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ひやおろし

金曜日だっていうのにお菓子が何もないじゃないかと気づいたのは、ランドセルを重そうに背中丸めて青息吐息の窓際サラリーマンのような子供が家に辿り着いてから。

おやつとは八(ヤツ)時に食べる食事で、甘いものを食べる習慣では無い。と何かの本で読んで以来、何となくお腹に溜まる軽食をと思って、おにぎりとか手作り白玉団子とかを提供するようにしている。いわゆる無添加至上主義と揶揄される部類に属していると思う。

仕方ない、酸素は生きるために必要だけど、酸素ボンベは火気厳禁。だって大炎上の火だるま上等。同様に息子に砂糖は控えめに。だって興奮しやすい子だから。

だから別にお菓子なんて無くても良かった。
「おにぎりお食べ」って言って、にぎにぎしても良かった。自分で禁止と決めておきながら一方で、がっくり肩落として帰った時に食べる甘いものの美味しさも、よくわかる。たとえそれが、麻薬中毒的な快楽だとしても、そこまで厳しくするのはどうかと思ってしまう。

そうやっていつも、厳しめのラインを引こうとしつつも、その反対側の優しさも必要よねと、子どもへの対応は一貫しない。両者で綱引きばかりを繰り返してる毎日だ。

結局のところ、一週間学校を頑張った自分に、お母さんが自分のために美味しいお菓子を用意してくれたら嬉しいよねと、優しさ側の優勢勝ち。子供に留守番させて、スーパーに買い物に行った。


アイスクリームにドーナツ。子供の好物はいろいろある。でもなんかチョコレートケーキでいいやと思った。

今週一日お休みしてる。

スプラ3で夜更かしさんの息子と、お酒飲んで早々と寝てしまって、夜中に気持ち悪くて目を覚まし、寝付けずに朝まで起きてたお母さんの組み合わせは、学校を休む一択だ。

だから普通のチョコレートケーキだ。特別じゃなくていい。市販の割には高級感あるやつ。緑のパッケージのガトーショコラみたいなそのお菓子はだいたい250円くらいだろうか。それくらいでちょうどいい、買って早く帰ろうと思った。


そのスーパーは私の住んでいる付近では、一番新しいスーパーだ。新しいから、支払いがセルフのレジがある。新しいから、日本酒だけを冷やしてる冷蔵コーナーが、日本酒コーナーに設けられている。地酒ばかりが置いてある。


今日は金曜日だ。

その響きだけでどことなく緊張がほぐれていく。

緊張がゆるゆるとほぐれ、身体が液状化し水溜まりになる。水溜まりにはきれいな夕日が映り込む。夏の入道雲が映り込む。誰かの小石で水面がゆれる。

それは美味しい日本酒を飲んで、まったりしているとき。


喉が渇いた。

ごくりと唾を飲み込む。

生まれ変わったら酵母菌になって美味しい日本酒を醸す側になろう。

そう思っている私が降ってわいた日本酒の誘惑を、週末に知らぬ存ぜぬで過ごすことは難しく、足はあっさりと日本酒コーナーに向いた。


秋。

夏には夏限定のお酒が出回り。

秋には秋でまたある。

アリの巣ころりのようにいろんな酒蔵のひやおろしが並んでいた。

300ml程の小瓶だ。一瓶だいたい600円前後。

最近寝る前にリンパドレナージュをしているので飲んでもむくみにくい。朝もすっきり起きれる。2本買っても大丈夫だよ。酵母菌がささやいた。

子供のためにと赴いたスーパーで300円に満たないお菓子をかって、ついでに自分のためにと1500円近くの出費をした。ミイラ取りがミイラになったわけではないけど、いやなったか。とにかく目的が逸脱してしまった。


家に帰って、チョコレートケーキを皿に盛りつける。三切れのせたら、「僕頑張ったから?」と大喜びしていた。「そうだよ」と言ってにっこりした。


子供の頃、大人はどうして、物を欲しがらないのだろうと不思議だった、お菓子コーナで、足を止めることもなく、アイスクリームにも知らん顔。大人はいつも子供のためにいろいろ我慢してると思っていた。



夕方、ごはんを作りながら早速ひやおろしを開ける。

お気に入りのぐい呑みに注ぐ。

週末のひやおろしは美味しかった。




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