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線を消す。

光や陰、開口部などの設計の話が続いたので、ついでにもう一つ、、、空間全体の印象や雰囲気を決めるディティールのお話しをしようと思います。

建築の本などで「ディティールが、、、」という言葉がよく出てくるのですが、建築の勉強を始めた学生時代なんとなくわかったような気でいて、今思えば、しっかりと理解していたわけではありませんでした。ディティールという概念は、実際ある程度の実務をこなさないと理解をするのは少し難しいものかなと思います。

建築で言うディティールとは細部の納まりという意味です。神は細部に宿るという言葉がありますが、それだけディティールの設計はデザイン的にも大変重要な部分になります。

では、細部の納まりとはなんなのかというお話しをするのに、身近なところで壁と床や天井がぶつかる部分を例に挙げたいと思います。

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一般的には上記の断面図のように、壁と床がぶつかる部分では巾木、天井とぶつかる部分では廻縁と言う部材で納まっていることが多いと思います。

巾木は、壁をガードする役割があり、例えば掃除機のヘッド部分がガンガンと当たると長い時間をかけてその部分が黒ずんでしまうのを防いだり、病院や福祉施設などでは、車椅子のフットレストがあたって壁が汚れたり破損するのを防ぐため巾木の高さを高くすることもあります。

そういった機能的な役割がある部材でもありますが、それ以上に納まりという意味でも大きな役割を持った部材です。

例えば、壁に貼るボードが加工しづらいもので、ボードをまっすぐ綺麗に切ることができないと、右の絵のように床との間に隙間が生じてしまいます。これでは見てくれが悪いので、隙間を隠すように巾木をつけると綺麗に仕上げることができます。つまり、ボードをいい加減に貼ったとしても、巾木の部分で調整することができれば綺麗に見えるので、大工さんにとっては楽ができる納まりといえます。(だからと言っていい加減に貼っていると言うことではないです。)こういった施工誤差をどこかで許容できる納まりでないと現場の大工さんは苦労することになります。

もちろん大工さんもプロなのでボードを綺麗にピタッと納めることもできますが、一枚一枚綺麗に仕上げるために、丁寧に、慎重に、ボードを貼っていては時間がかかってしまい、極端なことを言えば、その手間は大工さんの労働時間となり、人件費となり、建て主のところへコストという形で跳ね返ってきます。

ディティールにおいてはデザイン性も重要ですが、仕上げに使う材料の特性を考慮した上で、施工性、機能性、メンテナンス性など多角的に検討する必要があります。

デザイン的な側面で見ると、巾木や廻縁以外にも空間の印象を大きく変えるのが扉などの周りについている木枠です。建具は動くものなので、枠がついていると可動するための機構をつけやすかったり、なにかと納まりが良く、一般的には見付け25mm程度のものがぐるっと四方ないし三方につきます。デザイン的に見ると枠がついていることで建具が縁取りされ強調されることになります。空間のなかで建具が強調されてもしょうがないので、この見付け部分の寸法を10や15にして薄くみせたり、枠をなくしモダンに見せたり、逆に30ぐらいにして太く見せるデザインも考えられます。

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巾木、廻縁、木枠のある空間とそれらが全くない空間を簡単にですが描いてみました。空間のアウトラインと窓枠の部分で縁取りのラインが消えてスッキリとシンプルな見た目になったと思います。

よく設計者の間でディティールに関して『線を消す』という言葉を使うときがあります。上図のような感覚で、図面上の線を消すようにディティールをシンプルなものにすることで、空間に現れる線を消しスッキリとモダンに見せようとするものです。

ディティールは壁や天井などの端部や異なる素材がぶつかる部分で必ず発生します。どちらの部材が勝つか、チリをどれくらいつけるか、連続させるか、分断するか、薄く軽く見せるか、厚く重厚に見せるか、シンプルにモダンに、など、空間の中のたくさんのディティールを、その空間をどのように見せたいかという設計者の意図の下にまとめあげることで、空間の印象や雰囲気を作り出すことができます。ディティールひとつひとつは、小さく些細なことですが、その積み重ねが、「この空間なんかいいな」に繋がります。

こういった視点を持って建築を見てみると面白いかもしれませんね。

以上、ディティールについてのお話でした。

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