reality、仮想現実)領域に投資をしていましたし、世界的な大人気ゲームであるエピックゲームズ(Epic Games)のフォートナイト(Fortnite)では、既にアバター同士が3D仮想空間でコミュニケーションを取り合っていました。名前のない「リアルの世界ではない何か」における必要な要素が整いつつあった中で、「メタバース」という名前が市民権を得たことで、今後メタバース関連ビジネスが加速するための素地が整ったと思っています。

 本稿では化粧品業界を例に、現状どのような形でメタバースの検討が進んでいるのか、またメタバースに取り組む必要性があるのか、について考えてみたいと思います。

メタバースとは?

 メタバースとは、「多数の参加者が自由に行動できる、ネットワーク上に構築された仮想空間」のことです。コロナ禍で人との物理的な接触や交流が制限される中、この仮想空間で交流するメタバースへの注目が一段と高まり、投資家による関連銘柄への投資も活況を帯びています。
 
 体験したことがない人にはイマイチぴんと来ないかもしれませんが、「メタバース史上の転換点」とも評される下記イベント動画を見てみてください。2021年にラッパーのトラヴィス・スコット(Travis Scott)がゲーム、フォートナイト内で開催した「Astronomical」と名付けた音楽イベントで、累計2,700万人以上がアバターに扮してイベントへ参加しました。

 如何でしたでしょうか? 「凄い!」「興奮した!」という人もいるでしょうし、「ずっと前、Second Lifeで音楽コンサートはやっていたよ」、というような反応の方もいるかと思います。ただ、米Forbes誌の報道によれば、10分にも満たないバーチャル音楽イベントでしたが、商品販売も含めて約2000万USドル(約21億円)の売上があったとのこと。同アーティストのリアルコンサートの売上が、1公演あたり100万USドルに満たないとのことなので、いかに商業的な大成功を収めたかが分かるかと思います。

 なお、メタバースは、ゲーム以外にバーチャルリアリティ(VR)、ソーシャルメディア(SNS)、リモートワークの3つを加え、合わせて4つの側面を持つと言われています(図1)。

図1:メタバースの4つの側面(代表的な応用領域)

出所: 各サービスホームページ(図表はAAICに帰属)

 メタバースに詳しいベンチャーキャピタリストMatthew Ballによると、どの側面/サービスにも共通して下記の要素が存在するとしています。

  1. 永続的:止まったりリセットしたりしない

  2. リアルタイム:実世界と同様に出来事がリアルタイムで起きる

  3. 人数制限がない:参加者は自由にあらゆるイベントに参加できる

  4. 経済圏がある:価値を生み出した参加者も対価を得られる

  5. 異なる世界をまたぐ:「デジタルとリアル」「プライベートと公」など異なる世界をまたいだ体験が可能

  6. 一つのIDであらゆるサービスを使える:プラットフォームごとに異なるIDを設定する必要がない

  7. コンテンツ・体験の提供元が多様:一社が独占的にコンテンツを供給するのではなく、あらゆる参加者が貢献できる

 この中で、4点目に挙げられている「経済圏」ですが、利用料以外のモデルでどのように経済圏を作るかというと、最もポピュラーなのがアバターに関する商品販売です(図2)。前述のフォートナイトではスキン(コスチューム、約640〜1,600円)やエモート(ダンスなどアバターの動き、160〜640円)をゲーム内通貨V-BUCKSを通じて購入できますが、課金ユーザーは平均85USドルほどを費やしているそうです。

図2:ゲーム「フォートナイト」におけるアバターのデジタルスキン/エモートの例

出所: ビジネス+IT 「エピックゲームズとはいかなる企業か?ソニーも出資『フォートナイト』開発社の可能性」(図はAAICに帰属)

 アバターに対する商品販売のことを、直接消費者に販売するD2C(Direct-to-Consumer)に対し、D2A(Direct-to-Avatar)と呼ぶことがあり、既にグローバルのアパレルブランドが試験的にアバター向け洋服の販売を行っています(図3)。

図3:アパレルブランドのメタバースの取り組み例

出所:Forbes 「Is Direct to Avatar The Next Direct to Consumer?」(図はAAICに帰属)

化粧品業界でメタバース対応は進んでいるのか?

 アパレル以外で「外見を美しく見せる」産業といえば、化粧品業界が思いつきます。化粧品業界でのメタバース対応は進んでいるのでしょうか?

 メタバースを注力領域に置くことを発表しているブランドといえば、エスティ・ローダー(Estee Lauder)傘下のクリニーク(Clinique)があります。クリニークはオムニチャネルでの顧客との関わりを深めていくためにメタバースに注目し、主にバーチャルストアの開設、NFT*利用の2つの取り組みを進めています。バーチャルストア(図4)では、AIやAR技術を活用した新しい顧客体験を提供し、NFTについては、リワードプログラム登録者の中から抽選で3名にNFTが当たり、当選者は一定期間SNSでシェアすることが求められるなど、プロモーションやエンゲージメント向上のための活用方法となっています。バーチャルストアでは、参加者の自由な行き来や、提供される複数の体験を参加者自らが貢献できるような要素はなく、あくまで「3D仮想空間にオンラインショップを開設した」に過ぎませんが、試験的な最初の一歩を踏み出した事例と言えます。

* NFT: Non-Fungible Token ブロックチェーン上に記録される一意で代替不可能なデータ単位で、一般的に「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」のことを表す。デジタル仮想空間で直接的に扱えるもの(商品、作品など)として、メタバースとの相性がよい。

図4:クリニークのバーチャルストア

出所:Clinique Laboratoriesホームページ(図表はAAICに帰属)

 一方で、アバター活用に着目すると、資生堂傘下のナーズ(NARS Cosmetics)は3Dソーシャルアバターアプリ「ZEPETO」内でバーチャルメイクの販売を開始しています(図5)。人気商品のエアーマットコレクション(Air Matte Collection)を再現した全8種類のデジタルメイクを販売しており、メイクを着用したアバターがバーチャルフォトやビデオブースを体験できる仕組みを提供しています。

図5:ナーズの3Dソーシャルアバターアプリ「ZEPETO」

出所:ナーズウェブサイトなどをもとにAAICが作成(図表はAAICに帰属)

そもそもメタバースに取り組む必要はあるのか?

 上記の例のように化粧品業界のメタバースの取り組みはまだ始まったばかりですが、各社はメタバースに取り組む必要はあるのでしょうか? 下記などの理由から検討すべきかと考えています。

  • 「なりたい自分」を体現する一つの手段

  • 大手も参入し、今後確実に伸びる

  • リアルとバーチャルで、市場が倍になる/半々になる可能性

  • 従来の非ターゲット顧客が顧客になる(リアルな性別も嗜好も無関係)

  • 顧客との新たなタッチポイントとなる(リアルでの化粧品も売れる可能性)

  • 戦略上、Z世代やデジタルネイティブ世代を取り込む上で必須

  • 顧客とメーカーの位置づけの変化への対応(顧客も生産者/提供者となり得る)

  • デジタル上の新たなブランド戦略の検討のきっかけ

  • 在宅やバーチャル台頭におけるビューティー市場成長鈍化への中長期の対策

  • 化粧品と同様に利益率が高い など

 2022年はメタバース元年になると言われています。本稿が、化粧品業界に限らず、ぜひ各業界での取り組みを開始する一助になればと思います。

文章:AAIC パートナー 難波昇平
  *サムネイル画像:YouTube 「Travis Scott and Fortnite Present: Astronomical」



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