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桜の木の下に眠る君

 桜の木の下には死体が眠っているだなんていう。

 もとは梶井基次郎の小説の内容だ。しかし、桜の木があまりに美しいから不安になるだなんて、どんな繊細な心の持ち主何だろうと思う。

 そして、この桜の木。僕と大好きな彼女の思い出の桜。

——この下には君の死体が眠っている。

***

「昨日、隆と別れたの」
「え? 別に遠距離でもいいじゃん……あいつ、一途だから浮気なんてしないよ」と友達は笑う。
「わかってるよ、そんなの。でもさ、大分と東京って遠いじゃん。多分、大学も東京の方で通わないといけないから、もし数年後帰ってこれたとしても5,6年はかかるんだよ。隆、一途だからさ。他に好きな人ができても、多分我慢しちゃうから」
「そんなのさ……好き同士なのに」
「好きだからこそじゃない? 幸せになってもらいたいんだよ。ちゃんと隆とも話をしてわかってもらったから」と、私は微笑んだ。

***

 昨日、ゆかりと別れ話をした。
 僕のことを本当に考えてくれての決断だとわかっていたから、ちゃんと受け入れた。
 それでも多分これから先何度も君を思い出すんだろう。

 この時代に、と思う人も多いかもしれないけれど、僕は高校を出たら家業を継ぐからゆかりを追いかけることはできない。
 僕を悪者にしないために、ゆかりから別れを切り出してくれた。なんて、僕は弱いんだろうと思う。

 これから先、僕はゆかり以外の人と恋に落ちて、結婚をして、いつかは子どもを持つんだろう。
 それでもふとした瞬間に君を思い出すんだと思う。

 僕は君の死体を埋める。
 君という思い出をきれいなまま、思い出の桜の下に埋めてしまう。

 だから、きっとこの見事な花を咲かせる桜を見るたびに君を思い出す。

 君の思い出が眠る、君の墓標であるこの桜を見るたびに。

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